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あぁ、ほら

夏が、終わる。

ゆっくりと木刀を下ろし、胃が空になるほど息を吐き出す。
そして深く息を吸って目を開ける。
手にした木刀で空を一閃。

「…休憩されてはいかがですか」

小十郎の声に張り詰めた空気を解いて、流れる汗を拭った。
小十郎は縁から庭に下り、手拭いを差し出してくる。
それを受け取る代わりに木刀を預けた。
背中から差す夕日の橙色に、
時間を忘れて木刀を振っていたのだと気が付いた。

「…小十郎?」

何も言わずに傍に立つ小十郎を見上げると、
その穏やかな瞳はずっと遠くに向けられていた。

「日が、短くなってきましたね」

小十郎の視線を追うと、そこには既に沈みかけている夕日があった。

「…そうだな、」

肌を撫でる風は冷たいものに変わり始めた。
気付かぬ間に夏が過ぎ、冬が来る。
奥州の冬は長い。
それは奥州から外に出て初めて知ったことだ。

「すぐに、また冬だ」

寒いのはあまり得意ではない(暑いのも苦手だが)、
でも冬は嫌いではない。
またいつものように季節が繰り返すだけ。
けれど夏の終わりに訪れる少し物悲しい感情は、
いくつになっても消えない。
宵に変わるほんの少しの間。
言葉を閉ざしてその景色を見ていたら、
不意に慣れた温もりが手を包み込んで。
見なくてもそれが何だか分かる。

「…ふっ、」

思わず笑みが零れたのは、
触れた指先から同じものを感じとったからだ。
沈む夕日一つに、妙に切なくなって。
普段なら人目につくような場所でこんなことをしない小十郎が、
小さく咳払いをした。

「…大丈夫だ、お前が、居る」

しっかりと手を握り返す。
この景色を見ているのは、一人ではないのだ。

傍に、小十郎がいる。

宵闇よ、一時でいい、この姿を隠してはくれまいか。

そう祈るように心の中で呟きながら、小十郎に寄りかかった。





※この後、「…くしっ、」と主のくしゃみで我に返った右目はそそくさと主を湯に入れたらしい。…過保護である。

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望むものは何だ、


その心の渇きを癒すものは何だ。

男は問う。
酷く愉しげに表情を歪ませて。
けれど知っている、男は愉しいわけではないのだ。
男にとってどんな答えも、
如何なる覚悟もとるに足らない些事なのだから。
何が答えでも構わないのだ。
それに自らの命が関わっていたとしても。

「かつて私にも些事に捉われていたことがある」

男は昔を思うような口振りで言った(その実、何も思っていない)。
抜き身の刀を軽く遊ばせながら悠然と歩く。
その姿はまるで場にそぐわない程で。

「私がこの手で殺めた最初のもの、あれはそれは奇麗な女だった」

男はそう言って少しだけ表情を曇らせた。
それは見た目には解らない程微かなものだったが。

「だが、時を経るにつれてそれは醜くなっていった」

その醜い女の顔に触れ、
初めて愛しいという気持ちになったものだ。
感触を思い出しているのか、軽く手を握り締めた。

「形あるものはいずれ朽ちる、だが形なきものも忘れられ消えていく」

それは卿の忠義もまた同じ。
丁寧な物言いが酷く神経を逆撫でする。
男は、毒と悪意で紡いだ言葉を吐き出している。
この世のすべての存在そのものを嘆くように、憐れむように。

「…だから、てめぇの傍には何もない」

いや、男の中にすら何もありはしないのだろう。

「だから、何だと言うんだね」

空であることを否定はしない。
だが男はそれを悪いとは思わない。

「“絆”、“縁”、…人とを繋ぐ言葉は多々あるが、その結果が今の状況を招いていることは明白だ」

それが足枷となり、絡み付いては緩やかに死へ手招く。

「只の忠義にしては、随分と厚いものだね」

男はまた愉しそうに喉を鳴らして笑う。
そして片手で遊ばせていた刀の切っ先で小十郎の喉を撫でる。

「卿は実に興味深い男だ、ここで殺すには惜しい」

「―――生憎と、此処で朽ちるつもりはねぇ」

物怖じしない視線。

「…ほぅ?」

「此処は、」

「テメェの墓場だ、松永久秀」

地獄に堕ちな!
小十郎の言葉を次ぐ声。
ビリビリと痛い空気が男の肌を撫でて、
何が起きたのか男は理解した。

「…そうか、」

卿はこの男を待っていたのか。
そう呟く男の表情は負ける予感を滲ませたものでも、
驚きや焦りを含んだものでもなかった。

「成る程、やはり…卿は人質として十分に有効であったということか」

自分の思ったことが間違っていなかったことに対する感嘆だけがそこにはあって。
竜の太刀を躱して男は小十郎と距離をとる。
小十郎は竜から渡された刀を抜き、竜の隣で刀を構えた。
男はそれを見て尚、目を細めて口元を歪ませる。

「地獄の業火の色はどれほどまでに、私の心を慰めてくれるだろうか」

そう呟いて男は刀を下ろした。


「屍は残さない…そう、決めているのだよ」


先に気が付いたのは小十郎だった。
咄嗟に竜を庇い男と距離をとる。
その後ろで劈くような爆発音がした。
男の影は文字通り跡形もなく。

…最も。

男にとってはそれすらもどうでもいい些事なのかもしれない。





※実に回りくどい物言いをしているせいか、男には確かなようで曖昧な印象がある。格好よく書きたいけど書くのは難しい、篝さんの偉大さを思い知った。

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自分の名を呼ぶ声。

口うるさくて小姑みたいだ。
幼い頃の優しい声が、まるで嘘みたいで。
 
 
 
※現代版蒼主従話。蒼→高校生、右目→社会人。なので右目は普通に蒼を年下扱い。その⑤。甘い。何となく続きは折りたたみ↓↓

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喧嘩をしているのかと思えば、

それは完全に自分だけで。
いつもそれが少し悔しい。




※現代版蒼主従話。蒼→高校生、右目→社会人。なので右目は普通に蒼を年下扱い。その④。何となく続きは折りたたみ↓↓

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これが何なのか、

もう薄々感付いている。
この、痛みは。

「泣いてもダメ」

その視線が逃がしてくれない。

「…旦那、ね、口、開けて?」

その声があまりにも優しくて。



※珍しく紅主従の話。続きは折りたたみ↓↓

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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