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レインドロップ。


軒先にかけられた風鈴を外して手に取った。
晴天の続いていた空は、珍しく泣きそうな表情をしていた。
手で持っている風鈴が風に涼やかな音を立てて。
一刻、外の景色から目を離した隙についに空は涙を落としていた。
縁の端まで歩いて、風鈴を逆さにするとそのまま雨の降り出した外に晒す。
雨は、小さな音を立てて風鈴の中に落ちていく。
吸い寄せられるように風鈴の中に落ちていく雨と、目測を誤って腕に指に落ちる雨と。

「…政宗様?」

ぼんやりして近づいていた足音に気がつかなかった。
気付いて視線を遣ると、小十郎はすぐ傍までやってきていた。
不意によろけた腕をしっかりと小十郎が掴んで。

「…何をなさっているんですか?」

穏やかな声で問う。
手にしているものをみれば、それが風鈴であることは一目瞭然だ。

「雨が…降ってきたからな、」

自分でも何故こんなことをしているのかはよく分からなかった。
その時、一際大きな雨粒が薄く水のたまた風鈴の中に落ちた。
水を打った音色が響いて。
雨ですっかり喧騒は息を潜めて、小さいはずのその音は心地良く鼓膜を揺らすのには十分だった。

「…綺麗な音ですね、」

そう、小十郎が笑う。

「…だろ?」

つられるように笑って、伸ばしていた手を引く。
小十郎はすぐに濡れた腕を拭って、風鈴に溜まった水を縁の外に捨てた。
そして水の滴る風鈴を元に戻す。
風に煽られた風鈴は再び涼やかな音色を奏でた。






※ある雨の日の蒼主従の話。静かに時間が流れる心地良さもあるってことで。

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アンタは憶えてるか?


互いに意気がってたことを。

忍は木に寄り掛かり、反応を窺うように言った。

「それで互いに敗戦の将からリスタートなんて笑い話だな、」
互いに、が指すのは自分と忍が仕える主のこと。
病床の虎が息絶えた知らせと共にこの忍が奥州にもたらしたのは、
代わって紅が総大将になったという旨だった。
かねてから決着がつかぬまま、
互いの状況は再び合間見えることを許さず現在に至る。
「こんなところで油売ってるたァ、随分と余裕じゃねぇか」
「戻ると仕事が立て込んでて疲れちゃうんだよねェ」
一国の主と一軍の将の立場は、
互いに一国の主同士既に対等になった。

(端から手合せに立場の違いなんざ関係なかったけどな)

「…ま、俺様なんかよりも旦那の方が大変なんだけどね」
まだまだ上に立つには幼いよ、
と忍は屈んで頬杖をつく。
さて、自分がこの立場に就いたのはいくつの時だったろうか。
「…だからこそのてめぇじゃねぇのか、」
「残念、俺様は右目じゃない、忍なんだなぁこれが」
奥州に忍は居ないから詳しくは解らないが、
忍はあくまでも主を守り支える者。
政務に口を出すことはない。
だが。
「ただ…幼いかどうかは、てめぇが決めることじゃねぇな、」
続きを促すように向けられる視線。

「一国の主ってのは民が決めるもんだ、」

民の力が協力が信頼がなければ国は治まらない。
それをよく知っている。
「…それで、アンタはそこに立ってるのか?」
「そうだ……と思いてぇな」
言ってくしゃりと頭を掻いた。
忍は、そうか、と頷いただけだった。
「アンタ、前の敗戦で地に墜ちたなんて言われてるみたいじゃないか」
それは以前から気が付いている。
だから、からかうような忍の声に、
「地に墜ちた…?」
嘲笑う。
そんなふざけたことを口にした連中に対しても。
この竜を侮る者すべてに。
「NO!降りてきてやったのさ!」
何があっても地上に留めてくれる腕があるから。
何が起ころうと天に送ってくれる腕があるから。

「これでようやく対等だ、」

二度とこんな思いをする気はない。
そう思えるだけでも、敗戦に意味はあった。
それは紅とて同じはずだ。

(背負うものが増えたなら尚更な、)

「真田の忍、てめぇの主に伝えろ、」
背をむけ去ろうとする忍に言葉を投げる。



「俺たちの天下獲り最後の相手はてめぇだ、真田幸村」






※3公式を見てぽちぽち。敗戦の将からリスタートなんて萌。竜は天下を賭けた最後の戦の相手は幸村がいいと思ってたらいい。

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隙間から差し込む日の光りが、


優しく鈍い頭を起こしてくれる。
心地良い眠気を引きずりながら、ゆっくりと。



※昨日のオマケ的な蒼主従(+伊達軍)の話。なんだか甘いのが続くな。恥ずかしいから今回は折りたたみ↓↓

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触れそうになった口唇に、


ゆっくりと目を開けて問う。
てめぇにその覚悟はあるか?と。

「ねぇ、独眼竜、俺様にある覚悟はひとつだけだよ、知ってるくせに」

忍は口唇を寄せたまま笑う。

「知ってて言ってるに決まってんだろ、バーカ」

口許を歪ませて笑えば、結局忍の口唇は触れることなく離れていった。
右目に向かって何かをしている背中を眺めてからまた目を閉じる。
肌を撫でる風はいよいよ冷たくなって。だってそれは傍に体温がないから。
狸寝入りのつもりが本当に意識が攫われていく。
意識を緩やかに掬い上げたのは手に触れた熱。
漸く落ち着いたのかと呆れながら瞼を上げれば、未だ腑に落ちない表情を残した右目と目が合って。
それだけで機嫌は悪くなかった。

「…なんて面してんだよ、小十郎」

笑って頬を撫でたら、少しだけその表情が和らいだ気がした。
「ここに居ては風邪を召されます」
促されたがそう簡単に起きるつもりはなかった。
それは普段感情的にならないこの男のいつもと違う表情をもっとみたいなんていう欲で。

(俺にしかしない、見せない、小十郎の表情…)

それは自分だけが知る表情なんだと思いたくて。

(…なんて、口にしてやらねぇけど)

だから応える代わりに、まるで抱っこを強請る子どものように腕を伸ばす。
「起きれねぇ、」
右目の反応をひとつも逃すまいとして。
「政宗様、」
「お前が連れてけ、俺の寝床に」
すると右目は困ったような表情をして。
「政宗様、そのようなことを」
「お前じゃなきゃ、俺は動かない」
ふざけているわけじゃないと、落ち着いた声で言えば、
右目は少し思案してから背中と膝裏に手を差し入れた。
手をしっかりと首に絡めて、強かな腕にすべてを委ねた。
幼い頃からこうしたことは多く、抱っこされているのは珍しいことではない。
廊下で女中たちが微笑ましく見送るのに笑みを返した
(それからすぐに小十郎が咳払いして、女中たちは慌てて去っていった)。
そうして座敷に近づいたところで不意に右目が口を開いた。

「…気付いておいでか、」

そんな呟くような言葉にゆっくりと間を置いて応える。

「どれだけ一緒に居ると思ってんだ」

その言葉に右目はただ苦笑した。
座敷について閉じた襖を足で開けたら、おとなしくしてください、と窘められたから知らん顔をした。
布団の上にそっと身体を下ろされたが、首に回した腕は解かなかった。
「政宗様、手を」

「このまま行くのか?何もせずに、」

右目が動きを止める。
いつもだったらこんなことを言えば、呆れた声で小言がすぐに返ってくる。
だが本当に必要としている時はちゃんと気付く。
殊の外この右目は自分には鋭い
(そんなことを言おうもんなら、それこそどれだけ一緒に居るとお思いかなどと言われるに決まっている)。
それに加えて縁での一件。
また冷静な表情の内側で暴れだしそうな感情を抑えこんでいるのだろうか。

(…そんな必要がどこにある…)

「なァ、小十郎」

しっかりと目を合わせると、少しの躊躇いの後優しい接吻が与えられた。
離れたはずの腕がしっかりと身体を包み込んで。
くしゃくしゃと右目の髪を撫でたら、何も言わずに額を合わせてきた。


「右目を気遣うのは主の役目だからな」


と笑って言えば、右目は困ったように笑った。







※昨日の反動か甘甘。右目がすごいヘタレに見えるのは気のせい…ではない(爆)

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行き場のない感情は、


心の中に沈殿するだけで。
その思いを吐き出す方法は知らない(知ってはならない)。
いつか吐き出してしまうから。

最近頻繁に現れる忍の存在には気付いていた。
菜園の話もしたし、
武田以外の動きを情報交換出来たのはかなりの成果だ。
常に動けるよう体制は整えているものの、
奥州は諜報部隊に欠ける。
今のところその穴埋めをしてもらっているような状態なのは確かだ。
そういう意味で無下にすることも出来ないが、
無論馴れ合うつもりはかけらもない。
当の主人は忍の口から上田の紅の話を楽しみにしているようだが。
「…アハハ、残念こっちでしたー」
「てめ、すり替えてねぇだろうな?」
「まさかー」
楽しげな声に見遣れば、
縁で主人と忍が何かをしているようだった。
「小十郎、ちょっと来い」
主人の手招きに近づくと、
どうやらビー玉を隠した手を当てるゲームをしているらしい。
「ありゃ、野性のカンてやつかね、」
「ん、」
差し出された両手の右を指す。
開いた手には何もない。
「団子がかかると、絶対に旦那は外さないんだよ」
忍は楽しそうに笑いながら、また両手を差し出す。
「団子ににつられるってのは何ともあいつらしいな」
主人はまた右を指した。
「でしょー?ハズレ」
開いた手にはやはりビー玉はない。
眉間に皺を寄せていく主人を横目にひっそりと笑った。
「お前はどっちだと思う?」
主人の視線を受け、両手を見、右の手を軽く叩く。
「…あちゃあ…」
右手からビー玉がこぼれ落ちた。

「…greatじゃねぇか」

口笛で上機嫌な主人に笑みを返して答えるように軽く会釈をする。
「さて、まだ仕事がありますゆえ」
「おう、」
その場を離れようと顔を上げると忍と目が合って。
忍は含みのある笑みをしていた。

日が傾いで縁を通りかかるとそこに眠る主人の姿を見つけた。
その姿に足を踏み出そうとした時、黒い影が過って。
忍は自分に背を向けて縁に腰掛けるとそのまま背を曲げた。
それはまるで。
脚は根を張ったように固まって、
その光景から目が離せなくなる。
忍は。
顔を上げ最初から気付いていたとばかりに振り返り、
口唇に人差し指を当て笑った。
そしてそのまま訪れる闇に姿をくらませた。

「…猿飛…」

不愉快なのを何一つ隠すことなく、
その背中が消えた方をただ睨んだ。
拳をにぎる。
暴れだしそうな行き場のない感情を押さえ込むまで、
主人には触れられない。
必死で落ち着かせるように深く空気を吸い込んだ。





※知ってて離さない被害は無論右目も被っている。…今日も酷いな…orz

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
41
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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