monocube
monoには秘めたイロがある。
見えないだけでそこに在る。
数え切れないそれは、やがて絡まり色彩(イロ)になる。
さぁ、箱をあけてごらん。
箱庭(ナカ)は昏(クラ)く底なしの闇色(モノクロ)。
深い闇に融けたらいいのに。
日々の戯言寄せ集め。
当サイトは作者の気まぐれにより、自由気ままに書きなぐった不親切極まりない戯言の箱庭です。
ニッケルキリ番「8018」のお題
またまた、鈴雅さんより、キリリクです(笑)
順番無視ってのは置いといて…
順番無視ってのは置いといて…
「…泣くなよ、雲雀…」
誰よりも優しいその人は。
「泣いてるのは君だろ?」
誰よりも泣き虫で。
誰よりも泣くことを知らない人。
『ただ切に幸せを願う人』
部屋に戻るとソファを占領する「それ」に、小さくため息をついた。ぐったりとでかい身体をソファに沈めている。身じろぎ一つしないが、寝息は聞こえない。眠ってはいないのだろう。
「…何やってるの、」
ソファに近づいて素っ気なく問うと、山本は閉じていた瞼をゆっくりと上げた。
「…ぁ、おかえり」
起き上がろうとしたが、力が出ないのか少し上体を起こしてまたすぐにソファに沈んだ。
「徹夜した…」
雲雀はネクタイを緩めて引き抜いて、ジャケットを脱いだ。
「昨日の仕事は夜じゃなかっただろ」
「報告書終わらなくて、寝てねーの」
その言葉に雲雀はシャツを脱ぎかけたところで手を止めて山本に視線を向ける。
「ムラムラするからヤメテ~」
雲雀を見る山本にシャツを投げつけた。
「報告書くらいで徹夜なんて馬鹿じゃないの」
呆れ顔で言うと、キッチンに入り冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
「雲雀みたいに得意じゃねーんだよ、俺は」
「あぁ、キミ馬鹿だもんね」
拗ねたような声に雲雀は容赦なく返事を返す。すると返ってきたのは沈黙。雲雀は一瞬手を止めたが、すぐにミネラルウォーターをグラスに注いだ。部屋は注ぎ入れる水音が聞こえるくらいに静かで。
「自分が何をしたのかも分かってる」
ぽつりと。
「―――書くことも、書かなきゃいけないことも分かってる、」
それはまるで。
「反芻する度に、たくさん殺した顔も死んでいった顔も思い出す」
独り言のように。
「苦しいって、死にたくないって顔を、思い出す」
雲雀はグラスのミネラルウォーターを一口嚥下した。
「…当然だろ、僕らがしているのは綺麗なことじゃない」
それが嫌だと言うなら、此処を離れるほかない。此処に居る、それはその代償なのだから。雲雀は山本がそれを理解できないほど馬鹿だとは思っていない。
「…でも、俺の居ないところでみんなが傷つくのは嫌なんだ」
くしゃりと山本が頭を掻く。
「…って、矛盾してんだけど」
「まぁ、甘チャンなキミらしいけどね」
山本の苦笑に、雲雀はキッチンを出て山本に近付く。
「ツナもこんな気持ちだったのかな」
雲雀は俯いて答えなかった。
「…泣くなよ、雲雀…」
「泣いてるのはキミだろ?」
雲雀はやはり呆れた表情で山本を見、小さくため息をつく。
「僕らは人間の上に立ってるんだよ(幹部と言うだけで何千何万の上に)、それに今のこの場所は敵の死の上に立ってることにもなる」
雲雀の言葉を聞きながら、ソファに倒れたまま山本は腕で顔を隠す。
(…甘い、のは優しいからで)
その傍らに雲雀は膝をついた。その気配を感じ取って、山本が少しだけ腕を退ける。その眦に雲雀はキスを落とした。
「君は、泣くことを覚えた方がいい」
ぽつりと呟く雲雀を呆然と山本は見上げる。
「もう、張り詰める理由はないでしょ?」
雲雀の言葉に、山本の脳裏を様々なことが過ぎった。色んなことを思い出しているのだと雲雀は思った。今まで深く立ち入ったことはなかったが、母親が死んでいることは知っているし、堪えてきたことはたくさんあったのだろう。一つに執着することのない性格もそれに起因しているのかもしれない。周りに気を使ったり我慢したり。それに慣れすぎているように思えて。
「…少なくとも僕の前では」
雲雀の言葉はいつでも容赦なく率直だ。山本はその言葉に、触れた指先に安堵する。気を抜いたら泣き笑いになった。
それを見て雲雀は山本の額に優しいキスをした。
「雲雀、お風呂入ろ」
雲雀は仕方ない、とでも言うように溜め息を吐いた。
それから二人は一緒にお風呂に入った。雲雀は風呂が狭いとだけ文句を言い、それ以外は黙認した。落ち込んでいるのを刺激したら厄介だとよく理解っていたからだが。雲雀は山本を抱きしめたまま眠った。人の温もりが優しいことを、雲雀は山本に教えてもらったから。だから、そうするべきだと思った。
「…キミは、それでいいよ」
些細なことで心を痛めて、落ち込んで。そしてその度に泣けばいい。死して泣くことのできなかった誰かの為に。
「…それで」
抱きしめる腕に少しだけ力を込めて、雲雀はゆっくりと目を伏せた。
誰よりも優しいその人は。
「泣いてるのは君だろ?」
誰よりも泣き虫で。
誰よりも泣くことを知らない人。
『ただ切に幸せを願う人』
部屋に戻るとソファを占領する「それ」に、小さくため息をついた。ぐったりとでかい身体をソファに沈めている。身じろぎ一つしないが、寝息は聞こえない。眠ってはいないのだろう。
「…何やってるの、」
ソファに近づいて素っ気なく問うと、山本は閉じていた瞼をゆっくりと上げた。
「…ぁ、おかえり」
起き上がろうとしたが、力が出ないのか少し上体を起こしてまたすぐにソファに沈んだ。
「徹夜した…」
雲雀はネクタイを緩めて引き抜いて、ジャケットを脱いだ。
「昨日の仕事は夜じゃなかっただろ」
「報告書終わらなくて、寝てねーの」
その言葉に雲雀はシャツを脱ぎかけたところで手を止めて山本に視線を向ける。
「ムラムラするからヤメテ~」
雲雀を見る山本にシャツを投げつけた。
「報告書くらいで徹夜なんて馬鹿じゃないの」
呆れ顔で言うと、キッチンに入り冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
「雲雀みたいに得意じゃねーんだよ、俺は」
「あぁ、キミ馬鹿だもんね」
拗ねたような声に雲雀は容赦なく返事を返す。すると返ってきたのは沈黙。雲雀は一瞬手を止めたが、すぐにミネラルウォーターをグラスに注いだ。部屋は注ぎ入れる水音が聞こえるくらいに静かで。
「自分が何をしたのかも分かってる」
ぽつりと。
「―――書くことも、書かなきゃいけないことも分かってる、」
それはまるで。
「反芻する度に、たくさん殺した顔も死んでいった顔も思い出す」
独り言のように。
「苦しいって、死にたくないって顔を、思い出す」
雲雀はグラスのミネラルウォーターを一口嚥下した。
「…当然だろ、僕らがしているのは綺麗なことじゃない」
それが嫌だと言うなら、此処を離れるほかない。此処に居る、それはその代償なのだから。雲雀は山本がそれを理解できないほど馬鹿だとは思っていない。
「…でも、俺の居ないところでみんなが傷つくのは嫌なんだ」
くしゃりと山本が頭を掻く。
「…って、矛盾してんだけど」
「まぁ、甘チャンなキミらしいけどね」
山本の苦笑に、雲雀はキッチンを出て山本に近付く。
「ツナもこんな気持ちだったのかな」
雲雀は俯いて答えなかった。
「…泣くなよ、雲雀…」
「泣いてるのはキミだろ?」
雲雀はやはり呆れた表情で山本を見、小さくため息をつく。
「僕らは人間の上に立ってるんだよ(幹部と言うだけで何千何万の上に)、それに今のこの場所は敵の死の上に立ってることにもなる」
雲雀の言葉を聞きながら、ソファに倒れたまま山本は腕で顔を隠す。
(…甘い、のは優しいからで)
その傍らに雲雀は膝をついた。その気配を感じ取って、山本が少しだけ腕を退ける。その眦に雲雀はキスを落とした。
「君は、泣くことを覚えた方がいい」
ぽつりと呟く雲雀を呆然と山本は見上げる。
「もう、張り詰める理由はないでしょ?」
雲雀の言葉に、山本の脳裏を様々なことが過ぎった。色んなことを思い出しているのだと雲雀は思った。今まで深く立ち入ったことはなかったが、母親が死んでいることは知っているし、堪えてきたことはたくさんあったのだろう。一つに執着することのない性格もそれに起因しているのかもしれない。周りに気を使ったり我慢したり。それに慣れすぎているように思えて。
「…少なくとも僕の前では」
雲雀の言葉はいつでも容赦なく率直だ。山本はその言葉に、触れた指先に安堵する。気を抜いたら泣き笑いになった。
それを見て雲雀は山本の額に優しいキスをした。
「雲雀、お風呂入ろ」
雲雀は仕方ない、とでも言うように溜め息を吐いた。
それから二人は一緒にお風呂に入った。雲雀は風呂が狭いとだけ文句を言い、それ以外は黙認した。落ち込んでいるのを刺激したら厄介だとよく理解っていたからだが。雲雀は山本を抱きしめたまま眠った。人の温もりが優しいことを、雲雀は山本に教えてもらったから。だから、そうするべきだと思った。
「…キミは、それでいいよ」
些細なことで心を痛めて、落ち込んで。そしてその度に泣けばいい。死して泣くことのできなかった誰かの為に。
「…それで」
抱きしめる腕に少しだけ力を込めて、雲雀はゆっくりと目を伏せた。
ニッケルキリ番「8059」のお題
鈴雅さんより、キリリクです。
順番無視ですが…
●ボーン系のキリ番にはめっぽう強い彼女…
「あっはははっ…」
半泣きになりながら山本が笑う。
「お前、他人事だと思って…」
不機嫌になる声に、
「はーい、動くなよー」
軽くキスで宥めて。
息をするように当たり前な、
この優しい時間が、
このままずっと続くように。
『呼吸』
「随分伸びたのな」
山本はソファで本を読んでいる獄寺の髪に触れる。跳ねたりしているが、癖がつきやすいだけで髪質は柔らかい。
「ここしばらくは時間とれなかったもんな」
まるで猫でも撫でているような感覚に、山本の表情はほころんだ。
その手を退かすわけでもなく、雑誌に目を落とす獄寺の耳にかける髪が少し邪魔なような仕種。
「…少し切ってやろうか?」
「あー…そうだな、」
山本の言葉に獄寺は頷いて雑誌を閉じた。
いつからか山本に髪を切ってもらうようになった。いくら冗談とは言え、髪を梳いてやろうかと時雨金時を出した時はグーで殴ってやったが。基本的に遺伝もあるのか山本は手先が器用だ。要領もいいからある程度は平均並にこなしてしまう。だが、任せる理由はそれだけではなく。
(…すげぇ気持ちいいんだよな、)
山本に髪を触られるのが心地良くて安心してしまう。そんな獄寺に山本も優しく笑うから反則だ。
「獄寺の髪って、柔くて綺麗だよな」
軽快に鋏を扱いながら、山本が笑う。
「なんだよ、今更……あ"、」
呆れたような声で言ったかと思うと、急に獄寺が顔をしかめる。
「あ"、」という言葉に反応した山本は、一旦手を止めて獄寺の表情を覗き込む。
「何?どうした?」
「ヤなこと思い出した…」
しかめっ面のまま、山本に手を動かせと催促する。山本はまた鋏を動かし始めた。軽快な音が心地よい中で、嫌なものを吐き出すように獄寺が口を開く。
「この間の潜入の時な、」
ついこの間のこと。
いつもなら多くても二人なのだが、ボンゴレ幹部総出で一つの任務を行った。つい最近台頭してきた巨大なカジノ。裏取引も堂々と行われているその場所に獄寺たちは潜入した。
「あぁ、結構楽しかったな」
山本はカジノのディーラーとしてターゲットが好きなカードゲームの相手を、獄寺は遠巻きにターゲットを尾行していた。あの馬鹿正直だった山本が、あれほどまでに鮮やかに且つスマートにイカサマをしているのに獄寺は正直驚いたのだが。
「お前とヤツが楽しく遊んでる間に声掛けられたんだよ」
そのセリフに、山本は一瞬手を止めまた作業に戻る。
「ふーん…」
素っ気無い返答に獄寺は楽しそうに笑う。
「妬くなよ、」
「別に?だってそいつはこんな事出来ないんだろ?」
そう言って耳を甘噛みした。
「やっ…めろ、バカっ」
「それで?」
山本がそう促すと、獄寺は話を続ける。
「その相手がヤツが引き連れてたボディガードで、」
あの時、正体がばれたのかと本気で焦ったのだ。
「普通にナンパされた」
「ぶっ…」
それを聞いて山本は吹いた。
「あの時、獄寺髪結ってなかったもんな」
大抵は邪魔だからとあげているのだが、綱吉から下ろした方がいいよと何とかの一声。結局獄寺は髪を下ろして行ったのだ。
「しかも俺が男だって言ったら、解ってて声掛けてきやがってんだ」
まぁ、そうだろうな。山本は内心思った。当の獄寺は話している内に怒りが戻ってきたらしい。そんな様子に、山本は手を止めて笑った。
「あっはははっ…」
半泣きになりながら山本が笑う。
「お前、他人事だと思って…」
不機嫌になる声に、
「はーい、動くなよー…くくっ…」
笑いを抑えた山本は振り返る獄寺に触れるだけのキスをして、前を向かせる。
「マジ、お前死ね」
容赦ない言葉に、ただ山本は穏やかに笑うだけ。
「なぁ、コレ終わったら買い物行かねー?」
獄寺は壁の時計を見る。夕飯の買出しにはまだ早い時間だ。
「何しに、」
「ピアス、探しに行こう」
「は?」
また動こうとするのをやんわりと止めて。
「獄寺に似合いそうなのをさ」
あまりに楽しそうに口にするから。獄寺は口を開いたものの、言葉を口にはしなかった。
軽快な鋏の音。
時折混じる鼻歌。
「…音痴だな、お前」
獄寺が笑う。つられて山本も笑う。
「よし、じゃ髪洗って来い!」
掛けた布を取って、山本は獄寺の背中を押す。
「命令すんな、」
獄寺は山本を軽く叩いて、バスルームへ歩いて行った。
「あ、それとも俺が洗ってやろうかー?」
「余計なお世話だっ」
声を張って投げた山本の言葉は一刀両断。山本はまた肩を震わせて笑った。鋏をしまって、散らばった銀糸を片付ける。そうしてドライヤーを取り出して、熱風の熱さを確かめる。あんまり暑いとまた不機嫌な表情で文句を言うから。
呼吸をするように必要不可欠な、この優しい時間が、ずっと続きますように。
山本は、獄寺を待つ間に心の中で祈った。
獄寺は唐突に買い物へ誘った山本の真意をはかりかねていた。というのも、山本自身本当に何も考えていないかもしれないからだ。ご機嫌とりが必要なほど、獄寺は機嫌が悪いわけでもない。だが、
「…まぁ、悪くはねぇよな」
獄寺自身のんびりとした時間を過ごすのは悪くないと思っている。男二人の奇妙な買い物。ふと目に留まった店のガラスに映る自分。髪が随分さっぱりした。隠れていた耳も見える。
(…あ…)
だから、山本は買い物に誘ったのではなかろうか。気に入って付けているピアスに触れる。
「イイモノ見つかった?」
後ろに立つ山本をガラス越しに見てから振り返る。すると、山本はじっとガラスを見ていて。真剣な横顔に一瞬見惚れたのは秘密だ。
「やま、」
「武、だろ?」
「なっ、」
悪戯に山本は笑って獄寺の手を引くとその店に入った。
「―――…すか?」
獄寺から離れたところで山本は店員と話をしている。内容は聞こえないが、店員が申し訳なさそうにしている。
「なぁ、」
声をかけると山本は嬉しそうに笑った。
「イイモノ見つけたよ」
獄寺の知らぬまま山本は会計を済ませてまた獄寺の手を引くと、そのまま店を出た。
さっきの店の小さな手提げを片手に、ご機嫌な山本。広い公園を横切って、お気に入りのオープンカフェへ。
「…変な感じだな、」
獄寺の呟きに山本が振り返る。
「デートしてるみてーだ」
その言葉に山本は一瞬キョトンとしてから苦笑。
「あー…一応、デートしてるつもりなんだけど」
「…あ、そ」
獄寺は山本から視線を逸らして逃げた。その仕草に山本はまた優しく笑った。
カフェラテとエスプレッソを頼んでひと息。夕暮れにはまだ早いが涼しさを帯びた風。穏やかな午後。
「あ、これ」
山本が手提げから出した小さな箱。
「結婚申し込むみたいに開けた方がいい?」
山本が笑い、獄寺は「バーカ」と言いながらその箱を受け取る。入っていたのはシンプルなデザインのピアス。
「それさ、光りの加減で青と碧になんの」
"俺たちの色だろ?"なんて恥ずかしげもなく言われて、逆に反応に困る。
「本トはお揃いにしようと思ったんだけど、」
ウィンドウ越しに見たそれは、現品限りでたった一つだけ。
「でも、どうしてもこれつけて欲しかったからさ」
運ばれてきたカフェラテとエスプレッソ。エスプレッソを口にする山本に、獄寺は呆れたような眼差しを向ける。
「本トお前って…」
「ん?」
「…卑怯者、」
目を丸くする山本を無視して片方のピアスを取ると、そのまま山本の耳に付けた。今つけているピアスには申し訳ないが。
「獄寺?」
「隼人、だろ」
そしてもう一つを自分の耳につけようとする。
「待って、」
山本は獄寺の手からピアスを取ると、それを耳につけた。見上げると山本が優しい目で笑う。名残惜しそうに獄寺の髪を軽く指で梳いて。
「…うん、やっぱ似合う」
獄寺はにやりと笑った。
「…お前が言うんなら、間違いないんだろうな」
山本は「そのセリフは反則だ」と額を押さえ、その様子に笑う。
「なぁ、これって指輪はめ合ったみたいじゃねぇ?」
あっ、と気づいたように山本が言い、
「調子に乗んな、バーカ」
それをはねのけるように獄寺はカフェラテを口にした。珍しく甘いのが飲みたくて頼んだカフェラテ。
「…甘…」
きっとブラックを頼んでもそう感じたに違いない。カフェラテの選択は失敗した。
視線を上げるとそこには山本が居て。
まとわりつくような硝煙も、消えない赤と鉄の匂いもなくて。
ただ穏やかな風と、
心地よい空気と、
二人が居るこの時間が、
ずっと続きますように。
獄寺は、そっと目を伏せて祈った。
順番無視ですが…
●ボーン系のキリ番にはめっぽう強い彼女…
「あっはははっ…」
半泣きになりながら山本が笑う。
「お前、他人事だと思って…」
不機嫌になる声に、
「はーい、動くなよー」
軽くキスで宥めて。
息をするように当たり前な、
この優しい時間が、
このままずっと続くように。
『呼吸』
「随分伸びたのな」
山本はソファで本を読んでいる獄寺の髪に触れる。跳ねたりしているが、癖がつきやすいだけで髪質は柔らかい。
「ここしばらくは時間とれなかったもんな」
まるで猫でも撫でているような感覚に、山本の表情はほころんだ。
その手を退かすわけでもなく、雑誌に目を落とす獄寺の耳にかける髪が少し邪魔なような仕種。
「…少し切ってやろうか?」
「あー…そうだな、」
山本の言葉に獄寺は頷いて雑誌を閉じた。
いつからか山本に髪を切ってもらうようになった。いくら冗談とは言え、髪を梳いてやろうかと時雨金時を出した時はグーで殴ってやったが。基本的に遺伝もあるのか山本は手先が器用だ。要領もいいからある程度は平均並にこなしてしまう。だが、任せる理由はそれだけではなく。
(…すげぇ気持ちいいんだよな、)
山本に髪を触られるのが心地良くて安心してしまう。そんな獄寺に山本も優しく笑うから反則だ。
「獄寺の髪って、柔くて綺麗だよな」
軽快に鋏を扱いながら、山本が笑う。
「なんだよ、今更……あ"、」
呆れたような声で言ったかと思うと、急に獄寺が顔をしかめる。
「あ"、」という言葉に反応した山本は、一旦手を止めて獄寺の表情を覗き込む。
「何?どうした?」
「ヤなこと思い出した…」
しかめっ面のまま、山本に手を動かせと催促する。山本はまた鋏を動かし始めた。軽快な音が心地よい中で、嫌なものを吐き出すように獄寺が口を開く。
「この間の潜入の時な、」
ついこの間のこと。
いつもなら多くても二人なのだが、ボンゴレ幹部総出で一つの任務を行った。つい最近台頭してきた巨大なカジノ。裏取引も堂々と行われているその場所に獄寺たちは潜入した。
「あぁ、結構楽しかったな」
山本はカジノのディーラーとしてターゲットが好きなカードゲームの相手を、獄寺は遠巻きにターゲットを尾行していた。あの馬鹿正直だった山本が、あれほどまでに鮮やかに且つスマートにイカサマをしているのに獄寺は正直驚いたのだが。
「お前とヤツが楽しく遊んでる間に声掛けられたんだよ」
そのセリフに、山本は一瞬手を止めまた作業に戻る。
「ふーん…」
素っ気無い返答に獄寺は楽しそうに笑う。
「妬くなよ、」
「別に?だってそいつはこんな事出来ないんだろ?」
そう言って耳を甘噛みした。
「やっ…めろ、バカっ」
「それで?」
山本がそう促すと、獄寺は話を続ける。
「その相手がヤツが引き連れてたボディガードで、」
あの時、正体がばれたのかと本気で焦ったのだ。
「普通にナンパされた」
「ぶっ…」
それを聞いて山本は吹いた。
「あの時、獄寺髪結ってなかったもんな」
大抵は邪魔だからとあげているのだが、綱吉から下ろした方がいいよと何とかの一声。結局獄寺は髪を下ろして行ったのだ。
「しかも俺が男だって言ったら、解ってて声掛けてきやがってんだ」
まぁ、そうだろうな。山本は内心思った。当の獄寺は話している内に怒りが戻ってきたらしい。そんな様子に、山本は手を止めて笑った。
「あっはははっ…」
半泣きになりながら山本が笑う。
「お前、他人事だと思って…」
不機嫌になる声に、
「はーい、動くなよー…くくっ…」
笑いを抑えた山本は振り返る獄寺に触れるだけのキスをして、前を向かせる。
「マジ、お前死ね」
容赦ない言葉に、ただ山本は穏やかに笑うだけ。
「なぁ、コレ終わったら買い物行かねー?」
獄寺は壁の時計を見る。夕飯の買出しにはまだ早い時間だ。
「何しに、」
「ピアス、探しに行こう」
「は?」
また動こうとするのをやんわりと止めて。
「獄寺に似合いそうなのをさ」
あまりに楽しそうに口にするから。獄寺は口を開いたものの、言葉を口にはしなかった。
軽快な鋏の音。
時折混じる鼻歌。
「…音痴だな、お前」
獄寺が笑う。つられて山本も笑う。
「よし、じゃ髪洗って来い!」
掛けた布を取って、山本は獄寺の背中を押す。
「命令すんな、」
獄寺は山本を軽く叩いて、バスルームへ歩いて行った。
「あ、それとも俺が洗ってやろうかー?」
「余計なお世話だっ」
声を張って投げた山本の言葉は一刀両断。山本はまた肩を震わせて笑った。鋏をしまって、散らばった銀糸を片付ける。そうしてドライヤーを取り出して、熱風の熱さを確かめる。あんまり暑いとまた不機嫌な表情で文句を言うから。
呼吸をするように必要不可欠な、この優しい時間が、ずっと続きますように。
山本は、獄寺を待つ間に心の中で祈った。
獄寺は唐突に買い物へ誘った山本の真意をはかりかねていた。というのも、山本自身本当に何も考えていないかもしれないからだ。ご機嫌とりが必要なほど、獄寺は機嫌が悪いわけでもない。だが、
「…まぁ、悪くはねぇよな」
獄寺自身のんびりとした時間を過ごすのは悪くないと思っている。男二人の奇妙な買い物。ふと目に留まった店のガラスに映る自分。髪が随分さっぱりした。隠れていた耳も見える。
(…あ…)
だから、山本は買い物に誘ったのではなかろうか。気に入って付けているピアスに触れる。
「イイモノ見つかった?」
後ろに立つ山本をガラス越しに見てから振り返る。すると、山本はじっとガラスを見ていて。真剣な横顔に一瞬見惚れたのは秘密だ。
「やま、」
「武、だろ?」
「なっ、」
悪戯に山本は笑って獄寺の手を引くとその店に入った。
「―――…すか?」
獄寺から離れたところで山本は店員と話をしている。内容は聞こえないが、店員が申し訳なさそうにしている。
「なぁ、」
声をかけると山本は嬉しそうに笑った。
「イイモノ見つけたよ」
獄寺の知らぬまま山本は会計を済ませてまた獄寺の手を引くと、そのまま店を出た。
さっきの店の小さな手提げを片手に、ご機嫌な山本。広い公園を横切って、お気に入りのオープンカフェへ。
「…変な感じだな、」
獄寺の呟きに山本が振り返る。
「デートしてるみてーだ」
その言葉に山本は一瞬キョトンとしてから苦笑。
「あー…一応、デートしてるつもりなんだけど」
「…あ、そ」
獄寺は山本から視線を逸らして逃げた。その仕草に山本はまた優しく笑った。
カフェラテとエスプレッソを頼んでひと息。夕暮れにはまだ早いが涼しさを帯びた風。穏やかな午後。
「あ、これ」
山本が手提げから出した小さな箱。
「結婚申し込むみたいに開けた方がいい?」
山本が笑い、獄寺は「バーカ」と言いながらその箱を受け取る。入っていたのはシンプルなデザインのピアス。
「それさ、光りの加減で青と碧になんの」
"俺たちの色だろ?"なんて恥ずかしげもなく言われて、逆に反応に困る。
「本トはお揃いにしようと思ったんだけど、」
ウィンドウ越しに見たそれは、現品限りでたった一つだけ。
「でも、どうしてもこれつけて欲しかったからさ」
運ばれてきたカフェラテとエスプレッソ。エスプレッソを口にする山本に、獄寺は呆れたような眼差しを向ける。
「本トお前って…」
「ん?」
「…卑怯者、」
目を丸くする山本を無視して片方のピアスを取ると、そのまま山本の耳に付けた。今つけているピアスには申し訳ないが。
「獄寺?」
「隼人、だろ」
そしてもう一つを自分の耳につけようとする。
「待って、」
山本は獄寺の手からピアスを取ると、それを耳につけた。見上げると山本が優しい目で笑う。名残惜しそうに獄寺の髪を軽く指で梳いて。
「…うん、やっぱ似合う」
獄寺はにやりと笑った。
「…お前が言うんなら、間違いないんだろうな」
山本は「そのセリフは反則だ」と額を押さえ、その様子に笑う。
「なぁ、これって指輪はめ合ったみたいじゃねぇ?」
あっ、と気づいたように山本が言い、
「調子に乗んな、バーカ」
それをはねのけるように獄寺はカフェラテを口にした。珍しく甘いのが飲みたくて頼んだカフェラテ。
「…甘…」
きっとブラックを頼んでもそう感じたに違いない。カフェラテの選択は失敗した。
視線を上げるとそこには山本が居て。
まとわりつくような硝煙も、消えない赤と鉄の匂いもなくて。
ただ穏やかな風と、
心地よい空気と、
二人が居るこの時間が、
ずっと続きますように。
獄寺は、そっと目を伏せて祈った。
BORDER LINE 番外小話
耳を澄ませば、ほら、聞こえてくる…
「ふー、ねぇ、聴こえる?」
少女は紙コップを口に当てて、底につながれた糸の伸びる先を見た。
「ウン、聴こえるよ、はー」
もう一方の少女も同様に紙コップを口に当てて、底につながれた糸の伸びる先を見た。
「…『死神』が、居るね」
「ウン、『死神』さんだね」
二人は目を合わせて笑った。
二人の間は約30cm。
「行こうか」
「ウン、行こう」
少女はその場に紙コップを捨てて、歩き出す。
「覚えてるかな?」
「憶えてるよ」
スキップで先を行く少女に、ゆっくりと後を追う少女が答えた。
「ねぇ、ふー…糸電話ってつまらないね」
「ウン、つまらないね、はー」
少女たちは、ある場所に向かっていた。「それ」の聞こえた、『死神』の元に。
「待っててね、『死神』。ちゃーんと、ハルとフユが会いに行ってあげるから」
『死神』は言った。
『面倒まで見きれねーから、もうちょっと大人になったら、会いにでも来い。待ってるつもりは更々ないけど。』
その言葉を、当の本人が忘れているなど、このご時世よくある話だ。
遅ればせながら、
明けましておめでとうございます!
すっかり放置気味の当サイトですが、訪問くださった心の広い皆様に多大なる感謝を申し上げるとともに、本年も見放すことなく訪問いただけるよう願いを込めて…
更新頑張ります!
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プロフィール
HN:
瑞季ゆたか
年齢:
42
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

