忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Ⅶ.閉鎖的日常 2

「――――こんばんは」
数日後彼女は此処に現れた。彼女がカウンターに来るのをしっかりと見る。
「…隣り、いいかしら?」
彼女の言葉を俺が断れるはずがないというのに。
「どうぞ」
笑顔で迎えると、彼女の笑みが返って来た。少しは調子が戻っているらしい。
「紅茶を」
そうそう、変化といえば紅茶の缶が増えたこと。しかも一気に缶が二つも。酒くらいしか置いてなかったこの店に更にメニューが増えて行く。彼女がもたらした変化だ。
「…どしたの?」
獅戯の手際が珍しく悪い。いつもなら、聞いてから取りかかったってそんなに時間はかからないのだが。
「もしかして、」
どうしたらいいか、解ってない…?いや、そんな難しいことじゃないと思うんだけど。
「…それにひと匙とお湯を入れて、それから布をかぶせて軽く蒸らせば、程好く紅茶が出ますから」
戸惑った獅戯に、にっこりと彼女が言った。獅戯は手順さえ分かれば、と言わんばかりに手際よくこなす。こういうとこは、やっぱバーテンなんだなと思ったり。いや、ちょっと違うんだけど。
「…悪いな、」
「いいえ。でも、本当に紅茶入れてくれたんですね。セイロンとアールグレイ二つも」
「約束したからな」
獅戯の大して意識した風でもない物言い。それに一瞬キョトンとした表情を浮かべた彼女だったが、ゆっくりとその表情が解けて穏やかな笑みに変わった。何だか、それがあの子に似てて、一瞬目を見張る。
「神津くん?」
「…俺が入れますよ」
ティーポットを取って、カップに注ぐと彼女の前に出した。角砂糖は一つらしい。両手でカップを取って、彼女は紅茶を飲んだ。そしてすぐに、幸せそうな表情。
「…あ、」
思わず反応を覗ってたのに気付いたのか、彼女は苦笑した。
「…そうだ、これを。多分、貴女が持っていた方がいいと思って」
それを見た途端、彼女の表情が変わった。俺が彼女に差し出したのは、あの子…氷響の携帯だった。彼女はそれに少し躊躇ったように手を伸ばしてから受け取った。
「…持っていて、くれたの」
「気まぐれですけど」
本当は、違う。早く、こんなもの手放したかった。勝手に捨てるのはちょっと気が引けたし、だからといって持っていても邪魔なだけだし。その時、火滋が外から戻って来た。
「ただいま戻りました。…あ、来客中ですか?」
「いや、」
そう答えたのは獅戯だ。火滋はカウンターに座ろうとして、彼女の持っているものに気付いた。
「それ、氷響さんの」
その声に、彼女が火滋の方を見た。
「…貴方が、火滋くんかな?ありがとう、あの子に色々教えてあげてくれて」
彼女がどんな表情で火滋にそう言ったのか、俺には見えない。火滋は、氷響の大切な人という括りで認識していた彼女の存在に驚いている。
「…貴女が、氷響さんの…大切な人」
「…え?」
火滋の呟きに似た言葉に、彼女も面食らった様子。
「…あぁっ、すみません。初めまして、火滋です。氷響さんから、貴女のお話は聞かせてもらっていました。とても…大切な人だと」
「…そう、なの」
彼女の声が一瞬震えたように感じた。…いや、きっと気のせいだ。
「…私は、杏子。一応、あの子の保護者ね。全くの他人同士なんだけれど」
彼女は火滋から視線を外して、手に握った氷響の携帯をじっと眺めた。
「…不思議なものね。血なんか繋がってなくても、家族にはなれるんだから」
「――――そうですか、」
心なしか、そう応えた火滋の表情が嬉しそうに見えた気がした。
「そういや、何か収穫はあったのか?」
火滋に話を振ると、少し得意げな様子で火滋が頷いた。
「勿論ですよ。足を伸ばした以上は、何も収穫ナシじゃあ帰れませんからね。こればっかりは譲れません。とはいっても、BoxやrAin VeIN、FreE Glassだって未開な部分はありますからね。まだまだ好奇心は満たされませんよ」
「…相変わらずだよなぁ、お前」
火滋の熱が篭った言葉に俺は苦笑し、その横で彼女が楽しそうに笑った。
「あ、もし良かったら師匠も行きませんか?今度はBoxに当たってみようと思ってるんです。新たな発見であれば、どんなに些細なことでも構いませんし」
「…そうだなぁ、」
「それに、師匠が居れば身の保障ができますからね」
悪戯に笑う火滋を軽く睨んでやる。お前、師匠を何だと思ってるんだよ。
「…仕方ない。可愛い可愛い火滋くんがそういうなら、一緒に行ってやるよ」
「はいっ!」
しかし、こうも素直に喜ばれてしまうと満更でもない気がしてくる。いつも賢く大人びた感じのある火滋だけど、こういうところはやっぱり歳相応なんだなとか思ったり。それから火滋の成果についてしばし話が続いた。彼女は聞き上手らしく、火滋もいつもより饒舌だった。
「…じゃあ、そろそろお暇しますね」
「送りますよ」
彼女が席を立った後、俺も腰を上げた。今は深夜…というより日付が変わってまだ数時間と言ったところだ。ここで彼女を一人で帰すのは少々心配だ。
「でも、」
「素直に従っておけ。神津の腕は保障できる」
獅戯が手を動かしながらそう一言言うと、彼女も反対はしなかった。
「じゃあ、行きましょうか」
俺が手を出すとそれには応えず、彼女は笑って歩き出した。出した手を気まずくなって、さりげなくポケットに突っ込んで、俺も歩き出した。

外に出ると、彼女はストールを合わせなおした。風が予想より冷たい。
「どうぞ。俺は大丈夫ですから」
彼女にマフラーを渡す。ストールがあるわけだから、何とも不思議な様相なんだけど、彼女は無理に辞退せず受け取ってくれた。
「…これ、怪我?」
首にちらりと見えた古傷に触れて彼女は言った。周りにはそんなこと聞いてくる人間は居ないから気にしてなかったけど。
「…古傷ですよ。実は結構腕とか怪我多いんです。武器を上手く扱えるまでは、痛い思いしましたし。見てて嫌な感じがするんで暑い時でもなるべく隠すんですけど」
「…そう」
彼女が引いた手を掴む。
「心配してくれました?」
「そうね」
にっこりと笑って問うも、彼女は特別動じた様子もなく頷いた。うーん、やはりなかなか手強いお人だ。
「…じゃあ、早めに送りましょう。こんな寒空の下にいつまでも居させるわけにはいきませんから」
俺が掴んだ手を放しそう言うと、彼女はそれに笑って応えた。
歩きながら空を見上げると、月は見えなかった。

拍手[0回]

PR

Ⅶ.閉鎖的日常 1

俺はその足でボーダーラインに戻った。
獅戯は凡そ予想通り、火滋は不安げな表情で俺を迎えた。
「…師匠、」
それに応えず、カウンターに持って来たコーヒーの瓶を置いた。
「…氷響さんは、どうしたんですか?」
火滋の声は、不安を隠そうともしない。本音。でも多分、本当は解っているのだ。火滋はそこまで馬鹿でも愚かでもない。その結果を認めるのが嫌だと言うのなら、それは個人の傲慢だ。感情の押し売りだ。でも、それが今は少し、ほんの少しだけその気持ちが解かる気がする。

「―――――『放棄』、したんじゃないかな」

なんて曖昧な返答だろう。あの場所になかった者。ぽっかりと穴が空いたように。あの結果を見れば、『放棄』したのは歴然。
「…師匠は、それを許したんですか?」
火滋は、責めたりはしなかった。その言葉に滲んでいたのは、ただ結果に受けたショックだけだ。
「それは、神津の決めることじゃない」
間に入ったのは、獅戯だった。
「それを決めるのは、氷響自身だけだ」
火滋は獅戯を見て、また椅子に座った。俺はポケットに手を突っ込んで、その中にあるものを思い出した。そして、それを火滋の前に出した。
「これ、」
氷響の携帯だった。
「残ってたのは、これだけ」
見上げてくる火滋に俺は小さく肩を竦めて、その隣りの椅子に座った。
「――――師匠、僕は氷響さんに何かしてあげられましたか?」
「…さぁな」
嘘すら吐けない、いや吐かなかった自分を嫌悪した。
「“此処”は、いつもに戻っただけだ。氷響が自分の在るべき場所に戻ったなら、それは自然なことだろ」
すると、火滋は複雑な表情をしつつも、微かに笑う。
「それなら、氷響さんは望む場所に戻れたってことですよね、きっと」
俺も、獅戯も、答えなかった。応えることが出来なかった。『放棄』した先は、誰にも解からない。
雨の粒が、地面に屋根に、地上にあるもの総てに降り注ぐ。
静かな世界に、小さな雨音が響く。
本当は、こうなることは予想できた。ただ、それは無限になど無い可能性のひとつで。薄々勘付いていたこと。あの純真な少女が“此処”で生き抜くことはできない。残酷なほど、優しすぎるから。それでも、僅かに胸がざわめいて。微かに胸が痛んで。ほんの少し切ない。

「―――――雨、だからだな」

小さく呟いて、理由を付ける。そんな程度のことでそれなりに割り切れてしまう自分を嫌悪しつつ、窓の外をぼんやりと眺めた。その前を過る影。ゆっくりと、ドアが開いた。予感があったわけじゃないが、椅子から腰を浮かす。入って来たのは。
「…杏子さん、」
雨にすっかり濡れた彼女だった。
「こんな雨の中、何で…」
俺はその傍らに駈け寄った。俯いていた彼女はその声に顔を上げ、苦笑する。だがそれは何とも苦しそうな、苦笑にすらなっていない痛々しい表情だった。
「…自分でも、よく、解からないのだけど」
らしくもなくこの状況を持て余していた。只でさえ、彼女の存在は異例なのに。そんな俺を遮って入って来たのは、他でもない獅戯だった。獅戯には動じた様子一つなく、そのすべてがいつもの延長だ。
「風邪引くだろ」
水を吸い込んで重くなったショールを、半ば強引に引き渡す形で彼女から預かると、その代わりに大きなタオルを杏子の肩に掛けた。
「そのソファにでも座ってろ」
「でも…ソファが濡れてしまうし、」
「ソファは座る為にあるもんだろ」
決して優しく労わるような物言いはしない獅戯。ショールを手にその場を去って行く。俺は彼女を促してソファに座らせた。彼女は素直に座ったが、それからぼんやりと窓の外を眺めていた。
「師匠、僕は上に居ますから。必要な時は呼んで下さい」
火滋は何となく場の空気を察して上に消え、俺は滅多に使われないCLOSEの看板を見えるように出しておいた。獅戯には事後承諾でいい。
「杏子さん、」
「…解かっているから、大丈夫」
あの時の堂々とした様は微塵も感じられない。状況を知っていながら、それでもそれが勿体無いと思ってしまう。さっきよりはいくらかマシになった苦笑に、俺はそれ以上何も言わなかった。触れた彼女の手は酷く冷たくて、あの時の体温が嘘のようだった。彼女が泣くことはなく、ただ現実を受け止めて心にぽっかりと穴を作ってしまったような感じ。おそらく、そうなんだろうが。
「…ほら、」
彼女の目の前に、獅戯がココアを差し出す。酒を出すわけにもいかないし、かといって俺の珈琲は論外。その結果無難なのはこれなんだろう。彼女はお礼を言って、それを受け取った。両手で抱え、また窓の外を眺めている。
「今日は此処に居ろ。時間的にカオスが徘徊して厄介だからな」
彼女は応えなかった。
「それと、お前はどうする」
「…俺?そりゃ放って帰れないでしょ」
俺の言葉に、獅戯はただ頷いただけだった。それから俺はカウンターに戻り、彼女の視線を追う様に窓の外を眺めていた。雨は、まだ当分止みそうになかった。誰も口を開かない奇妙な空間。いつもなら人でそれなりに騒がしいが、どうやら看板の効果はまずまずらしい。二階で火滋の動き回る音が微かに聞こえる。今まではそんなことにも気づかなかった。ぼんやりしていると、俺の前に珈琲が置かれる。
「…ありがと」
俺は有難く、その珈琲を頂く。カップに触れた時、俺の手もそこそこ冷えていたことに気づいた。何が原因なんだか。
「今日は、冷え込むな」
ぽつりと、獅戯が呟く。
「…人が居ないからでしょ、きっと」
「…そうだな」
俺の相槌に獅戯は頷いただけだった。それからまた珈琲を飲んで、気まぐれに席を立った。二階へ続く階段に腰を下ろし、そして思案する。
何がそうまで彼女を悩ませるのか。
いや。その原因は当然分かっている。それでも解からないと言うことは、俺の方に問題があるのか?確かに他の人よりは太い神経をしているから、今この時には彼女に対する慰めの念は殆どない。そもそも、俺にそんな念があったこと自体驚きな話だが。だって、終わってしまったことは仕方ない。取り戻すことなど不可能。そうじゃなくても、氷響は近い内違った形で消えていたのだろう。ならば、その時が今であっただけのこと。ただ、それだけなのに。それとも、居心地が良いのだろうか。自分を責めて、それで許されたような気になることが。それこそ自分勝手っていうんじゃなかろうか。

「…煩わしいなぁ、そういうの」

膝に頬杖をつく。またぼんやりすると、彼女の声が微かに聞こえた。
「…彼は遅くないと言ってくれたけど、やはり手後れだったんです。素直に伝えるということ。伝わるか伝わらないかなんて、言ってみなければ解からないのに。…駄目ですね。そういうことが、だんだん苦手になっていく。それとも、ただ、臆病なだけかしら」
彼女を饒舌にしたのは。
「…自分を守ろうとすることに必死で。誰かを守る余裕もないのに、守ろうなんてするんじゃなかったのかもしれない」
「――――氷響が、そう言ったのか?」
彼女の言葉に一息置いて、続く獅戯の声。
「…え?」
「氷響が、そうアンタを責めたのか?」
それはやっぱり特別優しいと思えない声。
「…いいえ」
「それなら、勝手に自分を責めるのはおかしな話だ。少なくとも俺には、氷響が“此処”で生きていけるとは思えなかった。今回のことがなかったら、また別な形でアンタと別れることになってただろうな。…どんなに大切であろうと、死ぬ時はひとりだ」
壁に頭を預ける。獅戯の言っていることはもっともだ。ただ、俺にはあんな言い方は出来ません。どう頑張ったって。
「…そうですね」
小さく、彼女が応えた。
「アンタも、そう思ったんじゃないか?…だから、逢えなかった」
「…そんなに優しかったら素敵ですね」
それ以上、獅戯は深追いしなかった。
「…いつでも、来たい時には此処に来い。アンタの好きなものを作ってやる。ココアはあまり好きじゃないんだろ?飲まないで戻されるのは屈辱的だからな」
「紅茶…好きなんです」
「…じゃあ、今度は紅茶を入れてやる」
「…えぇ、」
俺はその間に微妙な入り辛さを感じたが、重い腰をあげた。
「…随分、仲がよろしいようで」
その発言に、獅戯は冷たい視線を彼女は苦笑を浮かべた。彼女に差す、暗い闇。それが完全に払拭されたわけではなさそうだが…でも、早くあの時の堂々とした彼女を拝みたいものだ。

拍手[0回]

あー…

すっかり忘れていた…

自分の更新も遅れ気味だけど、コレは失礼なことをした…

monocube…一周年おめでとう!!

そうなんです、実はもう過ぎてしまいましたが、11/16はmonocubeの一周年だったのです。
正直、自分もニッケルであんなに盛り上がってたくせにこっちのことをこんなにすっかり忘れているとは思いませんでした。

ということで、遅れ馳せながら…近日、一周年記念SSでもUPしようかと思います。
…もっとも、このぼやきを見ている人がどれくらい居るか…。

拍手[0回]

no beside

追い風で聞こえた呟き。
尊大で口が悪い少年の、ひねくれた言葉で固められた本音が、
聞こえた気がした。


『no beside』


突然吹いた熱風に、鉱石たちは動きを止めた。

「…ウザいよ、」

黒髪に深い臙脂の瞳。不機嫌な感情を一片も隠さず、ナナオリは言った。三日月の様に湾曲した、刀というには少し特殊な格好の刀。熱風の理由だとでも言うように熱で刀の形が揺らいで見える。
「…鉱石の主、なのか?」
レイヴンが呟く。突然現れたナナオリと面識があるものはキングを除いていなかった。だからこそ、ナナオリの実力を知っているはずもなく。
「これだけ人数が居て、どうして僕が出なきゃいけないわけ」
呆気に取られている間に迫ったトランプを軽く刀の一振りで消去。
「興味ないんだけど、」
ウンザリした表情のナナオリの傍らに立つ男。
「鉱石の主だろ、我慢しなさい」
男は軽くナナオリの頭を撫でた。すぐにナナオリはその手を払ったが。
「よう、ラズ」
一人しか呼ばない愛称に、ラピスラズリは驚いた表情をした。
「ルビー、」
その反応に男――ルビーは笑った。
「とんでもない主だな、」
「口が悪いんだ、大目にみてやってくれ」
率直なガーネットの言葉にもルビーは苦笑しただけだった。


ナナオリの口が悪いのは今に始まったことではない。ルビーと出会った当初から、それは遺憾なく発揮されていた。面倒見の良さには定評があるルビーでさえ、正直嫌だと思ったほど。

「使えないヤツはイラナイ」

ルビーを見て一言。
それが、二人の出会いだった。
口調は常に命令形。会話というよりは一方的。ナナオリはそういう扱いをした。始めは不服だったルビーも事務的に割り切るようになった。
そんな日々を繰り返していたところに起こった波紋。

「…眠れない、だけだ」

戦闘中に糸が切れたように意識を失ったナナオリが、珍しく強気をなくした声でそう言った。思い返せば、ルビーも度々欠伸を噛み殺したようにしているのを見たことがある。だが理由を尋ねると口を閉ざす。それは頑ななほどに。
何かがあったというのは明白で、でもそれを聞くのは憚られて。傷を隠すように自分の身体を抱きしめるナナオリの背中に、自分の中で起こり始めている何らかの変化をルビーは感じ取っていた。


ラピスラズリとルビーの会話を特に興味もなく聞いていたナナオリだったが、やがてカクンと体勢を崩した。
「ナナ、」
ルビーは小さく主の名を呼んで、慣れた様子で倒れるナナオリを抱きとめた。そして、小柄な身体を軽く抱き上げる。
「口は悪いが、ナナオリがお前さんたちを裏切ることは絶対にない」
そう笑って言い切るルビーに、ラピスラズリも笑う。
「(絆が)強いんですね、」
ラピスラズリの言葉に、
「…俺は、ナナオリの傍を離れられねーから」
ルビーは淡い笑みに変えて答えた。


「…俺はお前に酷いことをする」
負傷したナナオリを腕の中に閉じこめる。もがいて抵抗するのわ抑えつけて、ルビーは言った。
「離、せっ…」
「俺の処分は好きにしてくれていい」
傷の痛みに表情を歪ませながら、ナナオリは抵抗をやめない。
「な、に」

「…でも"コレ"じゃあ、繋がってないのと同じだ」

ルビーの苦しげな声に、ナナオリは手を止めた。ルビーの手がナナオリの視界を覆って、額が触れる。ナナオリはぎゅっと強く目を閉じた。


深い奥底に押し込めた醜いもの。
どす黒くて痛いいっそ忘れてしまいたい過去。

それに触れてしまった。
気づいてしまった。

「…だからって訳じゃないけど」

以来、ナナオリはルビーの傍では眠るようになった。醜く深い傷がまるで二人を繋ぐように。

追い風で聞こえた呟き。 


「…お前が僕の最期を見届けろ、」

(だから、死ぬまで傍に居て)

尊大で口が悪い少年の、ひねくれた言葉で固められた本音が、

「必ずだ、」

(消えて、しまわないで)

聞こえた気がした。

拍手[0回]

水彩

絵を描くことが嫌いだった。
絵を描くことは利用できた。
絵を描くことはできない。
でも。
絵を描くことは止められない。
 
放課後一人の美術室。
美術部の活動がない水曜には、いつもこうやって絵を描きに来る。
正しくは、模写をしに、来るといったところか。
絵が好きなわけでもなく、描くことが好きなわけでもなく、
でも、描かずにいると濁ったものが溜まっていくような気がして。
だからこうして週に一度、模写をする。
絵は何でも良かった。
誰かの提出物でも、美術品でも、
それこそ窓から見える風景でも。
 
青空の背景の向日葵。
コレはきっと誰かの提出物だろう。
拝借された誰かには気の毒だが。
 
志水は息を吐いて走らせていた手を休める。
今日はいつもより根詰めているような気がする。
いかんいかん。
軽く伸びをして不意に視線を窓の外へ向けたとき。
 
「…夕焼けだ、」
 
外は、綺麗な火色だった。
しばらくその色に見惚れて、吐き出す作業に戻る。
改めて向かった描き途中の絵は、夕焼けの背景の向日葵に見えた気がした。
 
次の日、うっかり忘れた絵を探しに志水は美術室に居た。
忘れた場所も曖昧。
それほど大事なものではないからと諦めたその時。
 
「これ、志水の絵?」
 
ドアに寄りかかり、ひらりと一枚の紙を掴んでいたのは香坂だった。
 
「すげー上手いのな」
 
「模写だ、誰でも出来る」
 
志水は少し面倒そうに答えた。
 
「…見えるんだよな、」
 
光に透かすように線画を見る香坂。
 
「綺麗な空の色…これ、どうやったら出せんの?」
 
志水は訝しげに香坂を見る。
香坂が眺めているのは、色なんてない線画だ。
あるのは白と黒だけで。
 
「この、夕焼け色」
 
香坂の言葉に、志水は驚いて後ずさる。
志水の反応に、今度は香坂が訝しげな表情になった。
 
何で?
模写したものは、青空だ。
青空ならまだしも、何で、
何で。
 
夕焼け、が見えるんだ。
 
あの時手を止めて見惚れたのは。
空も景色もすべてを染める程の、火色。
 
「…志水?」
 
「…ふぇ…」
 
言うな。
見つけるな。
それはただの捌け口で。
模写で。
そこに、
 
自分の「絵」があるだなんて。
 
「…うわぁぁぁんっ…」
 
「志水!?」
 
慌てて駆け寄り困惑する香坂。
 
僕は。
 
幼い子どものように、声を上げて、泣いた。
 

香坂は一枚の絵を手に、美術室に向かっていた。
廊下でばったり会った志水は、居心地の悪そうな表情で一枚の絵を差し出した。
 
「これ、やる」
 
その絵は見覚えのある、あの線画で。
向日葵と、その後ろに広がる。
 
「…あの夕焼け空と一緒だ、」
 
それは線画の先に見えた、夕焼け色そのもので。
 
「志水、また、水曜な」
 
香坂は背を向けて歩き出す志水に声をかけて笑った。
 
絵を描くことが嫌いだった。
絵を描くことは利用できた。
絵を描くことはできない。
でも。
絵を描くことは止められない。
 
そして水曜になれば、勝手に足が向くのだ。
 
今度は香坂の居る、美術室へ。

拍手[0回]

カレンダー

05 2026/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
42
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

ブログ内検索

カウンター