monocube
monoには秘めたイロがある。
見えないだけでそこに在る。
数え切れないそれは、やがて絡まり色彩(イロ)になる。
さぁ、箱をあけてごらん。
箱庭(ナカ)は昏(クラ)く底なしの闇色(モノクロ)。
深い闇に融けたらいいのに。
日々の戯言寄せ集め。
当サイトは作者の気まぐれにより、自由気ままに書きなぐった不親切極まりない戯言の箱庭です。
Ⅱ.やわらかな傷跡 3
二人がボーダーラインを出ると、そこには今まででは有り得ない数の連中がいた。それに対して一瞬圧倒されたのは事実だ。これだと、自分たちが悪いことでもしているような気になってくる。
「…すごい数ですね」
冴晞は苦い表情を隠しもせず口にする。今の方法がギクシャクしていることはお互いに理解っている。その上でこの人数。練習台などと言っている場合ではない。
「――――…殺るしかねぇだろ、」
「…ですね、」
獅戯の言葉に冴晞は頷き、獅戯は銃を冴晞は日本刀を具現化する。それを合図に連中が動き出す。最前線の一角を冴晞の日本刀が薙ぐ。そのまま冴晞は敵の渦中へ。それを追いながら獅戯も渦中へ潜り込む。片手の銃では非効率だと両手に銃を再構成。距離を縮められる前に仕留めて行く。薙いでも仕留めてもまだまだ先の見えない戦況に二人の焦りは募る。もしそうでなければ、二人は確実に早い段階で気付いていたはずだ、この戦況を見下ろす男の存在に。だが二人にその余裕はない。獅戯が両手で応戦していると、死体を盾に距離を詰めてきた男が一閃を振り下ろす。咄嗟に身を引いて相手を狙うと、銃を放つ前に冴晞が一掃した。撃つ手間をなくした獅戯は、一瞬反応が遅れる。一方遠方からの銃弾が冴晞の髪を掠める。そっちに獅戯を向けて駆け出したところで、相手を獅戯の銃が仕留めた。標的を失った冴晞は、無意識にブレーキを掛けて足踏みする。それは本人たちの自覚以上に隙だらけでずさんな戦い方だった。
そして、悲劇は起きる ――――――――――
「…何だ…?」
応戦しながら感じる違和感。それとなく相手の中に走る動揺。それは少しずつ波紋のように広がって二人に迫ってくる。そして、はっきりと感じる強い力の気配に反射的に二人が動いた。
「背中を預けることもできないのか、」
冴晞が放つ一閃が躱される。その先に居たのは…
「獅、」
「冴晞っ!」
互いに目が合った。そこには刀の切っ先を獅戯に向けた冴晞と、銃口を冴晞に向ける獅戯の姿が映っていた。不自然に大きく響いた銃声。獅戯は自分の銃弾が冴晞の右腕を打ち抜くのを見る前に左目に激痛を感じ、視界が赤く濁った。一方の冴晞は自分の刀の切っ先が獅戯の左瞼を捉えた瞬間に右腕にの感覚がなくなり、具現化したはずの日本刀が緩やかに解けた。
「それなら組まない方のが、ずっと意味があると思うけど」
辛うじて残った利き腕の銃で応戦しながら、空いた手で左目を押さえる。指の間を血が流れる不快感に襲われる。波のように痛みと熱が押し寄せてきて視界が覚束ない。至近距離での勢いに持っていかれそうになるのを踏みとどまって、感覚のない右腕を押さえる。右腕がなくなった訳ではないことに安堵したが、押さえた手を流れて行く血に怪我は軽くないのだと自覚する。
「…くっ…」
獅戯の命中率が格段に落ちたのを狙って、更に相手の勢いが増す。冴晞は右腕を無視し、左腕に刀を具現化。獅戯が仕留め損ねた分も含め応戦を始めた。男の気配は、既に戦場から消えていた。
外に出て最初に感じたのは、むせ返るよな血の匂い。幸は始めにどれだけの数が「生きて」いたのか凡そ理解する。かつては不殺の『夜鷹』と呼ばれていた幸は、こういったことに関する感覚が鈍っていないことに苦笑した。そして微弱ながら感じる二人の気配に視線を上げると、そこには返り血ではない血の跡。夜闇の所為もあるだろうが明らかに蒼白な二人の表情。幸の予想した通り…いや、予想していた以上に酷い。尤も相手の数が数だけに手間取ったのもあるかもしれない。だが組んで戦わせた途端獅戯も冴晞も互いを補うどころか穴が目立ち始めた。勿論、初めから完璧にできるとは幸も思っていなかった。それでもこうなる前に気付いて欲しかったという気持ちはあった。
「…言わんこっちゃない…」
だが目の前の光景を見れば、自然に苦い表情になる。獅戯は左目辺りから血を、冴晞は右腕を負傷。傷の深さまで明瞭に分かったわけではないが、万全な状態に比べれば格段に力は劣る。幸は煙を吐き出して、煙草を携帯灰皿にねじ込んだ。仰いだ空には朧月。雲で翳ってはまた顔を出す。
「…アタシが動く時は、どうもこういう空に好かれるみたいだねぇ」
そしてゆっくりと混乱の渦中に足を向けた。
「冴晞っ…」
「大丈夫です。すぐ近くに居ます…多分」
互いの傷が気がかりなのと、絶えず失われていく血によって二人の集中力は散漫になっていた。それでも呼吸を整え意識すればそれぞれの位置を把握することはできた。月が翳って落ちる闇。目が慣れるまで手探りの応戦を強いられる。だが、そこで二人は自分たち以外の場所で起こる悲鳴と倒れる音に気付く。消えたはずの男だろうか。周囲への注意を怠らずに息を潜める。しばらくそれが続いた後、月が顔を出した。二人の勘違いでなければ、相手の数は確実に減っていた。そしてそこに居たのは。
「幸…っ」
獅戯が幸に気付いて声を上げる。冴晞も驚きを隠せない様子で幸を見る。
「ったく、世話の掛かるガキ共だねぇ」
それに動じることも無く、残った人間たちの数に怯むこと無く幸はにやりと笑う。それからすぐに辺りに鋭い視線を投げる。
「…逝くか退くか、どっちにするんだ?」
一瞬相手に小さなどよめきが走ったが、すぐに幸にも襲い掛かって来た。
一人目を躱して、二人目を捌く。三人目からナイフを奪って脚に刺し、後ろからの四人目の腹に肘を食らわせてそのまま首の横に足を付けて地面に叩き付ける。既に視線は次の人間に移っている。横から襲って来た五人目の太刀をナイフで受け、それを幾度か繰り返した後に腹にナイフを刺して仕留める。間を置かずにやって来た六人目の一撃を五人目の身体を盾に躱して、反対側からやって来た七人目の腕を引いてその手の刀で六人目の腕をを貫く。手の刀を落とさせると、七人目の腕の関節を破壊した。それはまるで呼吸をするように隙の無い、素早く鮮やかな動きだった。
「――――お前たち、何やってるか解かってるか?」
粗方片付いて、獅戯と冴晞の傍に立った幸は酷く落ち着いた声でそう言った。
「アタシはこんなもん見たくて、お前たちを引き合わせたわけじゃない」
獅戯と冴晞がお互いの有り様を見て、複雑な表情をする。だがそこへそれぞれ一発ずつ容赦無い幸の拳が飛んだ。
「お前たちは『二人』なんだ、それを忘れるな」
二人はそれに対して呆然と立ち尽くす。
「…解かったら、店に入りな。その酷い有り様を何とかしてやる」
二人にそうとだけ言って小さな溜め息を吐くと、そのまま幸はボーダーラインに戻った。
獅戯と冴晞は一度お互いに顔を見合わせて、何も言わずにその後を追った。
それは、“二人”の敗戦だった。
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Ⅱ.やわらかな傷跡 2
幸の唐突な台詞に、二人は文字通り言葉を失った。それぞれが驚きと困惑と、複雑な表情をしている。
「ひとりひとりでの強さは証明されてるお前たちが組んだら、一体どれほどの力を発揮されるのか…アタシは見てみたい」
「……いきなり何を言い出すかと思えば、」
「冴晞は日本刀を扱う前衛型、獅戯、お前は銃を扱う後衛型。それがハマったら、とんでもない力になるとは思わないか?」
幸は一息おいて、こう言った。
「お前たちには何かを感じる…何度も言わせるな」
獅戯がどう答えたらいいものかと思案していると、そこへ冴晞が割って入る。
「少し整理させてください。まず、幸さんは僕らに何かを感じて引き合わせたんでしたね?そしてその上で僕らに組んで戦ってみろと言うんですね?」
幸は冴晞の言葉に頷く。
「確かに僕は前衛型、獅戯さんは後衛型です。ですが、組んでみろと言われてそう簡単にできるものではないでしょう?」
「もともとひとりで殺ってたもの同士だからな」
冴晞の言葉に、獅戯も続ける。だがそれに大して動じた様子もなく、幸はさっきと同じように悪戯な笑みを浮かべた。
「そんなことアタシが解らないとでも思ってるのか?ぶっつけ本番で強い奴とやれだなんてあたしは一言もいってないよ」
「確かに、そうだけど…」
「どうせお前に追手がかかるのは時間の問題だ。それに、練習台ならいくらでも居るだろうが。元々面倒な連中だ、それを利用しないでどうする」
幸の言い分は正しい。だがそれを認めるなら、幸の「組んでやれ」というのは変更の気かない絶対的なことだと認めることになる。それを分かっているだけに、二人は素直に首肯できないでいるのだ。
「…すごく強引なこと言うよな、アンタって」
それは獅戯も冴晞も理解っていたことだが。結局獅戯が折れて、抗議をやめた。従って、冴晞もそれ以上何も言わなかった。
「夜まではまだ時間がある、どうするか、詳しい事はお前たちで考えな。お前たちは“二人”なんだから」
そう幸から言い渡された二人は、ボーダーラインを後にした。かといって何かする事があるわけでもなく、ただ漠然と外を歩いている。そもそも、それなりの実力は証明済みというのはあくまで幸から見た状況の話であって、獅戯も冴晞も自分の隣りを歩く相手がどれほどの実力者なのか理解しているわけではない。実際に戦っている様子を見ればどれほどの実力なのかある程度は把握できるのだろうが、夜にはまだ早い時分、カオスが都合よく出てくるわけではない。かと言って、自分たちから喧嘩をふっかける気もない。それこそ、二人にとっては面倒だ。とりあえず、仲の良い物品の仲介屋をひやかしに行ったり話しながら歩いたりと二人は夜まで時間を潰すことにした。
そしてその夜、二人は初めて追って相手に実践する羽目になる。獅戯は利き手に銃を、冴晞は利き手に日本刀を具現化。互いを意識しながらも、それぞれいつものように相手を仕留めていく。数があまり多くないのも幸いし、それこそ数分の戦い。互いの実力把握には不十分だったが、「それなりの実力者」であることは認識できた。
「…終わりましたね、」
「あぁ」
どこか肩透かしを食らったような感覚を抱いたまま、二人はボーダーラインに向かった。
「何だ、その表情は」
「…いや、いつもより早く終わった」
「いい調子じゃないか」
幸が楽しそうに笑って応える。冴晞はその反応に僅かな引っ掛かりを覚えたが、あえて口にしなかった。その判断が、後に影響を及ぼしてくることを知っていたら、きっと迷わず冴晞は口にしたはずだ。
『貴女は、何をどこまで見通しているんですか、』
と。
それから幾度となく戦いを繰り返していく内に、二人の間に妙な空気が生まれ始める。ほんの些細な事だが、「合いすぎる」のである。最初に気付いたのは、二人の間に上手く入り込んだ男を二人で仕留めた瞬間。同じ男の動きに同じく反射的に対応した結果、互いの動きを殺すような形になっていた。言うなれば、蜘蛛の糸にでも絡め取られたように動きにくくなっていたのだ。
「…日に日に空気が尖ってるんじゃないかい?」
二人は応えなかった。その様子に幸は小さく嘆息する。二人で組むようになって、始めは些細なことと意識していなかったズレがだんだん深刻さを帯び始めていた。それに気付いたのならこの空気は理解できる。相手にとって仕掛けやすい隙があれば、当然迎え撃つにしてもやりにくくなる。ましてや個々として充分実力のある二人だ、屈辱的に違いない。口で諭すのは簡単だが、実際に体験してみなければ正しい意味での理解はできない。それを知っている幸だからこそ、口に出さずとも何とか打開策を見つけて欲しいと思っている。ズレが大きくなればなるほど、リスクは高くなるのだから。幸はちらりと二人を見て、また嘆息した。その時。
「何だっ!」
ガラスが悲鳴を上げて砕ける。被害はそう大きくないが、硝子の破片が店内に散らばる。
「…元気な奴がいるじゃないか、ねぇ」
幸が呟き、獅戯がすぐに席を立って出て行く。一歩ほど遅れて冴晞もそれを追いかけ出て行った。
「―――――どうやら今日は、一荒れありそうだねぇ…」
或いは裏切りと言う名のⅠ
「ウゼぇんだよなぁ、正直」
神津は呆れながら頭を掻く。そうして具現化した鎌を軽々しく上げて、何ともない様子で振り下ろした。
重力に従うように、当たり前のように。
だって、それが、当然のことだから。
『或いは裏切りという名の』
「お前さぁ、それで何人目だ?繰り返しよくもまぁ、飽きないもんだな」
茉咲の言い分は尤もである。それに対して神津はえらく不機嫌な様子で無視を決め込む。そもそもの始まりは、神津がらしくもなく返り血をつけていたこと。それに気づかぬまま、何の偶然か(茉咲に限っては偶然はありえない気がするが)茉咲に遭遇。目敏い茉咲がそれに気づかないはずもなく。そして、先のセリフに戻る。
神津は「誰のせいだ誰の」と内心舌を出す。茉咲の影響がすべてでないとは言え、少なからず茉咲にも責任があると神津は思う。そう正直に言ったところで自分の分が悪くなるだけだと思い知っている神津は無視を選択したわけだ。
だが一方の茉咲はそれを見透かしたようににやつくだけ。どこまで見透かしてるのか計り知れないが、その目は明らかに神津の反応を楽しんでいた。
「ま、別にお前の"癖"を責める気はねぇが、女減らして自分の首締めてねぇか?」
「…う゛」
矛盾には気づいている。少なくとも夜毎女の数は減っていくわけだ。さすれば自ずと0になるのは明白。小学生でも解る引き算だ。
「そこら中ホモだらけだな」
お前が言う台詞か
寒すぎるーと震えてみる茉咲に心の中でツッコミ、冷たい一瞥を投げる。いつからこんな小芝居を覚えたのだろうか。神津と茉咲とは空白の期間がある。その間に覚えたのだろうか。面倒になったものだ。茉咲は冷たい一瞥に対して特にどうという事もなく、手元のカップを神津に突き出した。
「ん、」
神津は理不尽だと思いながら、茉咲の催促に応じて珈琲を入れるため席を立った。
「…あぁ、そうか」
いつもの獅戯はこんな感じなのかと思い至って神津は小さく笑った。
珈琲を淹れながら神津は空白の期間に思い巡らす。その間に茉咲が同居していた女には過去に遭遇している。お世辞ではなく十分に美人で、猫の目のような綺麗な瞳の色をしていた。茉咲の言葉をどこまで信じるかはともかく、手を出さなかったというのが嘘なくらい茉咲好みではないかと神津は思う。
「しかし、物好きだよな…」
茉咲を同居させてやるとは。思いながら自分も該当していることに気づき、少しヘコんだ。
「あ、桐子?」
そこへ聞こえてくる茉咲の声。神津は淹れたての珈琲を頭からかけ流してやりたい衝動に駆られたが、ぐっとこらえて茉咲の前に置いた。
「…分かってんよ、んなこと。ガキ扱いすんな」
茉咲は愉しげに笑って、電話を切った。
「俺のは登録しても出ねぇくせに、女相手はすんなり出るんだな」
神津の声にキョトンとした表情を向ける茉咲。はっと自分の発言に神津が気づくも既に手遅れ。
「何お前、妬いてんの?桐子相手に、」
茉咲の中で彼女がどの位置にいるか不明だが、子供じみた発言の対象としては圏外だったらしい。ひとつだけ確かなことは、茉咲が面白がるネタを提供してしまったということ。
「妬くか」
とりあえず茉咲の発言をバッサリ切り捨て、神津は踵を返す。勿論、それを放っておく茉咲ではなく。
「俺って愛されてんねぇ」
見事に捕まる。いい加減力で勝てそうな気がするが、それなりに神津の弱点を知っている茉咲には幾らでも動きを封じる術はあった。
「離せ、死ね」
完全に冷静なら、自分がいつもの紫闇と同じようなことを口にしたと気づく余裕もあったのだろうが。
「――――…ちょっと付き合え、」
不意打ちのように真剣な声の茉咲。
「……ハァ!?ちょっ…」
神津が我に返った時には、既に外に連れ出されていた。
部屋には少しずつ熱を失っていく珈琲だけが取り残されていた。
続く
神津は呆れながら頭を掻く。そうして具現化した鎌を軽々しく上げて、何ともない様子で振り下ろした。
重力に従うように、当たり前のように。
だって、それが、当然のことだから。
『或いは裏切りという名の』
「お前さぁ、それで何人目だ?繰り返しよくもまぁ、飽きないもんだな」
茉咲の言い分は尤もである。それに対して神津はえらく不機嫌な様子で無視を決め込む。そもそもの始まりは、神津がらしくもなく返り血をつけていたこと。それに気づかぬまま、何の偶然か(茉咲に限っては偶然はありえない気がするが)茉咲に遭遇。目敏い茉咲がそれに気づかないはずもなく。そして、先のセリフに戻る。
神津は「誰のせいだ誰の」と内心舌を出す。茉咲の影響がすべてでないとは言え、少なからず茉咲にも責任があると神津は思う。そう正直に言ったところで自分の分が悪くなるだけだと思い知っている神津は無視を選択したわけだ。
だが一方の茉咲はそれを見透かしたようににやつくだけ。どこまで見透かしてるのか計り知れないが、その目は明らかに神津の反応を楽しんでいた。
「ま、別にお前の"癖"を責める気はねぇが、女減らして自分の首締めてねぇか?」
「…う゛」
矛盾には気づいている。少なくとも夜毎女の数は減っていくわけだ。さすれば自ずと0になるのは明白。小学生でも解る引き算だ。
「そこら中ホモだらけだな」
お前が言う台詞か
寒すぎるーと震えてみる茉咲に心の中でツッコミ、冷たい一瞥を投げる。いつからこんな小芝居を覚えたのだろうか。神津と茉咲とは空白の期間がある。その間に覚えたのだろうか。面倒になったものだ。茉咲は冷たい一瞥に対して特にどうという事もなく、手元のカップを神津に突き出した。
「ん、」
神津は理不尽だと思いながら、茉咲の催促に応じて珈琲を入れるため席を立った。
「…あぁ、そうか」
いつもの獅戯はこんな感じなのかと思い至って神津は小さく笑った。
珈琲を淹れながら神津は空白の期間に思い巡らす。その間に茉咲が同居していた女には過去に遭遇している。お世辞ではなく十分に美人で、猫の目のような綺麗な瞳の色をしていた。茉咲の言葉をどこまで信じるかはともかく、手を出さなかったというのが嘘なくらい茉咲好みではないかと神津は思う。
「しかし、物好きだよな…」
茉咲を同居させてやるとは。思いながら自分も該当していることに気づき、少しヘコんだ。
「あ、桐子?」
そこへ聞こえてくる茉咲の声。神津は淹れたての珈琲を頭からかけ流してやりたい衝動に駆られたが、ぐっとこらえて茉咲の前に置いた。
「…分かってんよ、んなこと。ガキ扱いすんな」
茉咲は愉しげに笑って、電話を切った。
「俺のは登録しても出ねぇくせに、女相手はすんなり出るんだな」
神津の声にキョトンとした表情を向ける茉咲。はっと自分の発言に神津が気づくも既に手遅れ。
「何お前、妬いてんの?桐子相手に、」
茉咲の中で彼女がどの位置にいるか不明だが、子供じみた発言の対象としては圏外だったらしい。ひとつだけ確かなことは、茉咲が面白がるネタを提供してしまったということ。
「妬くか」
とりあえず茉咲の発言をバッサリ切り捨て、神津は踵を返す。勿論、それを放っておく茉咲ではなく。
「俺って愛されてんねぇ」
見事に捕まる。いい加減力で勝てそうな気がするが、それなりに神津の弱点を知っている茉咲には幾らでも動きを封じる術はあった。
「離せ、死ね」
完全に冷静なら、自分がいつもの紫闇と同じようなことを口にしたと気づく余裕もあったのだろうが。
「――――…ちょっと付き合え、」
不意打ちのように真剣な声の茉咲。
「……ハァ!?ちょっ…」
神津が我に返った時には、既に外に連れ出されていた。
部屋には少しずつ熱を失っていく珈琲だけが取り残されていた。
続く
べろばひっ!
わわっ!222番踏んじゃったっ!!細々とようやく200越えですね。ニッケルさんとは大違い。
まぁ、恥さらしの場なんで気にしないけど(笑)
もっと文章がしっかり書けたらなぁ。
こう、感覚的な感じでなくて。
もっとしっかりとしたさぁ、
―――――…『小説』ってやつを書いてみたい。
まぁ、恥さらしの場なんで気にしないけど(笑)
もっと文章がしっかり書けたらなぁ。
こう、感覚的な感じでなくて。
もっとしっかりとしたさぁ、
―――――…『小説』ってやつを書いてみたい。
no lose
一際目立つ燃えるような赤髪。それを千切るように短く切ったあの日、あの瞬間から失うものは何も無くなった。
『no lose』
テーブルに足を載せ、頭の後ろで指をくんで目を閉じる。雨音が柔らかく鼓膜をくすぐる。限りなく無音に近い、心地よい空間。そこへ軽いノックの音がする。
「―――…退屈そうだね」
人目を引く赤髪。通る声。無意識でありながら隙のない仕種と態度。唯一気兼ねなく酒の飲める相手の訪問をキングは歓迎した。
「いや?そうでも、」
「じゃあ、あたしの勘違いか…」
女は後ろ手にドアを閉め、キングのもとへ歩いてきた。
「お嬢様の呼び出しだって聞いてたから、不快になって戻ってるかと思った」
女は少し意地悪く笑い、鋭い一言にキングは苦笑した。
「別に、そこまでガキじゃねぇさ、俺だって」
「じゃあ、コレは不要だったか?」
取り出した瓶に、キングははっと表情を変える。
「…気が利くねぇ、」
にやりと笑みを浮かべてキングは応えると、直ぐにグラスを取りに行く。その間に女は腰掛け、瓶の封を切った。
「…で、土産話はねーの?フリクリ」
キングはフリクリが追加要請でトランプとやりあったのを知っている。しかも報告が正しいなら――恐らく正しいのだろうが――幹部のJとQが参戦したと言う話だ。もしかしたら一戦交えたのかもしれない。
「残念だが、お前の望むような話はないよ…ただ、」
「ただ?」
「…それなりの腕を持ってるのは確かだね」
フリクリは目の前のグラスに酒を注いで、複雑な表情をした。
「やっぱり何かあったんじゃねぇか」
「あったのはあたしじゃない、レイヴンだ」
話題としては珍しい名前に、キングはグラスを取って続きを促す。
「――…奴の鉱石の右腕が奪われた」
キングは一瞬言葉に詰まった。あの負けず嫌いでプライドの高いレイヴンが、よりによって鉱石の一部を持って行かれるとは。
「で、所有権は?」
「まだ此方にある…腕は欠けたままだ」
鉱石は六つのパーツで区分される。頭・右腕・左腕・右脚・左脚、そして心。それぞれに要の石がある。これを奪われ所有権が鉱石の主から移ると、欠けた箇所のパーツは戻るが奪った者の意思で動く。また強さは所有者の意志の強さが反映する。これを厄介と言わずしてなんと言おう。
「…面倒だな、色んな意味で」
こんな屈辱を与えられのだ、レイヴンが荒れていてもおかしくはない。
「それが、外見は殊の外冷静だ」
その場にレイヴンを落ち着けるリンが居たから、と言うのもあるのだろうが。そう加えて、フリクリは酒を飲む。
「腸煮えくり返ってんだろうけどな」
キングの言葉にフリクリは苦笑した。
「奴にはいい経験かもしれないよ、」
身内では確実に強者に入るレイヴンだ。それが慢心に繋がらないとも限らない。今回にしても、少なからずレイヴンに隙があったのは事実なのだ。フリクリはグラスを揺すりながら目を細める。
「失いたくないものがある奴は強くなる」
キングはフリクリを見遣り、また酒を流し込む。
「…それは経験則、か?」
キングの言葉にフリクリは一瞬手を止めた。溶けた氷が小さな音を立てる。
「…少なくとも、俺にはそう見えたぜ?」
一際目立つ燃えるような赤髪。それを千切るように短く切ったあの日、あの瞬間から失うものは何も無くなった…ように、見えた。
「まぁ、お前が弱いとは思わねぇが」
キングは瓶に手を伸ばして、空になったグラスに再び酒を注ぐ。
「―――なら、あたしもまだ…捨てきれてないんだろうね」
フリクリは呟いて、酒を飲み干した。キングはフリクリのグラスにも酒を注いで瓶を置く。
「ん、」
そしてグラスを持ち上げて促す。フリクリは笑ってそのグラスに自分のグラスを合わせた。
『no lose』
テーブルに足を載せ、頭の後ろで指をくんで目を閉じる。雨音が柔らかく鼓膜をくすぐる。限りなく無音に近い、心地よい空間。そこへ軽いノックの音がする。
「―――…退屈そうだね」
人目を引く赤髪。通る声。無意識でありながら隙のない仕種と態度。唯一気兼ねなく酒の飲める相手の訪問をキングは歓迎した。
「いや?そうでも、」
「じゃあ、あたしの勘違いか…」
女は後ろ手にドアを閉め、キングのもとへ歩いてきた。
「お嬢様の呼び出しだって聞いてたから、不快になって戻ってるかと思った」
女は少し意地悪く笑い、鋭い一言にキングは苦笑した。
「別に、そこまでガキじゃねぇさ、俺だって」
「じゃあ、コレは不要だったか?」
取り出した瓶に、キングははっと表情を変える。
「…気が利くねぇ、」
にやりと笑みを浮かべてキングは応えると、直ぐにグラスを取りに行く。その間に女は腰掛け、瓶の封を切った。
「…で、土産話はねーの?フリクリ」
キングはフリクリが追加要請でトランプとやりあったのを知っている。しかも報告が正しいなら――恐らく正しいのだろうが――幹部のJとQが参戦したと言う話だ。もしかしたら一戦交えたのかもしれない。
「残念だが、お前の望むような話はないよ…ただ、」
「ただ?」
「…それなりの腕を持ってるのは確かだね」
フリクリは目の前のグラスに酒を注いで、複雑な表情をした。
「やっぱり何かあったんじゃねぇか」
「あったのはあたしじゃない、レイヴンだ」
話題としては珍しい名前に、キングはグラスを取って続きを促す。
「――…奴の鉱石の右腕が奪われた」
キングは一瞬言葉に詰まった。あの負けず嫌いでプライドの高いレイヴンが、よりによって鉱石の一部を持って行かれるとは。
「で、所有権は?」
「まだ此方にある…腕は欠けたままだ」
鉱石は六つのパーツで区分される。頭・右腕・左腕・右脚・左脚、そして心。それぞれに要の石がある。これを奪われ所有権が鉱石の主から移ると、欠けた箇所のパーツは戻るが奪った者の意思で動く。また強さは所有者の意志の強さが反映する。これを厄介と言わずしてなんと言おう。
「…面倒だな、色んな意味で」
こんな屈辱を与えられのだ、レイヴンが荒れていてもおかしくはない。
「それが、外見は殊の外冷静だ」
その場にレイヴンを落ち着けるリンが居たから、と言うのもあるのだろうが。そう加えて、フリクリは酒を飲む。
「腸煮えくり返ってんだろうけどな」
キングの言葉にフリクリは苦笑した。
「奴にはいい経験かもしれないよ、」
身内では確実に強者に入るレイヴンだ。それが慢心に繋がらないとも限らない。今回にしても、少なからずレイヴンに隙があったのは事実なのだ。フリクリはグラスを揺すりながら目を細める。
「失いたくないものがある奴は強くなる」
キングはフリクリを見遣り、また酒を流し込む。
「…それは経験則、か?」
キングの言葉にフリクリは一瞬手を止めた。溶けた氷が小さな音を立てる。
「…少なくとも、俺にはそう見えたぜ?」
一際目立つ燃えるような赤髪。それを千切るように短く切ったあの日、あの瞬間から失うものは何も無くなった…ように、見えた。
「まぁ、お前が弱いとは思わねぇが」
キングは瓶に手を伸ばして、空になったグラスに再び酒を注ぐ。
「―――なら、あたしもまだ…捨てきれてないんだろうね」
フリクリは呟いて、酒を飲み干した。キングはフリクリのグラスにも酒を注いで瓶を置く。
「ん、」
そしてグラスを持ち上げて促す。フリクリは笑ってそのグラスに自分のグラスを合わせた。
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プロフィール
HN:
瑞季ゆたか
年齢:
42
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

