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冴えた月夜に、

その伸びた背中の主は何を思うのか。

(そんな自明のこと)

右目は刀にかけた手をゆっくりと戻しながら、
「気配を消すこたぁねぇだろ」
と昼間とは対照的な砕けた口調で言った。
「つい癖で、」
と軽く答えたら右目は小さく笑っただけだった。
縁に座り、中庭を明るく照らす冴えた月を右目は真っ直ぐに眺めていた。
その横に座り視線を追う。
今宵の月はあまりにも似ていて、
あまりにも遠い。

「―――…心配?」

主語を付けずに短く問えば、
右目はゆっくりと目を伏せる。
「政宗様はそんなに柔じゃねぇ、やると決めたからには必ずやり遂げる」
右腕的存在としては、正しく模範解答だと思う。
「…の割には、歯痒そうな表情に見えるけど」
さらりと言えば、らしくもなく右目は舌打ちする。
「そういうてめぇはどうなんだ、真田が心配なんじゃねぇのか?」
「心配は、してないね」
今自分の内に燻っているのは、そういう感情ではない。
飛び出していった紅の目は本当に真剣だったから。
迷っていないと理解ったから。
ただ。

「少し…独眼竜が羨ましいと思うだけさ」

何故隣が自分ではないのだろうか。
今まで誰よりも長く傍で見てきたのは自分なのに。
でも、竜は知っていた。
直感的に、紅が何を思うのかを。
だから自分の積み上げてきた分をあっさり越えていることが、
何だかズルイと思うのだ。
また刀を交えたいと、竜に焦がれる紅を見ていたから。
アンタならわかるんじゃないか?
と視線で問うも、右目はそれに答えなかった。
だがその代わりに、
「俺はまだ真田を認めちゃいねぇ、」
甲斐の虎の背を追うひよっこだと答え、
それを否定するつもりはない。
単純に比較すれば、独眼竜の立場は甲斐の虎と同じ立場で。
独眼竜と紅のこの差は大きいと思う。
「…だが、何故政宗様がその真田を選んだのかは、解った気がする」
右目は少し表情を緩めてそう言った。
多分、この右目も自分と同じ思いをどこかしらで持ってて。

(だってさ、多分右目は独眼竜の傍でずっと見てきた)

弱さも甘さも、それゆえの強さも。
戦場に赴くときだって、それは例外ではなかったはず。

(突然の解散宣言は、独眼竜の意志で、筆頭としても正しい判断だったと思う)

そのまま挑めば兵は無駄に駆逐されるだけだ。
では右目は?
その腕は達人の域に達するほどだし、
伊達は右目を封じれば攻略できると噂されるほど軍師としても名高い。
その右目に「ついてこい」と言わなかった理由。
その竜の背に「ついていきます」と言わなかった理由。

「何でアンタは自分も行くと言わなかった?」

戦意を喪失し、使い物にならなかった紅を導いたのはこの右目だ。

(俺は…それに気付きながら、口にしようとしなかった)

あのタイミングでならば、二人で出ていくことも可能だったはずだ。
「アンタなら」
それを考えたはず。
「さっきも言ったろ、政宗様は真田を選んだ、真田が来るのを待った」
それを知っていたら、右目であろうと一蹴されるだろう。
だからこそ食い下がる兵たちを止めることを選んだ。

「ならば、俺にできるのは真田を政宗様と共に立ち上がらせることだけだ」

どこまでも深い理解、揺るがない忠義。

『私情を挟めば、忍は忍でなくなる』

かすがに行った言葉。

(それは…俺様も同じ、か)

行かせたくない思いが、一瞬先行した。
あの震える手を、身体を抱き締めて閉じ込めて守れたら、と。
ぼんやり考えていたら、隣で笑う気配がした。
「てめぇこそ、そんなに離したくねぇなら追いかけりゃいいだろ」
忍の脚の速さなら間に合うだろう?と意地悪く右目は言って。
「離したくねぇ」と言うのが何とも意地悪い。
「――言ったでしょ、真田の教育方針は自主性、ここで手ェ出すワケにはいかない」
言い返しても右目が真に受けた様子はなく。
だがそれ以上追及もしてこなかった。
「それに、まだこっちが安全になったワケじゃねぇからな…恩は返す主義だ」
「それなら十分過ぎるほど返してもらってる、きっと大将もそう言うと思うけど」
膝に頬杖をついて見上げれば、
右目は沈黙したまま真剣な眼差しでまた月を仰いでいた。











※今日の放送前に。揺らぐ音。の対になる従者二人の話。

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no loved

努力したことはあった。
でも諦めた。
後悔しないために。


『no loved』


「…珍しい来客だな、」

ジークは起き抜けのボサボサ頭を掻きながら呆然と呟いた。
エヴァンスがジークの元を訪れるのは何年ぶりだろうか。予告もなく現れる性格でもないエヴァンスの突然の訪問に、違和感を覚えたのは確かだ。アメジストはジークが声を掛ける前にエヴァンスに紅茶を出した。それに綺麗に微笑んで、
「アメジストは有能ね、あなたには勿体無いくらい」
「自分の分は弁えているさ、…だがやらないよ」
ジークは身なりを小奇麗に整えて、エヴァンスの前の椅子に座った。ジークにはコーヒーで角砂糖は2つ。それをアメジストは心得ている。
「その心配はないわ、私にはこの子がいるもの」
カタカタと手を震わせながら紅茶セットを運んでくるエメラルドに視線を向ける。
「あ、」
ジークは思わず目をつぶる。それを追うように盛大な音がして、ティーセットはものの見事に床に散らばっていた。
「すみませんっすみませんっ」
「大丈夫ですよ、」
アメジストはエメラルドが怪我をしていないのを確かめて、一緒に片付け始める。
「…あれが、君の好みかい?」
「えぇ、お気に入りよ」
嬉しそうにエヴァンスは笑う。その表情が昔と変わらないことに、ジークは何か懐かしいものを感じてコーヒーを口にした。
二人が綺麗に片付けて戻ってくると、すっかり居心地が悪そうに縮こまってしまったエメラルドの頬に慰めるようにエヴァンスは軽くキスをする。それを不思議な心地で見ているとアメジストが耳打ちする。
「…悪いねエヴァ、少し片付けたい用件がある、しばし退席させてもらうよ」
特に気分を害した様子もなくエヴァンスは片手を上げて応えた。

すっかり彼方此方傷んだ机の引出から煙草を取り出す。火をつけ燻らせると、懐かしい気がした。

(…そもそも、煙草の契機はエヴァだったな)

窓辺にゆっくりと歩みを進め、穏やかな世界を眺める。まるで自分が鉱石を行使し争いを繰り広げていることが嘘のような安らかな景色。

「――――…灰、落ちるわよ?」

すっと灰皿を出したのは有能な助手ではなく、他でもないエヴァンスだった。
「こんなに大事な紙の束がある場所で煙草なんて…相変わらず無頓着な人だわ」
楽しそうに笑い、ジークもその灰皿に軽く灰を落とした。
「…本当に、紫が居るから何とかなっているようなものだ」
「…この方が貴方らしくて私は好きよ?」
ジークはそのセリフに笑う。
「そういうのは君くらいだ、」
恋に落ちたのは若き日の記憶。
幸せだったことも嘘じゃない。けれど少しずつ歯車は狂いだして。互いに努力したことはたくさんあった。譲歩したことも。けれど、互いに諦めた。それはジークがエヴァンスを、エヴァンスがジークを想う最後の愛。
互いが後悔しないために、離れた。

「…少しだけ、此処に来る足は重かったわ」

ぽつり、と、エヴァンスは呟く。
「そうだろうな、連絡もせずにやってくるくらいだ」
ジークは笑う。
「また、来るといい」
君とは話がよく合うから楽しい、とエヴァンスの手から灰皿を取り上げる。
「ジーク、」
その時、自室のドアが開いてエメラルドが顔を出した。
「エヴァさま…!!きゃん!」
例外なく棚に躓いたエメラルドの上に書類の束が降り注ぐ。整然としていないが、それでどこに何があるのかジークなりに区分けしているのだ。ひらりと宙を舞う紙に、ジークは手元の煙草を消した。
「エヴァ、君の言う通り…此処で煙草はやめておくよ」
エヴァンスは、そうでしょう?と言わんばかりに口許に笑みを滲ませ、赤面したエメラルドを抱き起こす。
「帰るわ、このままじゃ貴方の大切なお城を壊してしまいそうだもの」
その様子を苦笑してジークは見ていた。
「トランプが数を増している、気をつけて」
「あら、誰に向かって言っているの?」
皮肉そうに笑うエヴァンスは、やはり綺麗だった。
「また、ね」

『また、ね』

最後に別れたあの日に口にした言葉とまったく同じセリフ。ジークは目を伏せて、

「あぁ、また」

最後に別れたあの日とまったく同じ言葉で応えた。

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だから気付かないように、

追わないようにしてる。





※現代版忍と風来坊の会話。振られ・腐る二人(笑)ちょっと蒼主従会話あり。
気まぐれでダラダラと意味もなく続く、青春の1ページ。続きは折りたたみ↓↓

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揺らぐ音。

揺らぐ思い。
気掛かりなこと。
決めたこと。
たくさんの思いや為すべきことがありすぎて、
頭が時折パニックを起こす。
だからこそ、紅の思いを何となく理解してしまった。
決意は変わらないからここに居るのだと思う。
けれど同時にふせっている甲斐の虎が気掛かりなのも事実。
あの忍びが付いているのだ心配はないと理解っていても、
目の前で失いかけたその不安が完全な安堵を与えてはくれない。
これは自分が腹に鉄砲玉を食らったあの時に似ている。
紅にとって甲斐の虎の存在が大きいように、
自分にとってもあの右目は大きすぎる。

馬を休ませるため逸る気持ちを抑えながらも休憩する。
一定の距離を置いて座る紅は無意識に片手で腕を抑えていた。
まだ震えは治まっていないのだろうか。
距離を詰め目の前にしゃがみこむ。
すると不思議そうな紅の視線。
それを見ずに押さえている片腕を軽く撫でた。
紅が少し驚いたような気配がした。

「―――怖いか、」

静かに問えば、

「そんなことは…」

と言いかけて紅の声は途切れた。
冷たく熱を失った指先。
それをゆっくりと握って。
右目は殊更自分のその類の感情には敏感で、
そんな時は何も言わずこうしてくれた。
心配する言葉よりもどれだけ嬉しかったか。

「―――政宗殿、は…」

そのつないだ手を嫌がるでもなく、ぽつりと紅は呟く。

「政宗殿は…怖い、と思ったことはござらぬか?」

片時も離れず傍にいる右目。
戦場に出れば共に傷を負う。

(ましてや、あいつは俺を守ろうとする)

自らの命を投げ出しても。

「その…片倉殿とて、無傷とはいきますまい」

握った手に視線を落としたまま応える。

「…恐れがないことはねぇ」

まだ何も成し遂げていないのに、死ぬわけにはいかないのに。

(遠退く意識の中で初めて、死ぬことが怖いと思った)

覚悟をしているつもりでも、
どこかで失うはずがないと思っている自分がいる。
だからこそそれが損なわれた時に動揺して。

「恐れってのは正しい、ちゃんと本能が機能してる証拠だ」

手を離して立ち上がる。
冷えた指先は体温を取り戻していた。

「人として問題ねぇ」

それよりも失うことを厭わず恐れず、
跡形もなくすべてを蹂躙する方が人として余程狂っている。

「だから狂ってる奴らを止めようって来たんじゃねぇか」

これ以上悲しみを増やすことの無いように。

「こんな思いは、俺たちだけで十分だろ」

「―――そうでござるな、」

「休憩は終わりだ、行くぞ、真田幸村」

「必ずや魔王の首この手で討ち、お館様にご報告申し上げる!!」

急に勢いを取り戻した紅に笑いながら、先を急ぐ。
信じて待つあの右目の元に必ず戻ると心の中で誓いながら。











※先週のアニバサ後妄想らしき。蒼紅共闘が楽しみ。蒼のが紅よりお兄さん(笑)

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その言葉の意味を、

知らないフリして。





※現代版竜とアニキ(笑)の会話。前回の続き的な。アニキは難しくてよく分からんが、竜とつるむと悪ガキ組でいい感じ。…続きは折りたたみ↓↓

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
42
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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