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君が、…君が、

見えない。

むせ返るような血の匂い。
敵をすべて凪ぎ払った後、
戦場に立っていたのは自分だけだった。

「佐助っ…」

名を呼べども佐助は姿を現さなかった。
だから、繰り返し不安を滲ませながらその名を呼ぶ。
遠くに居るだけかもしれない。
まだ見えないところで戦っているのかもしれない。

「さす、」

咄嗟に感じた気配に振り返る。
見慣れた佐助の背中。
ほっと安堵の息をついたのと同時。
そね身体に突き刺さる幾多の矢。目の前で人が刺されるなど、
何度も見てきた光景のはずなのに。

ドクン、ドクン。

こんなにも心音が煩くて、
こんなにも心が冷えていく。
大型手裏剣で支えた身体からボタボタと雨粒のように血が落ちて、

やがてそれはグラリと地面に倒れた。


「…っ、佐助ェェェェっっ!!!」


はっとして抱き起こすと、
血の気のない顔が自分を安堵させるように笑って。

「…旦、那、…平気?」

言葉が出なくて頷くと、
力の無い手がくしゃりと優しく髪を撫でた。

「…最後、まで…気、抜いた、ら…だめ、で、しょ…」

世話の焼ける主人だなぁ。
と、困ったように笑う。
無事を確かめるように何度も何度も手で触れて。


「―――…帰るぞ、佐助…」


口にできたのはそれだけだった。
言いたいことはいっぱいあった。
怒ってやりたかった。
でもそのどれもすることはできずに。
ただ、佐助はゆっくりと頷いた。

あ、でも鳥は使えそうにないな、旦那一人くらいだったらひとっ飛びなのに。
こんな状態でもおどける佐助を制し、鉢巻きを解く。
佐助の負っている傷も酷い箇所も、
一つや二つではないのだ。
鉢巻きをきつく縛って止血をしながら、
何とかその身体を引き摺って歩きだす。

「…しっかりしろ、佐助…」

仲間と合流する頃には、
既に佐助は意識を失っていた。

「幸村よ、狼狽えるでない」

たしなめられた言葉も今日ばかりは頭に入らない。

屋敷に着くなり大急ぎで医療班に連れていかれた佐助を追う。
今は、少しでも離れることが怖い。

「…幸村様、」

声を掛けられたときには既に医療班は下がっていた。
部屋の隅でうずくまっていた身体を引き摺り、
佐助の傍らに腰を下ろす。


「…早く、目を覚ませ…」


立てた片膝を抱えて、強く目を閉じる。
口をついて出た言葉は小さな小さな祈りの言葉だった。










君が、君が。続きます。
今回は幸村の話。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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