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#2

この世界が歪みに満ちた時、それはまるで予め定められていたかのように現れる。
何もかもを負って、
すべての歪みを消し去るために。
それは罪深き人間たちの為の『犠牲』。


箱庭師は手を伸ばして、チェスの駒程度の大きさの小瓶を取った。それは透き通ったガラスで出来ている。

「手を、」

差し出した観察役の手を取って、その指にカッターの刃を押しつけた。小さな痛みと共に、観察役の指に血の玉が出来た。それは膨れあがって、指を伝う。箱庭師は慣れた手つきでその血を小瓶に落とした。
そしてその小瓶を箱庭の中に置いた。

「これで、中の様子が見える」

箱庭師の置いた小瓶はいつしか形を変え、どこに「居る」のか分からなくなった。箱庭師は傍らの観察役を見、笑った。

「ようこそ、僕の箱庭へ」


物心ついたときから、自分は死ぬために生まれてきたのだと、理解っていた。それは誰かに告げられたわけでも、命令されたわけでもない。だだ何となく確実に「そう」だと識っていた。だから、それに疑問を感じたことはない。その運命を、憎んだことも。そこにあったのは、何物にも埋めることの叶わない深い絶望だけだった。
…でも、心の底でほんの僅かだけ願っていた。1%の奇跡を祈っていた。

『この世界が、正しく続きますように』

と。それが99%叶わないと知っていながら。

「こんにちは~」

聞き慣れた演技者の声に、人柱は我に返る。人柱は必要とされるまで公に出ることが許されない。人柱を『人柱』と知るのは演技者含め一握りだ。
演技者は奥から現れた人柱の姿を見て安堵する。勿論表面には出さないが。
裏を返せば人柱が人目を避けていることこそが、世界が狂っていない何よりの証拠なのだから。
「ご苦労さま」
一週間分の必要なものを渡して帰る。そしてまた一週間後にやってくる、その繰り返し。いつもなら大して言葉も交わさないのだが、今日に限って演技者は口を開いた。
「…この世界が誰かの手によって支配されているとしたら、あなたはどうする?」
人柱は演技者の表情を見ていたが、穏やかに笑う。
「どうもしない。ただ、人柱はもう作られない方がいいわ」
その笑顔がやけに作り物めいていて。
「あなた、生きてる?」
演技者は言った。
すると表情を変える事無く、
「今は、ね」
人柱は答えた。

最近は妙な胸騒ぎがする。まわりは感じていない?『箱庭』に気付いているものだから感じるものなのだろうか。違和感に目を瞑って演技者は帰途についた。

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#1

『いいかい?この箱庭がお前の世界だよ。お前の見守るべきすべてだ』

優しい声。
髪を撫でる、綺麗な手。
これは、

「…夢、か」
監視者が目を覚ました時、何故が胸のなかに小さな痛みが残っていた。
これはずっと昔の記憶。誰に教えられたわけでもない、感覚のみが覚えている記憶。だから、どうして胸が痛んだのか知らない。
「久々だな、この痛みは」
それでもこの理解不能な痛みは心地よかった。それはまだ、感覚が忘れていない証になるのだから。
服を整え、部屋を出る。いつもと寸分の狂いもない行動。そして寸分の狂いもなく現れる補佐役。
「ゆっくりお休みになられたのかと思っておりました」
いつもと同じかに見える監視者にいつもと違う何かを感じ取る。補佐役は微笑んで、監視者より一歩下がった位置に控える。
「…また、収めてくれたのですね」
ここ最近、不穏な動きを感じ取っていた。ただならぬ事態を危惧して、調停役が手を打ったのだ。監視者は、窓に近付き穏やかな朝の訪れを見下ろしていた。

一見穏やかに見える世界は、果たして本当に穏やかなものなのだろうか。

外見で判断するなら、およそ20代半ば。整った顔立ちと、上品な物腰。それなりに余裕も備えた聡明な印象。監視者はそんな女だった。この箱庭に生き、その世界を見守るもの。表にでることはあまりないが、実質この世界を動かしているのは彼女といっていい。しかし、見守る立場の行動には限界がある。そのために、この世界の如何なる争いをも収める権限を持つ調停役が存在する。調停役は、その役目を以てこの世界を存続させている。

それが、二人に与えられた『役目』だった。


見た目は20代後半。精悍な顔つきと、それに伴う実力を持つ。だが、人に優しく穏やか。それが彼の支持に繋がっていると言っても過言ではない。厚い信頼を受け、またそれに応えられる。調停役はそんな男だった。
「…これで、あの方の手を煩わせることもない」
調停役の言葉に、執行者は笑う。
「本当に、貴方はあの方を慕っていらっしゃる」
調停役は率直な自分の態度に苦笑しつつ、誤魔化すように歩きだす。
「慕っているのは、私だけではありませんよ。ただ、私のしていることが間違ってはいないのだと、そう思えるだけです」
並んで歩く執行者も、調停役の言葉に頷く。
「確かに。我々の行為は少なからずあの方の助けとなる」
調停役は、見たことのない監視者へ思いを馳せる。

如何なる争いも収めてみせましょう。だから貴女は貴女の役目を、と。

解っている。
共に箱庭を見守る存在であっても、監視者と調停役は顔を合わせることはないのだから。進むべき意思が違えば、補佐役がその旨を伝えに現れる。そうやって今までも、軌道の修正を行なってきた。そしてこれからも続いていく。

誰も傷つく事無く、多くの人々が箱庭の世界に気付く事無く。


「この世界は何者かに支配されているのです」

ローブを来た預言者と名乗る女が、広場の噴水を背に叫ぶ。それを一瞥して、演技者は広場を横切った。
10代後半。勉学もそこそこに、家の手伝いに勤しむ。明るく活発で、思ったことをはっきり言う。年の割に大人びた面も持つ、演技者はそんな少女だった。
歩きながら、演技者は思う。
最近こんな人間が増えている。
「こっちまで憂欝になっちゃう」
大抵の取り締まりは調停役たちがしてくれるが、ああいう人間までは取り締まることはできないらしい。悪事というには度合いが低すぎるからだ。
「…まぁ、別に構わないけど」
見えるはずもないと思いながらも、振り返る。広場の喧騒は随分小さくなっていた。演技者にとって、支配されてようがされてなかろうが興味はない。ただ、この日々が続いてくれればいい。存続するなら、支配でもなんでも受け入れてやろうじゃないか。


「―――随分熱心ね、」

観察役の声に、箱庭師はゆっくりと視線を上げた。
「掛け持ちの箱庭は他にもあると言うのに」
観察役は笑う。
「これは一番手がかかる」
そう言い、箱庭師は不機嫌な表情になる。
「あら、私には楽しそうに見えたけれど」
「冗談だろう?」
観察役は箱庭師の傍らにしゃがみこむ。
「貴方の手を煩わせるこの世界は、一体どんなものなのかしら」
箱庭師は観察役を見たが、すぐに視線を箱庭に戻す。

「…では、見てみるといい。この箱庭の中で」


そして、人柱は生まれた。

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うたかたの華 設定

登場人物


監視者
→20代半ば。美人で上品。聡明で、物事を見定める力を持つ。穏やかな人。

調停役
→20代後半。二枚目で率直。実力もあり、物事を収める能力に長ける。優しい。

箱庭師
→30代前半。冷静沈着で、箱庭師として相当有能。だか一方で残酷な一面も。

観察役
→20代後半。箱庭師の箱庭を観察。淡泊な性格で、落ち着いている。美人。

補佐役
→20代後半。監視者の傍で雑務を補佐。穏やかで丁寧。笑うと可愛い。

執行者
→30代前半。調停役の脇で争いを収める。妻がいる。気さくで信頼のおける人。

演技者
→10代後半。箱庭に生きる。明るく人懐こい。世界が続くことを信じている。

人柱
→歪みを収めるための生け贄。観察役にそっくり。物静かで感情に欠ける。


箱庭師の作り出した、ひとつの箱庭の話。
箱庭である真実を知っている中の人間は、監視者と調停役(それに組するもの一部)、人柱のみ。

設定は随時、追加予定。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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