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記憶の浅瀬

ゆらり、と。
身体が傾いでいく感覚。派手な水飛沫。
強く閉じた目を薄く開ければ、視界に入るのは屈折した光り。
きらきら、と。
それが綺麗で、あまりにも綺麗だったから。

ボコリ。

一際大きな泡が視界を埋め尽くして、光りに吸い込まれるように遠く。
そこで、政宗の記憶は途切れる。
遠く、必死で自分の名を呼ぶ愛しい右目の声を聞きながら。




※双竜両思いになるまでの話。もだもだするシリアス(?)なので注意!続きは折りたたみ↓↓

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ドプン。

確かにそこに居たはずの主の姿が消えて、
何があったのかを示す水飛沫に既に身体は動いていた。
水の抵抗を受ける羽織の長い裾に舌打ちしながら潜ると、
力なく沈んでいく主の姿。
その身体を両腕で抱き上げる。
水の中のその身体は空気のように軽く、小十郎の心は冷えたままで。
水の中から脱して初めて両腕にのしかかる重さに、ようやく主を抱いているのだと実感した。

「政宗様っ、政宗様っ!」

その声に主の睫が微かに震えたが、その左目が自身を捉えることはなく。
「…っ!」
どうしようもない焦燥感と苛立ちだけが小十郎の中に募るばかりだった。
屋敷に戻り、すぐにその身体を横たえる。
医師の見立ては概ね小十郎の思っていた通りで、
多少水は飲んでいるが大事ではないとのことだった。
小十郎はすぐに自身の羽織も着替えて政宗の座敷へと向かった。
濡れて癖の出た政宗の黒髪を指で梳きながら、取りとめもないことを思い出した。
そういえば、沈む政宗を両腕を抱えた時政宗は何とも安らいだ表情をしていた。
それがどういう心境のもとで浮かんだものなのか、小十郎には分からない。

(かといって、それを政宗様に問う気もないが)

それが重要なことだとは思わなかったが、
何か他のことを考えていなければ頭の天辺まで焦燥感に支配されそうな気がした。

(今まで沈んだことなど、一度や二度ではなかったのに)

何故今はこんなにも焦っているのだろうか。
小十郎はその答えすらもすぐに出ない程度には動揺している(無意識に)。
「そういえば…」
政宗は晴れた日に水面がキラキラ光るのを見ているのが好きだった。
幼い頃、よく熱に伏せっていた政宗が、
枕元に置かれた桶の水に光が当たって天井に波のように揺らぐのを見て喜んだ。
それを知ってから小十郎は水が温くなるのも構わずに天井に光の波を作るようになったのだ。
この幼い心が少しでも晴れるなら、と。

『こじゅうろ、梵はみずのなかにいるみたいだ』

さかなにはそらがこんなふうにみえるのだろうな、と熱に浮かされた声で政宗は言った。
水に沈んだ時、政宗はあのキラキラと光る波を見たのだろうか。

「―――…こ、じゅうろう?」

何もない天井を見上げていたら、まだ半分眠っているような声がして。
「政宗様、気がつかれましたか」
小十郎を見上げてくる瞳に大きな安堵の息を吐いて笑った。
「…俺、は」
何があったのかを答えようとする小十郎を手で制する。
「そうか、足を滑らせて…沈んだ、のか」
格好悪ィと小十郎を制した手で額を押さえて政宗は言った。
「気がつかれて安心致しました、気分は悪くありませんか?」
「No problemだ…まぁ、身体はだるいけどな」
と起きることすら億劫そうに政宗は苦笑した。
「無理に動かれなくてもよろしい。幸い立て込んだ政務もありません、今はゆっくりとお休みください」
そう布団越しにポンポンと小十郎が叩くと政宗は少しくすぐったそうに笑った。
「お前がこんなに甘やかすと気持ち悪いな」
気持ち悪いとは何という言い草、心外だとばかりに小十郎は反論したが、
双方とも会話を楽しんでいるように笑っていた。
「ところで、お前は何を見ていたんだ?」
政宗は見上げた小十郎が天井を見ていたことを思い出した。
政宗の私室は少しこだわった作りになっており、天井には菊の紋が彫り込まれている。
けれど、それはずっと昔からで、今更小十郎が珍しがるものとも思えない。
小十郎はもう一度何もない天井を見上げてから口を開く。
「政宗様が幼い頃、よく熱を出された時」
小十郎がそこまで言って政宗は何を言おうとしているのか察した。
「ah…桶の水に光が反射して」
「あなたはそれを見るのがお好きでしたね」
小十郎が話し掛けてもいつもうわの空で、と懐かしげに小十郎が目を細める。
「ガキの頃のことだろ、許せよ」
と政宗は拗ねるような口調になった。
「だが、」
政宗は沈んでいく時に見た屈折した光を、そしてキラキラと光る水面を思い出す。
それは幼い頃に見た光のそれよりも遥かに綺麗で。
「確かにありゃあ綺麗だった」
目を伏せればはっきりと思い出せる。

『こじゅうろ、梵はみずのなかにいるみたいだ』

あの時みたいに。

(小十郎、と呼ぼうとして…いや、もう呼んでいた)

一際大きな泡は、そういつものように息を吐きだした故で。
こんなことを言ったらまた小十郎に呆れられそうだ。
そう思い政宗は口にしなかった。
「まだ回復したわけではないのです、さ、お休みなさいませ」
そう言って軽く髪を梳かれると急に眠気が勢いを増して。

(…まだ、ガキ扱いだ…)

緩く伸ばした手を小十郎が握ってくれる。
それはまるで傍に居るから、と言っているようで。
「…こじゅ…ろ、」
呟くように名前を呼んで、政宗は再び眠りに落ちた。





続。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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