monocube
monoには秘めたイロがある。
見えないだけでそこに在る。
数え切れないそれは、やがて絡まり色彩(イロ)になる。
さぁ、箱をあけてごらん。
箱庭(ナカ)は昏(クラ)く底なしの闇色(モノクロ)。
深い闇に融けたらいいのに。
日々の戯言寄せ集め。
当サイトは作者の気まぐれにより、自由気ままに書きなぐった不親切極まりない戯言の箱庭です。
手首。
『…駄目だよ、それ以上殺ったら』
神津の一番好きじゃない、どちらかと言えば確実に苦手の部類に入る男。腕を見るたびに、神津はその男のコトを思い出す。
両腕に残るのは、もう10年以上前の躾の証。傍若無人な茉咲は、基本的に傷つくようなことをやらせる。武器の扱いは教えてもらったというより、殺されかけ命懸けで身体が覚えたと言った方が正しい。だから、両腕には数えきれないくらい傷を作ったし、一番酷いものは鎖骨辺りまで跡が残っている。だが、たった一ヶ所だけ傷がまったくない場所がある。
神津は天井に手を伸ばしてぼんやりと手を眺める。見えるのは手の甲。それをくるりと返すと、無傷な、左手首。
本来なら、ここだってザックリと深い傷が入っていたに違いない。それで死んだら、自分は運のない奴だと思ったし、しぶとく生き残ったらただ死ななかったのかと思うだけ。
かといって、今更傷つけたいとは思わないが。
でも。
たまに、そうやって紛らわす方のが余程楽かもしれないと思うことがある。
自分に対する嗜虐心が芽生えたわけではない。他人に対する嗜虐心(特定の人に対するもの)があるのは否定しないが。
だってあまりにも異様で。
さも意味があるように思えて。
何の意味もないのに。
そうして苦い過去を思い出す。
「…駄目だよ、それ以上殺ったら」
男は神津の左手首を強く掴む。普段の非力が嘘のように、それを外すことは叶わない。
「なんっ…」
本能で動いた腕は、男に鎌を向けて。男はそれを避けることもできた。それだけの実力があることを神津は知っていたつもりだ。
寸前で回避させた神津だったが、長い得物の切っ先は神津の腕を掴んでいた男の手の甲を切り裂いた。手の甲から伝った血が神津の捕まれた手に伝って、気持ち悪い感触が疾る。その感触を振り払いたくて動かした腕。その時の神津は、殺すとか殺さないとかそんなことはどうでもよかった。ただ一心にその感触を振り払ってしまいたかった。
神津の鎌が他のモノまで傷つけようとしているのを察して、男は辛そうな表情で日本刀を具現化し鎌の動きを封じた。
「…もう、十分だろう」
男はそう言うと、神津の手を離した。神津はその手の血を自分の服に押しつけるようにして何度も拭った。
精神的に侵食された感覚。
いや、むしろ汚染されたと言うべきか。
神津は早鐘を打つ心臓を落ち着かせようと、鎌を下ろした。すると男も日本刀をおろし、すぐにそれを問いた。
「…そんなことで怯えるくせに、よくカオスを殺せるものだね」
皮肉そうに男は言う。
「アレは人間じゃないからな」
男の言っていることが解らない。神津は吐き捨てるようにそう言った。
「果たして、本当にそうだと言える…?」
男は冷静な紫苑の瞳で神津を捉える。
信じて疑わなかった。
それは口にする必要も、考える必要もまったくないこと。カオスを殺さなければ、此処で平穏な日々を送れるはずがない。だがこの男の言葉は、瞳は、それすらも揺るがすような強い力があって。
「…あぁ、そうだ」
ようやく発した言葉は、相当頼りないものだった。それに神津も気付いている。揺らいでしまうのは、きっと今の自分が冷静ではないから。落ち着いていないからだ。
「――――…そう、」
でも本当は違うと理解っている。
胸が詰まりそうな程恐怖したのは、男の能力だった。日本刀が具現化された途端に、息苦しくなった。それは力に呑まれた証拠。今まで直接ぶつかることのなかった、絶対的な支配の中。
「…じゃあ、殺せるかい?僕を」
男は真っすぐな瞳を向けてくる。
「僕は…人じゃない」
土気色に侵喰された腕。
それは他でもない、カオスだという証明。
結局、神津は男を殺すことができなかった。
それからしばらくして、男は消えた。
死んだのではない。
『放棄』したのだ。
神津は腕を下ろして、ゆっくりと目を閉じた。
今でも、あの人は苦手だ。
やっぱり、殺すことはできないだろうから。
そう思い至って、神津は身体を起こす。携帯と鍵をポケットに。財布の入ったコートを引っ掛けて、今日も夜闇に足を踏み入れた。
神津の一番好きじゃない、どちらかと言えば確実に苦手の部類に入る男。腕を見るたびに、神津はその男のコトを思い出す。
両腕に残るのは、もう10年以上前の躾の証。傍若無人な茉咲は、基本的に傷つくようなことをやらせる。武器の扱いは教えてもらったというより、殺されかけ命懸けで身体が覚えたと言った方が正しい。だから、両腕には数えきれないくらい傷を作ったし、一番酷いものは鎖骨辺りまで跡が残っている。だが、たった一ヶ所だけ傷がまったくない場所がある。
神津は天井に手を伸ばしてぼんやりと手を眺める。見えるのは手の甲。それをくるりと返すと、無傷な、左手首。
本来なら、ここだってザックリと深い傷が入っていたに違いない。それで死んだら、自分は運のない奴だと思ったし、しぶとく生き残ったらただ死ななかったのかと思うだけ。
かといって、今更傷つけたいとは思わないが。
でも。
たまに、そうやって紛らわす方のが余程楽かもしれないと思うことがある。
自分に対する嗜虐心が芽生えたわけではない。他人に対する嗜虐心(特定の人に対するもの)があるのは否定しないが。
だってあまりにも異様で。
さも意味があるように思えて。
何の意味もないのに。
そうして苦い過去を思い出す。
「…駄目だよ、それ以上殺ったら」
男は神津の左手首を強く掴む。普段の非力が嘘のように、それを外すことは叶わない。
「なんっ…」
本能で動いた腕は、男に鎌を向けて。男はそれを避けることもできた。それだけの実力があることを神津は知っていたつもりだ。
寸前で回避させた神津だったが、長い得物の切っ先は神津の腕を掴んでいた男の手の甲を切り裂いた。手の甲から伝った血が神津の捕まれた手に伝って、気持ち悪い感触が疾る。その感触を振り払いたくて動かした腕。その時の神津は、殺すとか殺さないとかそんなことはどうでもよかった。ただ一心にその感触を振り払ってしまいたかった。
神津の鎌が他のモノまで傷つけようとしているのを察して、男は辛そうな表情で日本刀を具現化し鎌の動きを封じた。
「…もう、十分だろう」
男はそう言うと、神津の手を離した。神津はその手の血を自分の服に押しつけるようにして何度も拭った。
精神的に侵食された感覚。
いや、むしろ汚染されたと言うべきか。
神津は早鐘を打つ心臓を落ち着かせようと、鎌を下ろした。すると男も日本刀をおろし、すぐにそれを問いた。
「…そんなことで怯えるくせに、よくカオスを殺せるものだね」
皮肉そうに男は言う。
「アレは人間じゃないからな」
男の言っていることが解らない。神津は吐き捨てるようにそう言った。
「果たして、本当にそうだと言える…?」
男は冷静な紫苑の瞳で神津を捉える。
信じて疑わなかった。
それは口にする必要も、考える必要もまったくないこと。カオスを殺さなければ、此処で平穏な日々を送れるはずがない。だがこの男の言葉は、瞳は、それすらも揺るがすような強い力があって。
「…あぁ、そうだ」
ようやく発した言葉は、相当頼りないものだった。それに神津も気付いている。揺らいでしまうのは、きっと今の自分が冷静ではないから。落ち着いていないからだ。
「――――…そう、」
でも本当は違うと理解っている。
胸が詰まりそうな程恐怖したのは、男の能力だった。日本刀が具現化された途端に、息苦しくなった。それは力に呑まれた証拠。今まで直接ぶつかることのなかった、絶対的な支配の中。
「…じゃあ、殺せるかい?僕を」
男は真っすぐな瞳を向けてくる。
「僕は…人じゃない」
土気色に侵喰された腕。
それは他でもない、カオスだという証明。
結局、神津は男を殺すことができなかった。
それからしばらくして、男は消えた。
死んだのではない。
『放棄』したのだ。
神津は腕を下ろして、ゆっくりと目を閉じた。
今でも、あの人は苦手だ。
やっぱり、殺すことはできないだろうから。
そう思い至って、神津は身体を起こす。携帯と鍵をポケットに。財布の入ったコートを引っ掛けて、今日も夜闇に足を踏み入れた。
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プロフィール
HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
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