monocube
monoには秘めたイロがある。
見えないだけでそこに在る。
数え切れないそれは、やがて絡まり色彩(イロ)になる。
さぁ、箱をあけてごらん。
箱庭(ナカ)は昏(クラ)く底なしの闇色(モノクロ)。
深い闇に融けたらいいのに。
日々の戯言寄せ集め。
当サイトは作者の気まぐれにより、自由気ままに書きなぐった不親切極まりない戯言の箱庭です。
#1
『いいかい?この箱庭がお前の世界だよ。お前の見守るべきすべてだ』
優しい声。
髪を撫でる、綺麗な手。
これは、
「…夢、か」
監視者が目を覚ました時、何故が胸のなかに小さな痛みが残っていた。
これはずっと昔の記憶。誰に教えられたわけでもない、感覚のみが覚えている記憶。だから、どうして胸が痛んだのか知らない。
「久々だな、この痛みは」
それでもこの理解不能な痛みは心地よかった。それはまだ、感覚が忘れていない証になるのだから。
服を整え、部屋を出る。いつもと寸分の狂いもない行動。そして寸分の狂いもなく現れる補佐役。
「ゆっくりお休みになられたのかと思っておりました」
いつもと同じかに見える監視者にいつもと違う何かを感じ取る。補佐役は微笑んで、監視者より一歩下がった位置に控える。
「…また、収めてくれたのですね」
ここ最近、不穏な動きを感じ取っていた。ただならぬ事態を危惧して、調停役が手を打ったのだ。監視者は、窓に近付き穏やかな朝の訪れを見下ろしていた。
一見穏やかに見える世界は、果たして本当に穏やかなものなのだろうか。
外見で判断するなら、およそ20代半ば。整った顔立ちと、上品な物腰。それなりに余裕も備えた聡明な印象。監視者はそんな女だった。この箱庭に生き、その世界を見守るもの。表にでることはあまりないが、実質この世界を動かしているのは彼女といっていい。しかし、見守る立場の行動には限界がある。そのために、この世界の如何なる争いをも収める権限を持つ調停役が存在する。調停役は、その役目を以てこの世界を存続させている。
それが、二人に与えられた『役目』だった。
見た目は20代後半。精悍な顔つきと、それに伴う実力を持つ。だが、人に優しく穏やか。それが彼の支持に繋がっていると言っても過言ではない。厚い信頼を受け、またそれに応えられる。調停役はそんな男だった。
「…これで、あの方の手を煩わせることもない」
調停役の言葉に、執行者は笑う。
「本当に、貴方はあの方を慕っていらっしゃる」
調停役は率直な自分の態度に苦笑しつつ、誤魔化すように歩きだす。
「慕っているのは、私だけではありませんよ。ただ、私のしていることが間違ってはいないのだと、そう思えるだけです」
並んで歩く執行者も、調停役の言葉に頷く。
「確かに。我々の行為は少なからずあの方の助けとなる」
調停役は、見たことのない監視者へ思いを馳せる。
如何なる争いも収めてみせましょう。だから貴女は貴女の役目を、と。
解っている。
共に箱庭を見守る存在であっても、監視者と調停役は顔を合わせることはないのだから。進むべき意思が違えば、補佐役がその旨を伝えに現れる。そうやって今までも、軌道の修正を行なってきた。そしてこれからも続いていく。
誰も傷つく事無く、多くの人々が箱庭の世界に気付く事無く。
「この世界は何者かに支配されているのです」
ローブを来た預言者と名乗る女が、広場の噴水を背に叫ぶ。それを一瞥して、演技者は広場を横切った。
10代後半。勉学もそこそこに、家の手伝いに勤しむ。明るく活発で、思ったことをはっきり言う。年の割に大人びた面も持つ、演技者はそんな少女だった。
歩きながら、演技者は思う。
最近こんな人間が増えている。
「こっちまで憂欝になっちゃう」
大抵の取り締まりは調停役たちがしてくれるが、ああいう人間までは取り締まることはできないらしい。悪事というには度合いが低すぎるからだ。
「…まぁ、別に構わないけど」
見えるはずもないと思いながらも、振り返る。広場の喧騒は随分小さくなっていた。演技者にとって、支配されてようがされてなかろうが興味はない。ただ、この日々が続いてくれればいい。存続するなら、支配でもなんでも受け入れてやろうじゃないか。
「―――随分熱心ね、」
観察役の声に、箱庭師はゆっくりと視線を上げた。
「掛け持ちの箱庭は他にもあると言うのに」
観察役は笑う。
「これは一番手がかかる」
そう言い、箱庭師は不機嫌な表情になる。
「あら、私には楽しそうに見えたけれど」
「冗談だろう?」
観察役は箱庭師の傍らにしゃがみこむ。
「貴方の手を煩わせるこの世界は、一体どんなものなのかしら」
箱庭師は観察役を見たが、すぐに視線を箱庭に戻す。
「…では、見てみるといい。この箱庭の中で」
そして、人柱は生まれた。
優しい声。
髪を撫でる、綺麗な手。
これは、
「…夢、か」
監視者が目を覚ました時、何故が胸のなかに小さな痛みが残っていた。
これはずっと昔の記憶。誰に教えられたわけでもない、感覚のみが覚えている記憶。だから、どうして胸が痛んだのか知らない。
「久々だな、この痛みは」
それでもこの理解不能な痛みは心地よかった。それはまだ、感覚が忘れていない証になるのだから。
服を整え、部屋を出る。いつもと寸分の狂いもない行動。そして寸分の狂いもなく現れる補佐役。
「ゆっくりお休みになられたのかと思っておりました」
いつもと同じかに見える監視者にいつもと違う何かを感じ取る。補佐役は微笑んで、監視者より一歩下がった位置に控える。
「…また、収めてくれたのですね」
ここ最近、不穏な動きを感じ取っていた。ただならぬ事態を危惧して、調停役が手を打ったのだ。監視者は、窓に近付き穏やかな朝の訪れを見下ろしていた。
一見穏やかに見える世界は、果たして本当に穏やかなものなのだろうか。
外見で判断するなら、およそ20代半ば。整った顔立ちと、上品な物腰。それなりに余裕も備えた聡明な印象。監視者はそんな女だった。この箱庭に生き、その世界を見守るもの。表にでることはあまりないが、実質この世界を動かしているのは彼女といっていい。しかし、見守る立場の行動には限界がある。そのために、この世界の如何なる争いをも収める権限を持つ調停役が存在する。調停役は、その役目を以てこの世界を存続させている。
それが、二人に与えられた『役目』だった。
見た目は20代後半。精悍な顔つきと、それに伴う実力を持つ。だが、人に優しく穏やか。それが彼の支持に繋がっていると言っても過言ではない。厚い信頼を受け、またそれに応えられる。調停役はそんな男だった。
「…これで、あの方の手を煩わせることもない」
調停役の言葉に、執行者は笑う。
「本当に、貴方はあの方を慕っていらっしゃる」
調停役は率直な自分の態度に苦笑しつつ、誤魔化すように歩きだす。
「慕っているのは、私だけではありませんよ。ただ、私のしていることが間違ってはいないのだと、そう思えるだけです」
並んで歩く執行者も、調停役の言葉に頷く。
「確かに。我々の行為は少なからずあの方の助けとなる」
調停役は、見たことのない監視者へ思いを馳せる。
如何なる争いも収めてみせましょう。だから貴女は貴女の役目を、と。
解っている。
共に箱庭を見守る存在であっても、監視者と調停役は顔を合わせることはないのだから。進むべき意思が違えば、補佐役がその旨を伝えに現れる。そうやって今までも、軌道の修正を行なってきた。そしてこれからも続いていく。
誰も傷つく事無く、多くの人々が箱庭の世界に気付く事無く。
「この世界は何者かに支配されているのです」
ローブを来た預言者と名乗る女が、広場の噴水を背に叫ぶ。それを一瞥して、演技者は広場を横切った。
10代後半。勉学もそこそこに、家の手伝いに勤しむ。明るく活発で、思ったことをはっきり言う。年の割に大人びた面も持つ、演技者はそんな少女だった。
歩きながら、演技者は思う。
最近こんな人間が増えている。
「こっちまで憂欝になっちゃう」
大抵の取り締まりは調停役たちがしてくれるが、ああいう人間までは取り締まることはできないらしい。悪事というには度合いが低すぎるからだ。
「…まぁ、別に構わないけど」
見えるはずもないと思いながらも、振り返る。広場の喧騒は随分小さくなっていた。演技者にとって、支配されてようがされてなかろうが興味はない。ただ、この日々が続いてくれればいい。存続するなら、支配でもなんでも受け入れてやろうじゃないか。
「―――随分熱心ね、」
観察役の声に、箱庭師はゆっくりと視線を上げた。
「掛け持ちの箱庭は他にもあると言うのに」
観察役は笑う。
「これは一番手がかかる」
そう言い、箱庭師は不機嫌な表情になる。
「あら、私には楽しそうに見えたけれど」
「冗談だろう?」
観察役は箱庭師の傍らにしゃがみこむ。
「貴方の手を煩わせるこの世界は、一体どんなものなのかしら」
箱庭師は観察役を見たが、すぐに視線を箱庭に戻す。
「…では、見てみるといい。この箱庭の中で」
そして、人柱は生まれた。
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おもしろそうです
この後が気になりますv
あとブログ作りましたv
あとブログ作りましたv
- 八神
- 2006/11/20(Mon)13:41:23
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プロフィール
HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。