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no rainning

澄んだ灰色の瞳。それは酷く落ち着いていて、激昂しそうな感情が徐々に和らいで行くのを感じた。
雨のように染んでくるもの。
雨など、降っているはずもないのに。


『no rainning』


アカツキは忌々しげに舌打ちをして最後に一閃した。ここのところ、トランプたちの動きが活発になっている。それは「彼女」の居場所に近づくにつれて酷くなっていた。目的地に着くまでにかなりの消耗は避けられない。
しかも理由はそれだけではない。状況を甘くみていた故の出遅れが更にアカツキを苛立たせた。
「ドクターは先に着いた頃か、」
落ち着いた足取りでスピカはアカツキの傍に立つ。そしてアカツキの言葉に頷いた。
「…あの女も居れば少しは凌げるか」
燃えるような赤髪の女を思い出しながら呟いた。アカツキは1月の鉱石とはまた違う率直な物言いをする男だった。役立たずと判断すればその様に扱い、従うと決めたものには命を懸ける。そんなアカツキを他の主たちより長く見ているスピカは、東国の武士の様だといつも思っていた。
「…まぁ、お前が居れば大事はないだろうが」
アカツキの言葉にスピカは苦笑しただけだった。手袋で覆われた右手。一際不自然な「それ」こそが、スピカの「力」だ。
「…先を急ぐぞ」
アカツキは言いながら踵を返す。真剣な面持ちでスピカは頷くとその後を追った。

アカツキの名は一部にはよく通った名だ。スピカもその名をよく知っていた。今だからこそ解るが、アカツキの忠誠心の高さがたくさんの命を散らしたのは言うまでもない。どちらかと言えば悪名の高い「その」アカツキに出会した時、彼は酷く気が立っていた。外見は全くと言っていいほど波たたぬ冷静そのもの。だが、それを持ってすら余る殺気が満ちていた。

「――――何を見ている、」

低い、声だった。スピカは言葉一つ発することなく、アカツキを見返す。
「何を見ている、と訊いている」
スピカは答えなかった。それには色々な理由があって、スピカはそれを言葉で説明することができなかった。その間にもアカツキはスピカとの距離を縮める。正面に立った時、圧迫感が増したような気がした。何事かと野次馬が現れ、更に不機嫌な様子でアカツキは舌打ちした。
「スピカっ」
集まった連中の中から聞こえた言葉に、
「名前一つまともに言えないのか、」
今度ははっきりと解るようにアカツキが眉をひそめた。それでもスピカはただ呆然とアカツキを見上げていた。アカツキが刀に手をかける。周りに緊張が走る。スピカは。
「…ちっ、」
二度目の舌打ちをしてアカツキは抜きかけた刀を収めた。

恐らく「それ」はきっと、スピカにしか解らなかった…はずだ。

だが、それを自覚する前にスピカの意識は暗闇に堕ちた。グラリとバランスを崩したスピカの身体を自然な動作でアカツキが抱き留める。それは先程とは一転して労るようだった。
アカツキは腕の中のスピカを見下ろし、そして思う。

雨のように染んでくるもの。

アカツキは軽く空を仰ぐ。雨など、降っているはずもないのに。

「―――…案内しろ、」

アカツキの言葉に反応はない。誰もが警戒している。スピカを取って食うとでも思っているのだろうか、馬鹿馬鹿しい思考に少しだけアカツキは苛立った。
「こいつを寝かせる場所へ案内しろと言っている、」
言い方こそ変わらないが、少しだけ分かり易くなったアカツキの言葉に先程スピカの名を呼んだ少年が反応した。もっとも、そんなことをアカツキは覚えていないが。

あれからどれくらい進んだのか。トランプが現れる度立ち回って進んだ分を戻っているのではないかとさえ感じる。だが次第に強くなってきた他の鉱石の気配。或いは交戦中に乗り込むことになるやもしれない、アカツキは口許にだけ不機嫌を滲ませた。

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新たに出てきた!

アカツキは「六月の君」、スピカは「九月の君」。
そもそも、レイヴンは「十二月の君」。
フリクリは「一月の君」で、キングは「三月の君」。
ジークが「二月の君」で、ルカが「四月の君」。
……残すところ、あと五人(苦笑)まだまだ先は長し!
  • 水城夕楼
  • 2007/08/15(Wed)18:24:36
  • 編集

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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