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或いは裏切りと言う名のⅠ

「ウゼぇんだよなぁ、正直」
神津は呆れながら頭を掻く。そうして具現化した鎌を軽々しく上げて、何ともない様子で振り下ろした。
重力に従うように、当たり前のように。

だって、それが、当然のことだから。


『或いは裏切りという名の』


「お前さぁ、それで何人目だ?繰り返しよくもまぁ、飽きないもんだな」

茉咲の言い分は尤もである。それに対して神津はえらく不機嫌な様子で無視を決め込む。そもそもの始まりは、神津がらしくもなく返り血をつけていたこと。それに気づかぬまま、何の偶然か(茉咲に限っては偶然はありえない気がするが)茉咲に遭遇。目敏い茉咲がそれに気づかないはずもなく。そして、先のセリフに戻る。
神津は「誰のせいだ誰の」と内心舌を出す。茉咲の影響がすべてでないとは言え、少なからず茉咲にも責任があると神津は思う。そう正直に言ったところで自分の分が悪くなるだけだと思い知っている神津は無視を選択したわけだ。
だが一方の茉咲はそれを見透かしたようににやつくだけ。どこまで見透かしてるのか計り知れないが、その目は明らかに神津の反応を楽しんでいた。
「ま、別にお前の"癖"を責める気はねぇが、女減らして自分の首締めてねぇか?」
「…う゛」
矛盾には気づいている。少なくとも夜毎女の数は減っていくわけだ。さすれば自ずと0になるのは明白。小学生でも解る引き算だ。
「そこら中ホモだらけだな」

お前が言う台詞か

寒すぎるーと震えてみる茉咲に心の中でツッコミ、冷たい一瞥を投げる。いつからこんな小芝居を覚えたのだろうか。神津と茉咲とは空白の期間がある。その間に覚えたのだろうか。面倒になったものだ。茉咲は冷たい一瞥に対して特にどうという事もなく、手元のカップを神津に突き出した。
「ん、」
神津は理不尽だと思いながら、茉咲の催促に応じて珈琲を入れるため席を立った。
「…あぁ、そうか」
いつもの獅戯はこんな感じなのかと思い至って神津は小さく笑った。
珈琲を淹れながら神津は空白の期間に思い巡らす。その間に茉咲が同居していた女には過去に遭遇している。お世辞ではなく十分に美人で、猫の目のような綺麗な瞳の色をしていた。茉咲の言葉をどこまで信じるかはともかく、手を出さなかったというのが嘘なくらい茉咲好みではないかと神津は思う。
「しかし、物好きだよな…」
茉咲を同居させてやるとは。思いながら自分も該当していることに気づき、少しヘコんだ。

「あ、桐子?」

そこへ聞こえてくる茉咲の声。神津は淹れたての珈琲を頭からかけ流してやりたい衝動に駆られたが、ぐっとこらえて茉咲の前に置いた。
「…分かってんよ、んなこと。ガキ扱いすんな」
茉咲は愉しげに笑って、電話を切った。
「俺のは登録しても出ねぇくせに、女相手はすんなり出るんだな」
神津の声にキョトンとした表情を向ける茉咲。はっと自分の発言に神津が気づくも既に手遅れ。

「何お前、妬いてんの?桐子相手に、」

茉咲の中で彼女がどの位置にいるか不明だが、子供じみた発言の対象としては圏外だったらしい。ひとつだけ確かなことは、茉咲が面白がるネタを提供してしまったということ。
「妬くか」
とりあえず茉咲の発言をバッサリ切り捨て、神津は踵を返す。勿論、それを放っておく茉咲ではなく。
「俺って愛されてんねぇ」
見事に捕まる。いい加減力で勝てそうな気がするが、それなりに神津の弱点を知っている茉咲には幾らでも動きを封じる術はあった。
「離せ、死ね」
完全に冷静なら、自分がいつもの紫闇と同じようなことを口にしたと気づく余裕もあったのだろうが。
「――――…ちょっと付き合え、」
不意打ちのように真剣な声の茉咲。

「……ハァ!?ちょっ…」
神津が我に返った時には、既に外に連れ出されていた。
部屋には少しずつ熱を失っていく珈琲だけが取り残されていた。







続く

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無題

神津、がかわいいですね。なんとなく。
そしてこっちだと神津がやっぱり年上だなと実感してます(笑)
八神のほうは現在、高校一年生ですからw
  • 八神
  • 2007/06/05(Tue)21:42:52
  • 編集

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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