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Ⅱ.やわらかな傷跡 2

幸の唐突な台詞に、二人は文字通り言葉を失った。それぞれが驚きと困惑と、複雑な表情をしている。
「ひとりひとりでの強さは証明されてるお前たちが組んだら、一体どれほどの力を発揮されるのか…アタシは見てみたい」
「……いきなり何を言い出すかと思えば、」
「冴晞は日本刀を扱う前衛型、獅戯、お前は銃を扱う後衛型。それがハマったら、とんでもない力になるとは思わないか?」
幸は一息おいて、こう言った。
「お前たちには何かを感じる…何度も言わせるな」
獅戯がどう答えたらいいものかと思案していると、そこへ冴晞が割って入る。
「少し整理させてください。まず、幸さんは僕らに何かを感じて引き合わせたんでしたね?そしてその上で僕らに組んで戦ってみろと言うんですね?」
幸は冴晞の言葉に頷く。
「確かに僕は前衛型、獅戯さんは後衛型です。ですが、組んでみろと言われてそう簡単にできるものではないでしょう?」
「もともとひとりで殺ってたもの同士だからな」
冴晞の言葉に、獅戯も続ける。だがそれに大して動じた様子もなく、幸はさっきと同じように悪戯な笑みを浮かべた。
「そんなことアタシが解らないとでも思ってるのか?ぶっつけ本番で強い奴とやれだなんてあたしは一言もいってないよ」
「確かに、そうだけど…」
「どうせお前に追手がかかるのは時間の問題だ。それに、練習台ならいくらでも居るだろうが。元々面倒な連中だ、それを利用しないでどうする」
幸の言い分は正しい。だがそれを認めるなら、幸の「組んでやれ」というのは変更の気かない絶対的なことだと認めることになる。それを分かっているだけに、二人は素直に首肯できないでいるのだ。
「…すごく強引なこと言うよな、アンタって」
それは獅戯も冴晞も理解っていたことだが。結局獅戯が折れて、抗議をやめた。従って、冴晞もそれ以上何も言わなかった。
「夜まではまだ時間がある、どうするか、詳しい事はお前たちで考えな。お前たちは“二人”なんだから」
そう幸から言い渡された二人は、ボーダーラインを後にした。かといって何かする事があるわけでもなく、ただ漠然と外を歩いている。そもそも、それなりの実力は証明済みというのはあくまで幸から見た状況の話であって、獅戯も冴晞も自分の隣りを歩く相手がどれほどの実力者なのか理解しているわけではない。実際に戦っている様子を見ればどれほどの実力なのかある程度は把握できるのだろうが、夜にはまだ早い時分、カオスが都合よく出てくるわけではない。かと言って、自分たちから喧嘩をふっかける気もない。それこそ、二人にとっては面倒だ。とりあえず、仲の良い物品の仲介屋をひやかしに行ったり話しながら歩いたりと二人は夜まで時間を潰すことにした。
そしてその夜、二人は初めて追って相手に実践する羽目になる。獅戯は利き手に銃を、冴晞は利き手に日本刀を具現化。互いを意識しながらも、それぞれいつものように相手を仕留めていく。数があまり多くないのも幸いし、それこそ数分の戦い。互いの実力把握には不十分だったが、「それなりの実力者」であることは認識できた。
「…終わりましたね、」
「あぁ」
どこか肩透かしを食らったような感覚を抱いたまま、二人はボーダーラインに向かった。
「何だ、その表情は」
「…いや、いつもより早く終わった」
「いい調子じゃないか」
幸が楽しそうに笑って応える。冴晞はその反応に僅かな引っ掛かりを覚えたが、あえて口にしなかった。その判断が、後に影響を及ぼしてくることを知っていたら、きっと迷わず冴晞は口にしたはずだ。
『貴女は、何をどこまで見通しているんですか、』
と。
それから幾度となく戦いを繰り返していく内に、二人の間に妙な空気が生まれ始める。ほんの些細な事だが、「合いすぎる」のである。最初に気付いたのは、二人の間に上手く入り込んだ男を二人で仕留めた瞬間。同じ男の動きに同じく反射的に対応した結果、互いの動きを殺すような形になっていた。言うなれば、蜘蛛の糸にでも絡め取られたように動きにくくなっていたのだ。
「…日に日に空気が尖ってるんじゃないかい?」
二人は応えなかった。その様子に幸は小さく嘆息する。二人で組むようになって、始めは些細なことと意識していなかったズレがだんだん深刻さを帯び始めていた。それに気付いたのならこの空気は理解できる。相手にとって仕掛けやすい隙があれば、当然迎え撃つにしてもやりにくくなる。ましてや個々として充分実力のある二人だ、屈辱的に違いない。口で諭すのは簡単だが、実際に体験してみなければ正しい意味での理解はできない。それを知っている幸だからこそ、口に出さずとも何とか打開策を見つけて欲しいと思っている。ズレが大きくなればなるほど、リスクは高くなるのだから。幸はちらりと二人を見て、また嘆息した。その時。
「何だっ!」
ガラスが悲鳴を上げて砕ける。被害はそう大きくないが、硝子の破片が店内に散らばる。
「…元気な奴がいるじゃないか、ねぇ」
幸が呟き、獅戯がすぐに席を立って出て行く。一歩ほど遅れて冴晞もそれを追いかけ出て行った。
「―――――どうやら今日は、一荒れありそうだねぇ…」

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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