monocube
monoには秘めたイロがある。
見えないだけでそこに在る。
数え切れないそれは、やがて絡まり色彩(イロ)になる。
さぁ、箱をあけてごらん。
箱庭(ナカ)は昏(クラ)く底なしの闇色(モノクロ)。
深い闇に融けたらいいのに。
日々の戯言寄せ集め。
当サイトは作者の気まぐれにより、自由気ままに書きなぐった不親切極まりない戯言の箱庭です。
このまま水になって融けていけたら、
跡形もなく。
存在しないことになれたら。
※風来坊と竜の話。暗い思考に落ちる風来坊を拾って帰る竜。続きは折りたたみ↓↓
呼吸の音が耳障りなくらいに大きい。
砂利を踏む音すら消してしまえるほどのそれは、内側から全ての器官を容赦なく侵蝕していく。
身体は麻痺していくくせに、染み付いた血の匂いだけはやたらはっきりと分かる。
(…気持ち悪ィ…)
人を斬る感触には慣れない。
傷つける手応えも苦手だ。
(けどそれがなくなったら、きっと俺は人でなくなっちまう)
そんな気がする。
豪奢な服に跳ねた血が気持ち悪くて、河川敷から川の中に飛び込んだ。
冬に入ったばかりのこの時期の川の水は凍るように冷たい。
けれどその冷たさが、人を斬って起こった何とも表現し難い昂りを少しずつ鎮静していくような気がした。
悴む手で髪を解いて結わいた髪飾りを放る。
水に浸かった髪は既に腰丈になっていた。
(…未練たらしいったらねぇや…)
叶わないと分かっていて願掛けなんて。
両手で水を掬い上げ顔に当てる。
ぽたりぽたりと音を立てて手の水は零れ落ちて、それでも顔を覆った手を離すことが出来なかった。
そうしてどれくらい居ただろうか。
手の水は一滴残らす流れて、ようやく両手を離した時には既に手の感覚は薄くなっていた。
放った髪飾りは流されてどこかに消えていた。
鈍る足を動かして川から上がる。
「血生臭ぇのはテメェらしくねぇな」
俯く視界に入る髪飾り。
それを持つ手は月明かりに白く浮かび上がって見えた。
すぐに誰だか知れると、笑いが込み上げてきた。
「はは、俺らしくって、何?」
そこで、ぶっつりと記憶が切れた。
目を覚ました時、座敷に差し込む月明かりが綺麗で眩しかった。
どうやらまだ一刻ほどしか経っていないようだった。
開け放たれた襖。
冷気が肌を撫でるのをまるで意に介した様子もなく、竜は何かを待っているようだった。
身体を起こして竜の背中に声を掛ければ、しっ、と言葉を制された。
一度こちらを見た竜は再び外を、空気の張り詰めた今宵の月を見上げた。
それを追う様に外を見遣れば、すぐに竜が何を待っていたのか知れた。
静かな夜に、響く笛の音色。
名月の夜でもあるまいに。
「…あいつはこういうことまで全部捨てようとした」
竜の右目を名乗ると言うこと。
その名を背負うということが決して生半可なものではないことは自分にも良く分かる。
「…右目さんらしいな、」
「俺はあいつにも、誰にも…何も捨てさせたくねぇんだ」
それはこの竜の甘さ、足枷。
でもその甘さを尊いと思う。
「だから、俺がやった」
口許に笑みを滲ませながら、竜は目を伏せる。
「あいつの為に、あいつだけのモノを、な」
そんな竜にあの右目は時折こうして応えているのだろう。
「…妬けるねぇ、」
「やらねぇぞ?」
からかったつもりがサラッと言い返されて。
「なんてそんな野暮なことしやしねぇさ」
と苦笑した。
(そうか…だからこの音色はこんなにも優しいのに、どこか胸が締め付けられる)
吹き手の心を映したように。
愛しい人。
『慶次、あの人を責めないで』
親友。
『これは、弱い私がいけなかったのだから』
深すぎる傷。
怖くなって。
「―――誰もテメェを責めやしねぇよ、」
ぽつりと竜が呟く。
聞き違いだろうか。
竜を見れば、先程から変わった様子はなかった。
「怖いのは怖いまま、痛いのは痛いままだって構わねぇ」
誰かを想うこと。
誰か一人を愛すること。
「…だが俺は、向き合わずに居るのは好きじゃねぇ」
恐怖も痛みも圧し込んで、進んでいく。
(…政宗は、強い、)
だたそれだけだ、と言う竜のように自分は強くない。
足が竦む。
「髪、伸ばしてる理由あるのか?」
突然問われて。
「…願掛け、みたいなモンかな」
髪を掴んでそう苦笑する。
「なら、んなモン切っちまえ」
竜はこちらを真っ直ぐに見てそう言った。
「そんなに長くても叶わねぇなら、さっさと切って願いは自分で叶えろ」
と、何の迷いもない声で。
「…そう、だな」
そうかもしれない。
願掛けにいつしか縛られていたのは自分で。
怖いものは怖い。
痛いものは痛い。
鼓膜を揺らす笛の音色が、心を揺らす。
格好悪いが泣きそうになって。
「―――好い音だ、」
誤魔化すように呟けば、
竜は言うまでもないとでも言っているのか、何も応えずに口許だけで笑った。
存在しないことになれたら。
※風来坊と竜の話。暗い思考に落ちる風来坊を拾って帰る竜。続きは折りたたみ↓↓
呼吸の音が耳障りなくらいに大きい。
砂利を踏む音すら消してしまえるほどのそれは、内側から全ての器官を容赦なく侵蝕していく。
身体は麻痺していくくせに、染み付いた血の匂いだけはやたらはっきりと分かる。
(…気持ち悪ィ…)
人を斬る感触には慣れない。
傷つける手応えも苦手だ。
(けどそれがなくなったら、きっと俺は人でなくなっちまう)
そんな気がする。
豪奢な服に跳ねた血が気持ち悪くて、河川敷から川の中に飛び込んだ。
冬に入ったばかりのこの時期の川の水は凍るように冷たい。
けれどその冷たさが、人を斬って起こった何とも表現し難い昂りを少しずつ鎮静していくような気がした。
悴む手で髪を解いて結わいた髪飾りを放る。
水に浸かった髪は既に腰丈になっていた。
(…未練たらしいったらねぇや…)
叶わないと分かっていて願掛けなんて。
両手で水を掬い上げ顔に当てる。
ぽたりぽたりと音を立てて手の水は零れ落ちて、それでも顔を覆った手を離すことが出来なかった。
そうしてどれくらい居ただろうか。
手の水は一滴残らす流れて、ようやく両手を離した時には既に手の感覚は薄くなっていた。
放った髪飾りは流されてどこかに消えていた。
鈍る足を動かして川から上がる。
「血生臭ぇのはテメェらしくねぇな」
俯く視界に入る髪飾り。
それを持つ手は月明かりに白く浮かび上がって見えた。
すぐに誰だか知れると、笑いが込み上げてきた。
「はは、俺らしくって、何?」
そこで、ぶっつりと記憶が切れた。
目を覚ました時、座敷に差し込む月明かりが綺麗で眩しかった。
どうやらまだ一刻ほどしか経っていないようだった。
開け放たれた襖。
冷気が肌を撫でるのをまるで意に介した様子もなく、竜は何かを待っているようだった。
身体を起こして竜の背中に声を掛ければ、しっ、と言葉を制された。
一度こちらを見た竜は再び外を、空気の張り詰めた今宵の月を見上げた。
それを追う様に外を見遣れば、すぐに竜が何を待っていたのか知れた。
静かな夜に、響く笛の音色。
名月の夜でもあるまいに。
「…あいつはこういうことまで全部捨てようとした」
竜の右目を名乗ると言うこと。
その名を背負うということが決して生半可なものではないことは自分にも良く分かる。
「…右目さんらしいな、」
「俺はあいつにも、誰にも…何も捨てさせたくねぇんだ」
それはこの竜の甘さ、足枷。
でもその甘さを尊いと思う。
「だから、俺がやった」
口許に笑みを滲ませながら、竜は目を伏せる。
「あいつの為に、あいつだけのモノを、な」
そんな竜にあの右目は時折こうして応えているのだろう。
「…妬けるねぇ、」
「やらねぇぞ?」
からかったつもりがサラッと言い返されて。
「なんてそんな野暮なことしやしねぇさ」
と苦笑した。
(そうか…だからこの音色はこんなにも優しいのに、どこか胸が締め付けられる)
吹き手の心を映したように。
愛しい人。
『慶次、あの人を責めないで』
親友。
『これは、弱い私がいけなかったのだから』
深すぎる傷。
怖くなって。
「―――誰もテメェを責めやしねぇよ、」
ぽつりと竜が呟く。
聞き違いだろうか。
竜を見れば、先程から変わった様子はなかった。
「怖いのは怖いまま、痛いのは痛いままだって構わねぇ」
誰かを想うこと。
誰か一人を愛すること。
「…だが俺は、向き合わずに居るのは好きじゃねぇ」
恐怖も痛みも圧し込んで、進んでいく。
(…政宗は、強い、)
だたそれだけだ、と言う竜のように自分は強くない。
足が竦む。
「髪、伸ばしてる理由あるのか?」
突然問われて。
「…願掛け、みたいなモンかな」
髪を掴んでそう苦笑する。
「なら、んなモン切っちまえ」
竜はこちらを真っ直ぐに見てそう言った。
「そんなに長くても叶わねぇなら、さっさと切って願いは自分で叶えろ」
と、何の迷いもない声で。
「…そう、だな」
そうかもしれない。
願掛けにいつしか縛られていたのは自分で。
怖いものは怖い。
痛いものは痛い。
鼓膜を揺らす笛の音色が、心を揺らす。
格好悪いが泣きそうになって。
「―――好い音だ、」
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プロフィール
HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
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