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こんなにも、

外の世界は靜かだったろうか。




※現代版蒼主従話。蒼→高校生、右目→社会人。なので右目は普通に蒼を年下扱い。その⑧。駆け落ちごっこをする二人。続きは折りたたみ↓↓

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父の葬儀の日は、故人を偲ぶ思いを映したような雨空だった。
誰よりも先頭に立ち、気丈に全てを取り仕切っていたのは母だった。
自分はともかく、まだ中学生の弟には無理だったからだ。
けれど母に寄り添って支えてやることを忘れない賢い弟だ。
他の親族が関わることは極力避けた。
長男が継ぐ、という伊達家代々のしきたりを曲げるにはそれほどに母が認められなければならない為だ。
母は弟に全てを継がせようとしている。
それは昔から感づいていたことだったが。
地位も名誉も自分には必要なかった。
そんなものが欲しいとは思わないから、母の願いが叶えばいいのにとただそう思っていたのだ。
父の言葉を、父の親友(であり自分の師でもある先生)に聞くまでは。

「君の父上はね、長男だからという理由ではなく、君の事をよく知っている上で君が全てを継ぐことが良いと考えていた」

先生だけに託された言葉。
そして形に残った父の遺言。
「……先生、それを出すのは少し待ってもらえないか」
これが公に知られれば、母がどうしようと自分が遺言にそって全てを継ぐことになる。
ただ、時間が欲しかった。
全てを継ぐことになるなら、そのための覚悟をする為の時間が。

(でも…、本当は)

何もかもを放り出してしまいたかっただけなのかもしれない。
家に戻るといつもと変わらない光景。
出入りする弁護士の男と、必死に訴える母甲高い声(母は何かに耐えられなくなるとヒステリーを起こして声を荒げる)。
目が合うと、取り繕うような愛想笑い。

(居心地が良かったことなんて記憶にないが、)

家の中はまるで他所の家のように居心地が悪くて仕方がなかった。
空っぽの言葉。
空回りする空気。
だから家に入る足が遠のいて。
雨に濡れるのも気にせずに、走って丁度ホームに入ってきた電車に駆け込んだ。
突きつけられる現実に面と向かう勇気がなくて、逃げるように。

携帯の電源を切って、カバンの底に落とした。
これがあったら捕まってしまうような気がしたから。
誰の手も届かない場所に逃げる為には、誰とも繋がりを絶つ必要があった。
それなのに。
同じ車両に乗っていた人が一人、また一人と減っていくにつれて少しずつ怖くなって。
寂しくて死んでしまいそうで。
抱き込んだカバンの底から携帯を取り出して電源を入れた。
途端にメール受信音が派手に鳴った。
何通も続く未開封メールの送信者は全部同じ。
見てみれば本文も送信時間の感覚も短くなってきて、最後の一通は「電話しろ」の一言。

(しかも本文ではなく、タイトルに一言だ…笑える)

普段慌てた表情なんて滅多にしないから可笑しくて仕方がなかった。
やがて電車が終点に着いて、ホームの待合室に駆け込む。
外は予想よりも冷え込んできていた。
履歴から番号を表示した途端に、今度は電話が鳴った。
うっかり落としそうになるのをしっかりと掴んで、表示を確認し通話ボタンを押した。

「…こ、「“お前、今どこにいるんだっ”」

名前を呼ぶ声は遮られ、怒鳴る勢いの声に掻き消された。
思わず背筋を伸ばして見回すと、まだ見知った駅だ。
誰の手も届かない場所なんて程遠い。
駅名を告げると、「“待ってろ、今そっち行くから、絶対に動くなよ”」
なんてしっかりと念を押されて電話は切れた。
らしくもなく慌てた声。

(…あんな声、聞いたの初めてだ、)

そうさせているのが自分だと思うと、少しだけ気分が浮上した気がした。
その後、何本か電車を見送ったところで俯いていた頭を叩かれた。
顔を上げたらマフラーを巻かれた。
そして隣に座ったのを確かめて寄りかかる。
小十郎は何も言わなかった。
理由を問うことも、黙って消えたことを咎めることも。
次の電車が来て、手を引かれるまま二人でその電車に乗った。
「…母さんたち、何か言ってたか?」
「俺は聞いてないな」
「じゃあ何で、」
問えば、小十郎はどう言ったものかと思案して。
「お前から返事が来なかったから、だな、きっと」
何だよそれ、と笑ったら、軽く頭を叩かれた。
「普段からマメに返信してたお陰だな」
異変に気付いたのは。

(本当に、そうかな)

もしかしたら自分が無意識に呼んでいたのかもしれない。
「…俺は、親父の遺産なんてどうだっていい」
欲しいやつが好きにすればいいと思う。
「けど、長男って肩書きは捨てられねェでやんの」
付いて回る、付き纏う、足枷になる。
「だから、逃げた」
立ち止まったらその場から動けなくなりそうで。
雁字搦めになる前に、と目の前の現実を後回しにしたかっただけだ。
「――――けど、」
暗闇に放り出されたようで怖くなった。
矛盾してる事だって分かっていたけど、それでも小十郎には見つけて欲しかった。
怒られたって構わない。
右手を握った小十郎の左手。
何も言わなくても分かってるから、そう言われた気がしてぐるぐるに巻かれたマフラーに顔をうずめた。
そのまま電車に乗って、片道で行けるところまで二人手を繋いでいく。
手を引いたのは小十郎で、不思議に思って見上げたら「駆け落ちみたいでいいだろ」と笑われた。
「そりゃあいい!」と手を握る手に力を込めた。
泣いていた雨空はいつしか夜明けと共に虹がかかっていた。
その下に行きたい、と言ったら、それはまた今度だと言われ短い駆け落ちごっこは終わった。

家に戻って母の前に自分を庇って立った小十郎は、
「宿題が終わらずに自分がずっと引き止めていた」などど実に分かりやすい嘘を真面目な表情で言い放った。
真面目に言うことに呆れたのか母は深い追求もしなかった(それほど興味もないのだろう)。
帰り際、小十郎の手をなかなか離せずにいると、急に抱きしめられて。
「こじゅ…ろ…?」
小さく、優しく、子どもを諭すように小十郎は。

「次はない、逃げるなら一人じゃなくて、俺も行く、いいな」

答えを待たず、小十郎は腕を放して歩いていく。
その背が消えるまで見送って、その場にしゃがみこむ。

とにかく、無性に泣きたくなった。
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
33
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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