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ドクン、と、

心音が大きく響いて。
声が、言葉が、出ない。

「佐助ェェェェっ!!!!」

劈くような紅の声に、
ようやく自分の身に起こっている現実を自覚する。

(…俺、は、)
駆け寄ってくる紅を視界にはっきりと捉えて。
あぁ、良かった。
と、ただ、そう思った。


闇の中に仄かに滲む光り。
それが何なのか、ゆっくりと重い瞼を持ち上げて知れた。

(…さくら、だ)

軽く身じろぐと波紋のように広がる鈍痛。
声を噛み殺して、身体を起こすと開け放たれた窓枠に凭れる。
目が覚める前までは、確かに傍に紅がいた。
その残滓を、何となく感じ取って笑みを浮かべた。

(…格好悪ィ…)

傷はそんなに深くは無いが、如何せん出血が多かった。
実際のところ、貧血でフラフラだし。

(でも、ま、旦那無事みたいだし、結果オーライってことで)

サラサラと枝が揺れる音が心地よくて。
ゆっくりと目を閉じる。
そして再び眠りの中に落ちかけていると、
背中をくいと引くように馨る、花の香り。
不意に。

「…何、やってんの…?」

頭上から降り注ぐ、淡い桜の花びら。
それを降らせる、両手。
「―――…花見だ、花見」
顔を上げると、そこに、蒼がいた。
「意外と早ェ、お目覚めだな」
「ここ、アンタの屋敷か」
揉め事を領地内に持ち込ませないために、
本来関係ないはずの伊達がしゃしゃり出てきたというわけだ。
「幸村なら、ぶっ倒れたんで小十郎が面倒見てるぜ」
「ぶっ…!!」
勢いよく身体を起こしたら、鈍痛が走って結局窓枠に倒れた。
それを見て、蒼は愉快そうに笑った。
「別に取って食ったりはしねぇよ、」
見りゃ分かんだろ。
蒼の言葉に強面の右目を思い浮かべて首を傾げた。
取って食いはしないだろうが、
不穏な動き一つ見られたら躊躇いなく斬られそうだ。
「主従揃って情けねぇな、真田ってのは」
「大きなお世話だよ、」
相変わらず桜はゆっくりと枝を揺らし、
はらはらと花びらは舞い落ちて。
視界を閉じて感覚の鋭くなった鼓膜を揺らす、蒼の声。
それは今まで聞いた中で、一番静かだった気がした。


「――…春ってのは、別れる季節にしちゃあ、一番切ねぇ季節だ」


どこぞの風来坊の言葉みたいに。
それは誰かに向けての言葉ではなかったのかもしれない。
それはそう、独白のような。
自分に言い聞かせるような。
「こんなに桜が綺麗な季節に、そんなのは勿体無ェだろ」
桜が咲くたび思い出す、別れの記憶。
春が来るたびぶり返す、離れた痛み。

「…なぁ、旦那が戻ってくるまで、もう少し此処に居てくれない?」

その一国を背負うにはまだ頼りない背中に言葉を投げて。
「…無用だろ、そんなもん」
蒼は、振り向いて不敵に笑う。
そして二度と振り返らずに、歩いていった。
それからすぐに、
「…さ、…」
気遣うように音を立てずに開けられた襖。
「佐助ェェェェェェッ!!!!」
振り返れば、そこに愛しい紅。
「佐助っ、佐助っ」
ぎゅうぎゅうと力任せに抱きしめられて。
「…旦那、ちょ、痛っ、待って!」
そんなに不安になったのかい?
「ちょ、ホント、中身出るから!!」
それだけ恋しかったのかい?旦那。
紅に子どもの頃の姿を重ねて、

(こういうところは変わらないんだよね…)

仕方がないから、出来うる限りしっかりと抱きしめ返した。













ようやく紅従主。
きっと、赤主は非常に感情表現が極端なんだと思う。だって…滾るぐらいだし。

↓折り畳みにオマケの蒼従主(※初書き)

拍手[0回]

桜を見上げながら、遠く紅たちの騒がしい声を聞いて。
 
「…どうされました、こんなところで」

「…ん?花見だ、花見」
すると微かに笑う気配がして。
「ならば、小十郎も呼んでくださればよいものを」
後ろに控える身体に寄りかかって、
「呼んだら来たか?」
上を向いて問えば、ゆっくりと「右目」は目を伏せて。

「…呼ばれずとも、小十郎は政宗様のお傍におりますよ、」

その言葉に満足げに頷いて、目の前の桜を見上げた。



願わくば、次の年も、この桜の下で。
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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