ｍｏｎｏｃｕｂｅ

屋敷から大して離れていない畑に向かう。
ゆっくりとした足取りで向かう時分はやがて日も落ちると言う頃。
曇天は更に色濃くなり、さらさらと水滴を落とし始めている。
けれど雨になりきらないそれを俄に煩わしく感じながら歩いていると視界を過る黒い影。
不吉な予兆すら感じさせる鴉の群れ。
死人の屍でも啄みに来たのだろうか。
いつもなら畑に帯刀しては来ないのだが、つい先刻まで外に出ていた格好のまま来てしまったゆえ腕に主より賜った愛刀が触れる。
日が落ちれば鴉の領域になる。
少しだけ歩みを早めた気配に気づいたのか、鴉はすぐさま濡れた漆黒の羽根を広げ天高くく曇天に消えた。
その中で一羽だけが畑の土の上を跳ね首を傾げては、カァ、と低く鳴いた。
左の親指で鍔を押す。
音も立てずに僅かに刀身が覗き鈍く光る。
それに鴉が気づいたか定かではないが、鴉は僅かに先刻より声をあげて、カァ、と鳴いた。
ひとつ嘆息。
納刀して少しだけ鴉に近づくと、首を傾げる鴉に向かって腕を伸ばす。
雨は先刻より確かな形を持ってふりはじめてきた。
鴉は。
大袈裟に羽根を広げる音を立てて、伸ばした腕に留まり羽根を閉じる。
腕にかかる重さはその体躯から想像するには軽い気がした。
雨を弾くその羽根を愛しげに撫で、今頃自分の鴉は何をしているのだろうかと、宵の浸食する天に想いを馳せる。