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昔と何一つ変わることなく、

ただひたすらに優しく降りそそぐ、桜雨。
甘い馨りと頬をくすぐる花びらに、自分を支える確かな腕の温もりを思い出す。
一番愛して欲しかった人は抱きしめてくれなかったが、抱きしめてくれる人がずっと確かに傍にいる。




※現代版蒼主従話。蒼→高校生、右目→社会人。なので右目は普通に蒼を年下扱い。その⑨。
花見をするため思い出の場所に出かける二人。続きは折りたたみ↓↓


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慌しくリビングを駆け抜ける。
「忘れ物はないか?」
「なきゃ途中で買えばいいよ」
「誰の金だと思ってる」
軽く頭を叩かれる。
そんなにお金にケチなわけでもないし、深刻に気にしているわけでもないくせに。
必要な荷物をもって部屋を出る。
今日は懐かしいある場所に出かける。
そう決めていたのは一年前の春から。
開花宣言がでたら行こう、そう約束していたのだから。
大きなバスケットを手に、もう片手には子どもが遠足に使うようなキャラクターのビニールシート。
「転ぶなよ」
とりあえず直近のライフラインは全てこの手の内にある。
だからだろうか自然と急ぎ足になるのを笑って窘められた。

(だって、ずっと待ってたんだ、晴れるようにって、早く来るようにって)

少しくらい浮き足立つのは許して欲しいと思う。
道すがら通りかかった土手の桜はかなり綺麗に斑なく咲いていた。
その下でのお花見も非常に魅力的ではあったのだが、この土手では意味がない。
「2人っきりじゃ、ないし」
「…?」
くるりと振り返って笑うも、小十郎はサッパリ意味が分からないとでも言うような表情をしていた。
「早く行こ、」と言えば、「桜はそう簡単に散らないし逃げないぞ?」と笑われた。
いつもは散々こっちを振り回すくらい余裕なくせに、
こっちの心の準備が出来ている時に限って肩透かしを食らう。
一緒に暮らしていてそういうところには慣れてきたつもりだが、物足りないと感じるのも事実で。
拗ねたような表情でもしてしまったのだろうか。
手にしていた大きなバスケットは大きな小十郎の手で回収。
手放して空いてしまった手を攫うように小十郎の左手が触れて。
小十郎を見上げると、何事もなかったように変わらない表情をしている。
悔しいから握る手に力を込めると、「随分積極的だな」とまた笑われた。

桜の群れから少し外れた場所に在る一本の桜。
建物の裏に隠れているということもあって、
此処にこんな立派な桜があることを知っている人は少ない。
ビルに切り取られた空を覆いつくさんばかりに枝を広げたその桜の大木は、
自分が幼い頃からずっとこの場所に根を張る老木だった。
「まだ此処は少し早かったか…」
ほんのり甘い馨りはしたが、見るとまだ満開には足らない。
開花宣言が平日だったなら、
それから少しでも晴れた日が続いて週末に出かけるタイミングとしては丁度よかったのだろうが。
桜に近づいて既に咲いている低い枝を探す。

(もっと近くで、見たい)

蘇るのは幼い頃の記憶。
家族で遊びに来ていた頃は、まだ建物はなくだだっ広い広場だった。
父親と父親に抱かれてはしゃいだ声を上げる弟と、
まるで魅せられたように桜を見上げる母親がいて。
抱っこを強請る子どものように母親を見上げ服を掴んで引く。
けれど視線が自分に向けられることはなく、掴んだ指先からするりと母親の服は逃れて。
桜の馨りなど全然分からなかった。
けれど。

「お前の背丈じゃ、手が届かないだろ」

そう、やり場のない手を救い上げるように声が降って来て。
「ほら、」
自分を抱き上げる腕。
さっきよりもずっと桜に近づいたら、風にそよいで揺れた枝とさわさわ音を立てる桜の花。
ふわり、優しくて甘い馨りが掠めて。
揺れる桜の枝の向こうに居る母親(あのひと)。
その風にそよぐ黒髪を見ていたら泣きたくなって。
支える誰かにしがみついた。
顔を見られないように、首もとにうずめて、声を押し殺して。

(どうか…)

どうかこの優しい馨りが全て消してしまいますように。

(胸の痛みも寂しさも全部)

そう祈った。

「…政宗、どうした?」

荷物を置いて傍らに立つ小十郎を見上げる。
「さすがに今の俺なら、届くと思ってさ」
咲いた桜の枝探しを再開する。
だが歩き出したらすぐに手を引かれて、後ろから腰に腕が回される。
すっぽりとその腕に閉じ込めながら、
「抱っこしてやろうか?」
と少し意地悪に小十郎が言うから。
「結構だ、」
と小十郎の顎を手で押しのけて逃れる。
危なかった、と内心安堵の息をついたのは内緒だ。
「それより、お腹空いた」
跳ねる鼓動を抑えながらそう言うと、
小十郎は飯にするかと特に追求はせずに荷物を取りに歩き出す。
その背を見送っていると、不意に風に揺れた枝からこぼれ落ちた花びら。
数は遠く及ばないが、
それは昔小十郎と一緒に見た雨のように降りそそぐ桜の花びらと何一つ変わることなく。






※僕らの甲斐花見に先駆けて、花見の話。
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無題

某三号館がある場所の奥の方にある某桜を思い出しました~(笑)←思い出したって言っても最近まで桜嫌いだったから行ったこと無い奴;


せつな甘い現代版!そして歳の差カップルで政宗様を子供扱いしてる小十郎さんと子供扱いされてる政宗様が大好きですv

週末のお花見がますます楽しみだー♪
  • 永月
  • 2010/04/02(Fri)13:06:43
  • 編集

無題

あはは、そうでしたね。僕は某桜にはお花見に行ったことがあるので、ふむふむと納得(笑)

そして甲斐花見も楽しかったですね!この話に負けず劣らずいちゃこらしたもんね!!(笑)
次は戦国双竜の花見話をあげる予定なのでお楽しみに…
  • 瑞季
  • 2010/04/06(Tue)09:55:02
  • 編集

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
33
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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