monocube
monoには秘めたイロがある。
見えないだけでそこに在る。
数え切れないそれは、やがて絡まり色彩(イロ)になる。
さぁ、箱をあけてごらん。
箱庭(ナカ)は昏(クラ)く底なしの闇色(モノクロ)。
深い闇に融けたらいいのに。
日々の戯言寄せ集め。
当サイトは作者の気まぐれにより、自由気ままに書きなぐった不親切極まりない戯言の箱庭です。
春告げのように、
優しく降りそそぐ、桜雨。
杯に落ちたひとひらの花びらに、今こうしていられることの尊さを想う。
辛かったことは掃いて捨てるほどあったが、それでも愛しい人が傍に居る。
※蒼主従のお花見の話。現代版の二人でなかったら…
甲斐花見での永月さんとの会話から生まれました(笑)ベタ甘。続きは折りたたみ↓↓
奥州にも遅れ馳せながら春がやってきて、
平穏な今だからこそとばかりに花を愛で杯を交わす。
尤も、それすらも建前で、ただ公然と騒げる理由が欲しいだけなのだ。
無論、そんな兵士たちの考えなど自分や有能な右目はお見通しなのだが。
それでも自分とてこういう時間は嫌いじゃない。
はやる気持ちを抑えきれずに既に騒ぎ出している兵士たちに呆れながら、
ただ一人の姿を探す。
部屋に居ないことは分かっている。
縁を歩いて酒を取りに来た兵士にその所在を問うたが、
一緒に外に出てからは知らないと言われてしまった。
いつもならば何も言わなくてもすぐ傍に控えているくせに。
(折角一緒に飲もうと思ったのによ)
自然と拗ねたような表情になるのを自覚しながら座敷に戻ろうとした時、
風にそよいで飛んできた桜の花びら。
それを目で追っていた時には既に、足が目的地を心得たとばかりに走り出していた。
小高い丘の上。
群れを離れた一本の桜の下。
「こんないい場所を知ってんのに、主を呼ばねェとはどういうことだ?小十郎」
そこに、探し人は居た。
小十郎は悪びれた様子一つなく「随分時間がかかりましたね」と悪戯に笑った。
「隠れんぼなんてする齢じゃねェだろ」と笑って応え隣に腰を下ろす。
用意された杯は二つ。
小十郎には自分が此処を見つけてやってくることはお見通しだったというわけか。
お見通し、と言うのが何とも癪だが。
すぐに杯を渡され慣れた様子で酒が注がれる。
此処は、城下を見渡せるいい特等席だ。
視線の先に広がる景色を眺め、その景色に小さく杯を掲げ口にした。
頬を撫でる暖かな春風。
隣には何とも穏やかな表情をする愛しい人。
こうして二人きりで飲む酒に、当初の目的は満たされていて。
(しかもセッティングは小十郎の方だときた!)
「…いいな、こういうのは」
口をついた呟きに、
「これはあなたが創ったものですよ」
なんて普段なら滅多に聞けない褒め言葉。
気を良くして杯を差し出せば、心得ているように次の一杯が注がれる。
さわり…一瞬、一際大きく枝のしなる音に聴覚を支配される。
降りそそぐ桜のひとひらが杯の中に落ち、小さな波紋を起こす。
「…風流ですね、」
と穏やかな声で小十郎が言い、そうだなと応えた。
「幼い頃のあなたは落ち着かない子どもで、降る桜の花びらを取ろうと躍起になっておられましたね」
昔を懐かしむように小十郎が笑う。
こんなめまぐるしい時代の渦に巻き込まれるずっと前のこと。
降り注ぐ桜の花びらをどうしてもこの手で取りたくてよく追いかけていた。
「そんなの昔の話だろ、」
誤魔化すように言っても小十郎は笑みを深くするばかりだった。
二杯目を空け、腰を上げる。
これだけたくさん降ってくるならば取りこぼすこともあるまい。
散っているとは思えないほど綺麗にこぼれ落ちる花びらを追う。
けれどそれは指先を掠めるばかりで、手のひらに収まることをよしとしない。
身に覚えはないが、自分は桜に嫌われてでもいるのだろうか。
もどかしくなって、軌道を変えた花びらを追って足を踏み出す。
取れないままというのは癪だ。
「政宗様っ!」
桜ばかりに気を取られて足がもつれたと気付いた時にはもう遅い。
よろける身体。
そしてそれを支えたのは小十郎の腕。
膝をつくようにその腕の中に飛び込めば、小十郎は困ったように笑っていた。
「酔っておられるのですか?」
「酔ってなんかねぇさ」
まだ二杯目だ。
「政宗様、桜は捕まえようとするから逃げるのではありませんか?」
支えた片腕を解いて手のひらを空に向けて宙にかざす。
するといくらも経たないうちに、導かれるように惹かれるように花びらがひとひら落ちてきて。
(あぁ、…そうだったな)
小十郎はこの小さな花びらを捕まえるのが上手だった。
「ただ、待てばよろしいのですよ」
「待つのは…性に合わねぇな」
小十郎の手のひらから桜の花びらを取る。
「難しくねぇのかよ、」
呟きを落とせば、花びらのなくなった手は再び腰に回される。
「あなたをこの腕に閉じ込めることほど、難しいことなど」
ありませんよ、と甘い声音で応えて。
こんな甘い言葉がでるのは、春の陽射しがこの堅物の心を少し開放的にしてくれたからだろうか。
取り上げた花びらは、ひらり、と地面に落ち、見上げてくる小十郎の髪を梳く。
指先からこの愛しさが伝わるだろうか。
「ha!よく言うぜ」
意地の悪い笑みを浮かべて。
「お前以外に閉じ込められるヤツなんざいねぇくせに」
「それは…勿体無いお言葉」
それはどちらとも無く意識することの無い自然な流れ。
触れてくる口唇を甘受して。
そんな姿を隠すように桜は枝をしならせ、祝福するかのように桜は降りそそぐ。
たとえ一時でも、今こうしていられることの尊さを想わずにはいられない。
(…俺は、ずっと、お前と、こうして)
小十郎も同じことを想ってくれていたらいいのに、と心の中で呟いた。
杯に落ちたひとひらの花びらに、今こうしていられることの尊さを想う。
辛かったことは掃いて捨てるほどあったが、それでも愛しい人が傍に居る。
※蒼主従のお花見の話。現代版の二人でなかったら…
甲斐花見での永月さんとの会話から生まれました(笑)ベタ甘。続きは折りたたみ↓↓
奥州にも遅れ馳せながら春がやってきて、
平穏な今だからこそとばかりに花を愛で杯を交わす。
尤も、それすらも建前で、ただ公然と騒げる理由が欲しいだけなのだ。
無論、そんな兵士たちの考えなど自分や有能な右目はお見通しなのだが。
それでも自分とてこういう時間は嫌いじゃない。
はやる気持ちを抑えきれずに既に騒ぎ出している兵士たちに呆れながら、
ただ一人の姿を探す。
部屋に居ないことは分かっている。
縁を歩いて酒を取りに来た兵士にその所在を問うたが、
一緒に外に出てからは知らないと言われてしまった。
いつもならば何も言わなくてもすぐ傍に控えているくせに。
(折角一緒に飲もうと思ったのによ)
自然と拗ねたような表情になるのを自覚しながら座敷に戻ろうとした時、
風にそよいで飛んできた桜の花びら。
それを目で追っていた時には既に、足が目的地を心得たとばかりに走り出していた。
小高い丘の上。
群れを離れた一本の桜の下。
「こんないい場所を知ってんのに、主を呼ばねェとはどういうことだ?小十郎」
そこに、探し人は居た。
小十郎は悪びれた様子一つなく「随分時間がかかりましたね」と悪戯に笑った。
「隠れんぼなんてする齢じゃねェだろ」と笑って応え隣に腰を下ろす。
用意された杯は二つ。
小十郎には自分が此処を見つけてやってくることはお見通しだったというわけか。
お見通し、と言うのが何とも癪だが。
すぐに杯を渡され慣れた様子で酒が注がれる。
此処は、城下を見渡せるいい特等席だ。
視線の先に広がる景色を眺め、その景色に小さく杯を掲げ口にした。
頬を撫でる暖かな春風。
隣には何とも穏やかな表情をする愛しい人。
こうして二人きりで飲む酒に、当初の目的は満たされていて。
(しかもセッティングは小十郎の方だときた!)
「…いいな、こういうのは」
口をついた呟きに、
「これはあなたが創ったものですよ」
なんて普段なら滅多に聞けない褒め言葉。
気を良くして杯を差し出せば、心得ているように次の一杯が注がれる。
さわり…一瞬、一際大きく枝のしなる音に聴覚を支配される。
降りそそぐ桜のひとひらが杯の中に落ち、小さな波紋を起こす。
「…風流ですね、」
と穏やかな声で小十郎が言い、そうだなと応えた。
「幼い頃のあなたは落ち着かない子どもで、降る桜の花びらを取ろうと躍起になっておられましたね」
昔を懐かしむように小十郎が笑う。
こんなめまぐるしい時代の渦に巻き込まれるずっと前のこと。
降り注ぐ桜の花びらをどうしてもこの手で取りたくてよく追いかけていた。
「そんなの昔の話だろ、」
誤魔化すように言っても小十郎は笑みを深くするばかりだった。
二杯目を空け、腰を上げる。
これだけたくさん降ってくるならば取りこぼすこともあるまい。
散っているとは思えないほど綺麗にこぼれ落ちる花びらを追う。
けれどそれは指先を掠めるばかりで、手のひらに収まることをよしとしない。
身に覚えはないが、自分は桜に嫌われてでもいるのだろうか。
もどかしくなって、軌道を変えた花びらを追って足を踏み出す。
取れないままというのは癪だ。
「政宗様っ!」
桜ばかりに気を取られて足がもつれたと気付いた時にはもう遅い。
よろける身体。
そしてそれを支えたのは小十郎の腕。
膝をつくようにその腕の中に飛び込めば、小十郎は困ったように笑っていた。
「酔っておられるのですか?」
「酔ってなんかねぇさ」
まだ二杯目だ。
「政宗様、桜は捕まえようとするから逃げるのではありませんか?」
支えた片腕を解いて手のひらを空に向けて宙にかざす。
するといくらも経たないうちに、導かれるように惹かれるように花びらがひとひら落ちてきて。
(あぁ、…そうだったな)
小十郎はこの小さな花びらを捕まえるのが上手だった。
「ただ、待てばよろしいのですよ」
「待つのは…性に合わねぇな」
小十郎の手のひらから桜の花びらを取る。
「難しくねぇのかよ、」
呟きを落とせば、花びらのなくなった手は再び腰に回される。
「あなたをこの腕に閉じ込めることほど、難しいことなど」
ありませんよ、と甘い声音で応えて。
こんな甘い言葉がでるのは、春の陽射しがこの堅物の心を少し開放的にしてくれたからだろうか。
取り上げた花びらは、ひらり、と地面に落ち、見上げてくる小十郎の髪を梳く。
指先からこの愛しさが伝わるだろうか。
「ha!よく言うぜ」
意地の悪い笑みを浮かべて。
「お前以外に閉じ込められるヤツなんざいねぇくせに」
「それは…勿体無いお言葉」
それはどちらとも無く意識することの無い自然な流れ。
触れてくる口唇を甘受して。
そんな姿を隠すように桜は枝をしならせ、祝福するかのように桜は降りそそぐ。
たとえ一時でも、今こうしていられることの尊さを想わずにはいられない。
(…俺は、ずっと、お前と、こうして)
小十郎も同じことを想ってくれていたらいいのに、と心の中で呟いた。
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無題
大好きです(告白)!!!
あの時の話がこんな素敵な小話になるなんてーっ♪!!
瑞季さんすごいよっ!大好きですvV!!
あの時の話がこんな素敵な小話になるなんてーっ♪!!
瑞季さんすごいよっ!大好きですvV!!
- 永月
- 2010/04/21(Wed)01:23:33
- 編集
無題
僕も大好きです!!!(告白返し)
喜んでいただけて良かったですww
たまにはね、ベタ甘にいちゃこらもいいじゃない?(笑)←や、割といつもか...
喜んでいただけて良かったですww
たまにはね、ベタ甘にいちゃこらもいいじゃない?(笑)←や、割といつもか...
- 瑞季
- 2010/04/21(Wed)09:22:30
- 編集
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年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。