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暗躍する迷彩の、

影が、ひとつ。
最初の仕事がなんだったのか、正直覚えていない。
ただ外を走り回って、
幼き主にお土産でも買って帰ろうかな、
なんて考えながら人の波を縫うようにすり抜ける。
その時すれ違った隻眼。
幼い、誰かの手を求める不安げな表情。

「小十郎はすぐ傍におりますよ、"政宗様"」

政宗様、と呼ばれた名を頭の隅に留め置きながら
屋敷への帰途を急いだ。


それから幾年廻ったか。

「…血の…匂い…」

風に微かに混じったそれを感じ取って、風上に足を向ける。
木々の間をすり抜け、
血の匂いが益々濃くなっていくのに顔を顰めた。
そして視界に入る人影。
どす黒く染まる、蒼。

「…血の匂い…誰かと思ったら、アンタだったのか」

うつ伏せに倒れた「それ」は、
応えることは愚か身じろぎ一つしない。
死んでいるのか。
音もなく地面に降り立って傍らにしゃがみこむ。

(…息、はしてる)

不意に甦る右目のこと。
冷静な右目らしからぬ焦り。
大坂へ向かうことをあんなにも強く望んでいたこと。
領地を拡大していく豊臣の軍勢。

(…ようやく点が繋がった)

「…アンタの右目に会った、俺たちの方が手酷くやられちまったけど」
「…ぁ…」
小さく、竜が呻く。
「右目は大坂に向かったぜ、…アンタとの約束通りに」
凡そそんなところだろう。
でなければ、右目が主の傍を離れることなどあり得ない。
「…っ……ぁ、く…」
ギリっと血が滲むほど歯を噛み締めて立ち上がろうとする竜。
途端に大きな雨粒のようにボタボタと滴る赤い雫。

「おい、アンタの傷ふか「shut it!」

遮る声は敵意むき出しの荒々しい声。
その目は竜に相応しい鋭く獰猛なそれ。
「…小、十郎、が…待…て、んだ…」
あいつは約束を違えたことはねぇ、
必ず大坂に辿り着くと信じているのだ。
それは単なる主従とは違う、それ以上の深い繋がり。

(…妬けるな、こりゃ)

無理矢理立ち上がりよろめく身体を支えて。
不快なほどべったりと血がついたが、今は目をつぶる。

「それなら尚更、今のままで行くべきじゃないと思うね」

今の言葉は届いただろうか。
もはや抵抗する力さえない竜を、
腕に抱えて屋敷への帰途を急いだ。







 

 


右目←蒼←忍←紅。※オール片思い??
その後は折り畳みにて↓↓

拍手[0回]

「…敵を、助けて、いいのか」

ぽつりと竜は言った。
誰にも言わず匿っているわけだ、
鈍感な主はきっと気付いてはいないだろう。

(…尤も、大将あたりは気付いてるような気がするけど…)

だが何も追求しないところを見ると、
そこまで懸念すべきではないと認識したか。
或いは。
「…大した信用だな」
「そりゃどうかね、」
傷は浅くない。
が、出血の割に酷くもないと言ったところか。
「ま、アンタがそんな口利けるなら大丈夫だな」
笑って立ち上がり、部屋をでる。

「…おい、」

静かな竜の声音。
「何?俺が居なくなるの寂しい?」
だったらいいけど。
「…いや、何でもねぇ」
そんなの望み薄だってことくらい知ってるよ。
「…じゃ、」
背を向け戸を立てると、
名を呼ぶ声に応えて。

「なーに、旦那」

「佐助、戻っていたのだな」
ふわりと、紅が笑う。
昔から変わらない、幼い笑みで。
「お前が帰ったら一緒に食べようと思っていた」
団子を片手に、手を取って。

(好意を向けられるのは、幸せ)

「俺様の分もちゃんとあんの?旦那」
「当たり前だ!」
引かれる手を握り返して。

(それに流されたら、きっと幸せに生きていけると思う)

ねぇ、旦那。

(…アンタは、俺が他の誰かを想ってても、俺の傍で好きでいられる?)

「…俺様は、駄目だわ…」

不思議そうに振り返る紅。
「ん?どうした?」
その頭を誤魔化すようにくしゃりと撫でて。

(自分ではない誰かを想ってるなら、)

きっと、俺は、何かをしてしまう。

傷つけて、傷ついて。
きっと、残るのは深い爪痕と血溜まりだけ。

「佐助、」

ボトリと団子は床に落ちて、
その手が縋るように腕を掴む。
「…何、どうしたのさ、旦那」
「佐助…、…何も言わずに、居なくなるなよ」
真摯な眼差しに優しく笑って、落ちた団子を拾う。


「…行かないよ、何処にも、」


拾い上げる手に、あの赤が重なって。
抱き上げた時の血の感触が、
手にこびり付いて離れないんだ。
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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