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未完成交響曲05

廻る…それは、過去の魂と記憶を持つこと。

廻った順に
刑部・佐助→慶次→元親→家康→政宗→幸村→元就→三成→小十郎

BASARA転生話・5話は慶次のターン。


※小政、佐幸、親就、家三を意識しているのでご注意を。続きは折りたたみ↓↓

拍手[1回]

風の吹くまま、気の向くまま。頼まれることもあるけど基本的には撮りたいものを撮る。それで誰かを喜ばせたりできたら、すごく嬉しいじゃないか!
「おぅ、風来坊じゃねぇか!」
梅雨の前にグルメ雑誌の素材で撮りにいった先に元親が居たのには驚いた。一目見てすぐに廻っていることには気付いたし、そうでなければ「風来坊!」だなんて呼ばないし。自分がこうしてフリーカメラマンをしていることを知ると、“お前らしい”と元親は豪快に笑った。
「昔とは、この通り時代がまるで違うしな。昔アンタが言ってた、人が笑って暮らせる世がちゃんと来てるってことだしな」
「そうだな、愛する人と幸せに生きられる、穏やかな世だ」
あの頃からずっと願っていた世界。すべてを見渡せば、戦争がなくなったわけではないが、それでもこの時代をとても愛しく思えるのは確かだ。
「他に廻った奴を知ってるか?」
「いや、真田の忍の話じゃ一番新入りなのは俺だ」
「じゃあ、毛利の兄さんはまだ…」
元親が苦笑する。
「まぁな。だが、戻ってなくとも昔と大して変わらねぇな」
「(所在を)知ってるのか?」
「あぁ、俺の幼馴染みでな、神主をやってる」
「そりゃ驚いた…」
その後、先に撮影を済ませて元親と他愛もない話をして別れた。

廻ったのは三月。
春一番の吹いた桜の木の下。今年は気候が温暖で、各地で例年より桜の開花が早いとニュースで見た。長い枝をしならせる桜をカメラのレンズ越しに見ていると、鼓膜を揺らす祭囃子。楽しそうに名を呼ぶ声。そして、気付いたのだ。
「…俺、は…何で“此処”に居るんだ…?」
自分の仕事も住所も、今朝何を食べたかも覚えているのに。この足で全国各地を気の向くまま巡って、仲間と話してお茶を飲む。戦で死ぬ者をたくさん見た、それにいつも胸を痛めた。相棒は猿の夢吉で。
「…あ、れ…?」
無意識に頬を伝った涙は、一体自分のどの思いに呼応したものなのか分からなかった。
それから昔の地を巡るようにフリーカメラマン(フォトグラファーとかのがカッコいいかな?)として、その場で仕事をしながらまた別の地へ。これじゃあ、昔とやってること変わらないなぁと苦笑した。昔は何日もかかった距離が、新幹線と飛行機でひとっ飛びだ。青春18きっぷの旅の方が面白いが。今は各地の行脚で知り合ったかすが(因みにかすがは廻ってはいない。でも基本的な性格は全然変わらない)からの仕事とウエディング系の仕事で生計を立てている。
「今回のテーマ用の宣材写真とこっちのイメージ素材が欲しい。それと、ウエディング用の素材も頼みたいのだが…構わないか?」
「オッケー、相変わらずの仕切りっぷりだねぇ、かすがちゃん」
「お前の腕だけは信頼している…編集長がな」
照れ隠しに小さくなる語尾が可愛い。
「いつまでに用意すればいい?」
「出来れば一ヶ月以内…」
「少し急いでるんでしょ?二週間でやるよ」
そう答えてかすがを玄関まで見送る。
「編集長によろしくね」
リビングのカレンダーをめくる。ジューンブライドの時期はもう迫っていた。

ウエディング系の仕事を引き受けることにした理由は単純明快で、人生の中で大切な、それもとびっきり幸せなシーンを残せるから、だ。式場やヘアメイクのお嬢さん方からは、結婚しないのか?とかひやかされることもあるけど、自分は十分すぎる程幸せをお裾分けされているのだから構わない。ファインダーを覗いて最高の一瞬を逃さないように集中する。最初の仕事は緊張したけど、それからは口コミとか横の繋がりで少しずつ仕事の依頼が増えてきている。さて、今回は“笑わないミステリアス美女”とやらがモデルだそうで、一目見て笑ってしまった。確かのあの時代では彼女は笑えなかっただろう。愛する人を失い、自分の血を呪って生きていたのだから。自分はそれを知っているから、今はあの時代に笑えなかった分もたくさん笑って、幸せになってほしいと思う。
「良く写ろうとか、幸せそうにとか、そんな難しいこと考えなくていいよ」
各種写真を撮り、そして最後の一枚のために三脚にカメラをセットする。ファインダー越しに彼女の戸惑った表情が見えた。
「俺の後ろに、君の一番好きな人が立ってるんだ、その人は君を見てる。君はこれからその人の手を取ってバージンロードを歩くんだ。二人で、幸せになるために」
「―――…が、私と…二人で、幸せに、なるために…」
呟くように繰り返す彼女は、まるで本当に相手が立っているようにこちらを見て、そして、ふわり、笑う。桜の花が暖かい日差しに綻ぶように。いや、これは秋の優しい日差しに揺れる曼珠沙華のよう、かな。
カシャ。
そして、最後のシャッターを切った。
カメラのチャックに残っていると、スタジオの隅に立つ気配に気づいた。他のスタッフとは違う、一人だけ微動だにしない空気。ちらりと目を遣れば。
「…甲斐の忍の兄さん!?」
「俺様は真田の忍なんだけどね」
驚いた。他と気配が違うのは多分、自分と同じだからだ。でなければ、そもそもこの会話は成立しない。
「何でここに…」
「かすがに記事頼まれた、そのついで」
佐助がそう溜息をつきながら近づいてきた。
「にしても見事だったな、最後の一枚」
「それより気配消してたアンタのがすごいよ」
「ま、それが本分なもんでね」
そうあっさり言われた。
「そういや西海の鬼と会ったんだって?」
「あぁ、たまたま取材の写真撮影で元親の酒屋に行ってさ」
「こっちじゃ徳川も廻った…記憶が戻った…ってのは若干語弊があるけど」
やはり他の人間も徐々に思い出し始めているのだ。
「俺たちはそれを、魂と記憶の“廻り”って言ってる」
「俺たち?」
「あー…廻る人間を把握してる面倒な役回りのことさ、石田三成の参謀・大谷と俺様」
知っても、だから何だって話なんだけどね、と佐助が続ける。
「んじゃ、俺にも情報くださいな、と」
サクッと佐助とアドレス交換。
「ホント、アンタ手癖悪いな」
呆れ顔もなんのそのだ。
「やっぱりさ、みんなと会いたいし」
すると妙に驚いた顔をされた。
「アンタ…そのために情報交換したいのか?」
「それ以外に何かあんの?」
逆に聞き返せば、珍しく佐助が言葉に窮する。こんな佐助を見られるとはラッキーかもしれない。
「さっきの話から察するに、把握するために動かなきゃいけないってんなら、みんな知らない者同士ってことだろ?」
魂と記憶が廻らなければ、こうして相手を認識できないという可能性も高い。元親に会った時の自分が良い証拠だ。
「それが廻ることで他人じゃなくなるわけだろ?」
遡りきれないくらい昔の縁だ。今までの生活もあって、ずっと昔の記憶も思い出す。あの時分かり合えなかった人とだって、笑って話せるかもしれない。すると佐助は視線を逸らして目を眇める。
「アンタはどうしてそう、人の明るいとこばっか信用できるのか…俺様には不思議でしょうがない」
「だって今は、戦国時代じゃないだろ?」
戦う理由も、殺し合う必要もない。
「アンタは廻った時どう思った?」
何となく、いつか誰かにこう聞かれる気がしていた。こんなに早いとは思わなかったが。
「…良かった、かな」
「良かった?」
「あの時代で俺がずっと夢見てた、好きな人と笑って幸せに暮らせる世があって。そんで俺はその仕事でたくさんの幸せな人たちを見てるからね」
それだけは確かで、迷うことなくはっきりと言える。
「アンタにとっては不服そうな答えみたいだけどね」
そう言えば、佐助は笑う。
「それはアンタの気のせいだろ。…じゃ、俺様は退散しますか」
「忍の兄さん、」
呼び止めた理由は、その口から一度も名前が出なかったからだ。
「…幸村は、廻ってないのか?」
歩き出した佐助の足が、一瞬踏み出すのをためらったように見えた。
「まだ、その予定はないみたいだね…じゃ、」
そうヒラヒラと手を振って去っていく佐助の背中を見送った。

かすがの依頼から二週間後。素材を渡すため、かすがの出版社を訪れた。
「遅い」
「五分だけだよ」
「遅刻は遅刻だ」
手厳しい。
その間のウエディング素材を含めた写真をチェックしてもらう。それが済んで納品完了となれば、午後は他のウエディングの打合せだ。この分だと二件は入りそうだ。この時期になるとどの雑誌でもウエディング系の特集を組む。その分大忙し、と言うわけだ。
「…すべて問題ない…が、」
かすがを見ると、その手が一枚の写真を取り上げる。
「“笑わない”と触れ込みの彼女にこんな表情をさせるとは…お前はカメラマンよりもホストの方が向いてるんじゃないのか?」
「食えなくなったら、それも転職候補に入れておくよ」
かすがの言葉に笑って席を立つと、かすがに止められた。
「待て、今忙しいか?」
「午後に二件持つことになりそうだけど」

「…そうか」
テーブルに置かれた封筒に伸びた指がためらって止まる。
「何、急な案件でも?」
今までの付き合い上、できる範囲でならかすがの仕事を優先してあげたい。それくらいに付き合いも長いのだ。
「いや、そうではないんだが…友人に、頼まれてな」
どうやらウエディングの撮影をお願いしたい、と頼まれたらしい。
「それ、ちょっと見せてもらうよ」
置かれた封筒の中には、かすがの友人の写真と依頼の旨が入っていた。
「どれどれ、彼女がその花嫁さ…」
手が、止まる。
何かの見間違いかと名前を確かめる。その名前は見間違いを否定するもので、自分は彼女を知らない、でも廻った魂と記憶は知っている。心に深く刻まれている。その写真に写っていたのは、この世で一番、誰より幸せを願っていた大切な人。

「…このお願い、引き受けるよ」
「…前田…」
この人の幸せを自分の写真で手伝うことができるなら。
「お前…泣いて、いるのか…?」
「―――…へ?」
ほろりと伝うそれを手の甲で拭う。
「何でもない何でもない」
「引き受けてくれるなら、私から彼女には伝えておく」

「あぁ、俺がこの手で、ねねさんの最高に一番幸せな瞬間を撮るからさ!」

今、この瞬間に、気付くことができた魂と記憶の廻りに、ただひたすら感謝した。
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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