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未完成交響曲06

廻る…それは、過去の魂と記憶を持つこと。

廻った順に
刑部・佐助→慶次→元親→家康→政宗→幸村→元就→三成→小十郎

BASARA転生話・6話は政宗様のターン。


※小政、佐幸、親就、家三を意識しているのでご注意を。続きは折りたたみ↓↓

拍手[2回]





それは寒い冬のことで。猿飛に呼び出されて正直気分は良くなかった。けれど用件を知って、手にしたスマホを落とすかと思った。寒さなんて気にならない。鼻の先を赤くして、猿飛よりも自分を先に見つけろよとか文句のひとつでも言ったら、アイツは困った顔をするのかなとかそんなことを考えて。この時の自分はどうしようもなく浮かれていた。そこで少しでも冷静になれていたら違ったかもしれない。

(…いや、)

そんなことははなから無理だったのだ。だってアイツは大切な半身。

(ようやく見つけた、のに)

場の空気が止まる。それを察してもその理由が分からないのは、自分の目の前に居るこの男だけだ。
「小十郎…?」
今、小十郎は何と言った?
「すまねぇが、お前のことはどうにも思い出せねぇ」
その場にいる幸村も猿飛も元親のことも覚えている小十郎が、自分だけを分からない、と。

「お前は…誰だ?」

と、言った。
「…オイオイ、マジかよ」
元親が驚愕に呟く。
「右目の旦那、…それ、冗談だよね?」
冗談を言うようなキャラでもないけど、と猿飛が言うも小十郎の反応は変わらない。
「こんなところで冗談言ってどうする。…すまねぇな、坊主」
そう小十郎が荒っぽく頭を撫でる。小十郎はこんなことはしない。主である自分には、そんな言葉遣いはしない。忠臣の鏡みたいに、堅くて、真面目で。
「…ha、そうか…覚えて、ねぇんだな」
これは演技なんてものじゃない、事実だ。
「政宗殿…」
幸村の声を手で制して。
「俺は伊達政宗だ、よろしくな、小じゅ…いや、片倉サン」
果たしてその時の自分は上手く笑えていただろうか。

家を出たのは進学と同時だ。立場上は叔父の(そう言うととても怒る)成実と同じく学区外の高校へ進学と共に、成実の家に下宿することになった。長男である自分が家を出ることに反対はあったが、成実と一緒というのに親も折れた。成実は謂わば自分の監視役と言ったところか。

(本人にその気は更々ねーけどな)

成実とはよく喧嘩をするが、大事な時にはいつも力になってくれる。実家を出たい自分を助けてくれたことに関してはまったくもって頭が上がらない。それから高校を無事卒業し、やんわりと(けれど強制力はかなり強い)実家に戻らせようとする催促をのらりくらりと躱して大学に入った。後々考えれば、そこで幸村と出会うとはなんたる強縁かとも思う。
構内の掲示板を確認して教室に向かおうと歩き出した背中に何かが突っ込んできて。
「す、すまない…」
鼻を押さえる相手はまだ幼さの残る顔立ち。それよりも気になったのは、首元で揺れるネックレスにしては古めかしい古銭を通したもの。
「…いや、アンタどこ行くんだ?」
「4号館を探していて…」
戸惑った声に、面白そうな奴だと、自然と笑ってしまった。
「奇遇だな、俺も1限は4号館の外国語だ」
既に場所も把握して歩き出すと、小走りで追いかけてきた。
「俺は真田幸村と言う」
「戦国武将のあれか、俺は伊達政宗だ」
そう、それはなんとも不思議な縁だった。
隻眼の自分を避けるでもなく珍しがるわけでもない。幸村は少し頭の弱いところもあるが、その気質は真っ直ぐでどんなことにも全力を惜しまない。それが気に入って、愉しくて。
「随分と遅くまで引き留めてしまって悪かった」
そうファミレスの前で申し訳なさそうに言う幸村の頭を小突いて。今日はずっと勉強を見てやっていたのだ。
「そんなもんはいい、それより明日課題忘れんなよ」
「あぁ、」
そう言って幸村と別れる。それは明日の約束だった。昨日、今日、そして変わらない明日が訪れることを信じて疑わなかった、その時は。
帰りがけ風が強くなり雲行きが怪しくなる空を仰ぐ。雨が頬に落ち。
「…やっべ、」
歩く足は駆け足に変わった。下宿先に近づくにつれて人気はなくなり、最後の交差点には人の姿はまるでなかった。走り抜けていく車。目の前の信号が点滅する。駆け込んだ横断歩道。途切れた車。頭上から降り注いだのは劈くほどの雷鳴。
「…っ、」
走った閃光に、鼓膜を揺らす声。

『ご油断召されるなっ、政宗様!』

足が、止まる。

(…何だ、これ…)

地面に突き刺さる無数の刀。血の匂い。けれどそれ以上に高揚する魂。身を焦がすような熱い炎と周りが見えなくなる自分を現実に引き戻してくれる静謐な声。

『政宗様、』

そう穏やかに名を呼ぶのは誰だ?

(俺は、)

誰だ?
チリチリと亡き右目が熱を帯びる。
「…っ、」
自分はこれをすべて知っている。右目を押さえる。頭の中に流れ込んでくるのは、右目を失った自分。その右目になった、自分の半身。

『貴方の背中は、この小十郎がお守りする!』

痛みに閉ざした目を開け、稲妻が走る空を見上げる。

(あぁ、そうだ。俺は…)

右目から手を離し、見える片目と見えぬ片目でその黒い雲の先を睨む。
「竜の上にあるのは…空だけだ」
ha、と笑う。雨は更に勢いを増す。自分はどうやらとても大事なことをどこかに置き忘れてしまっていたらしい。
「嵐の日なんざ、何とも俺らしい…独眼竜らしい日じゃねーか」
妙に頭の中はすっきりしていた。そして思えば、あの男はずっと自分のことを“竜”と呼んでいた。
「…そうか、奴は、すべてを知ってるってわけか」
口許が不敵に歪む。びしょ濡れのまま、また歩き出す。昨日まで記憶も、つい先刻までのこともすべて憶えている。幸村の今の口調に果たして自分は慣れるだろうか。そんなことを考えながら帰途につく。

(…小十郎は…)

自分を探しているのだろうか。

(…いや、俺の方から見つけてやるのも主の務めだろ)

そう、どこかに居るはずの右目に想いを馳せる。

次の日会った幸村はやはり昨日と変わらない幸村で。それに違和感を覚えたものの、変わらない中身に思ったほど不安はなかった。
「政宗、今日は家に来ないか?」
昨日のお礼も兼ねて、と幸村に言われたのは好都合だった。
「おかえり旦那、今日は早かっ…」
出てきた猿飛と目が合う。ほんの少し表情を変えた猿飛だったが、他人からすればその変化は微々たるもので気付かなかっただろう。

(さすがは忍、か)

今までと変わらず幸村と言葉を交わし、猿飛、と呼ぶ。猿飛もそれと同じく何ひとつ態度は変えない。
「また竜の旦那に助けられちまったわけだ」
そう呆れた声で言われ、幸村はぐうの音もでないと黙る。
「テメェが教えてやりゃあいいんじゃねーのか?」
と言えば、猿飛が笑う。
「それができればそうしてるっての」
軽口を叩きあっているのに、お互いに昔の互いを知っている。それは分かっていても不思議な感覚だ。
「…さて、俺はもうお暇するぜ」
「あ、旦那、俺様ちょっとコンビニ行ってくるから、留守番よろしくね」
「あぁ、」
まるで一人になるのを待っていたかのように猿飛も外に出る。
「…いいのか、一人にして」
「今は昔みたいに物騒でもないしね」
事も無げに猿飛は言う。
「俺に何か用か?」
「俺様に言いたいことあるんじゃない?」
踏み込んだのは同時。
「昨日は嵐になったな」
「それでアンタは廻ったってわけか」
嫌な因果だな、と猿飛は面倒そうに言う。
「知ってるのに黙ってる方がタチ悪いだろ」
「廻らない方がずっと素直で可愛げあったのに」
「冗談だろ、真田しか見てねぇテメェが周りに配る余裕なんざ持ち合わせてるわけねーだろ」
ひとしきり言い合って黙る。
「―――いつからだ、」
先に口を開くと、猿飛が素直に応じた。
「ずっと昔から。順番で言うなら一番最初からだよ。尤も、俺は気付いた時には此処にいたから、廻るってのとは状況が違うけどね」
思った通りだ。他にもこうなっている奴がいる。

(真田幸村はそうじゃねーみたいだがな)

「その違いとやらで、テメェは随分色々と知っているみたいじゃねーか」
振り返れば猿飛がすっと目を細める。
「何、何が知りたいの?」
それはまるで何を言わんとしているのか見抜かれているようで、腹が立つ。だが、どうしても確かめたかった。それくらい、大切な―――。
「―――…小十郎は、」
猿飛が歪んだ口許を引き締める。
「まだ。右目の旦那の予兆すらも聞いてない」
それが答えだ。口許をつり上げて。
「…そうか、」
それがどうしてこうなった?探して、探して、やっと見つけたのに。誰も彼も、憶えていたのに。

『お前は…誰だ?』

嘘のない声が、そう言って。
「…っ、小十郎っ…!」
再会できたって、何も。これじゃあ、今までのことが何の意味もない。
何だよ、それ。

笑えねぇよ。
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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