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未完成交響曲07

廻る…それは、過去の魂と記憶を持つこと。

廻った順に
刑部・佐助→慶次→元親→家康→政宗→幸村→元就→三成→小十郎

BASARA転生話・7話は三成のターン。


※小政、佐幸、親就、家三を意識しているのでご注意を。続きは折りたたみ↓↓

拍手[1回]





まるでそこだけ光が差しているような気がした。
各専攻の展示で、一人の青年が自分の絵の前で足を止めていた。自分の絵は、誰かを魅了するほどのものだとは思わない。自分はいつだって、描きたいものしか描いていない。そんなことを考えていたせいで反応が遅れた。
「この絵を描いた人を知らないか?」
振り返り、そう言う。展示の主催側の人間(生徒)はスタッフ証を掛けている。恐らくそれ故に自分にそう言って来たのだろう。
「ワシは絵には長けていないが、この絵には妙な懐かしさと奥行きを感じるんだ。きっと命を削るように…それくらいの想いでこの絵は描かれたんだろう。その秘められたものを、知りたくなる」
とても好きな絵だ、と青年は言った。可笑しな奴だと思っていた。誰もそんなことを気にしなかったのに。自分ですら上手く形にできないこの強い想いを知りたい、だなんて。
「―――それは…私の絵だ、」
その時の嬉しそうな笑顔は、憎たらしい程爽やかで眩しかった。
それから暇さえあれば青年・家康は絵を見に来た。
「おはよう、三成」
「私のことを気安く下の名で呼ぶな」
さすがにエントランスで大声で名前を呼ばれた時は、二度と口が利けないように切り裂いてやろうかと思ったが。
「今日は筆の進みが良くないな」
家康はすぐに変化を見抜く。
「貴様の顔を見たからだ」
「ひどいなぁ、三成」
それが面倒だと思いながらも、決して気分は悪くなくて。慣れない感覚を抱いたままキャンバスに向かえば向かうほど、それははっきりと自分の前に顕れた。自分の絵には何かが欠けている。そう思うと、まるで自分の胸にぽっかりと穴が開いているような気さえした。そしてそれは夏を越えてより顕著になった。けれど、肝心の何か欠けているのかが分からない。だから、問うた。
「…貴様はこれを見て何を思う?」
「何を?」
そう筆を持つ手を下ろして。
「…描いていても、何かが足りない。まるで大切な何かが欠落しているような。だが欠落しているものが何なのか、それで満たされるのかも分からない」
一番この作品たちを、そして自分を知ろうとしている家康だからこそ。
「…それは、」
家康の声は、その時妙に緊張していたように感じた。
「…三成自身で見つけなければならないことだろう…な。仮にワシが分かっていたとしても、お前自身で気付かなければ意味がない」
「―――貴様に問うとは、私もどうかしていた」
家康の言葉に、少しだけ救われた気がした。
「だが…それも、全く無駄というわけではなかった」
危うく迷い続けたまま筆を走らせるところだった。欠落は未だ欠落として抱えたまま、今日もキャンバスに向かう。
外は既に真っ暗で、冷たい空気が部屋の中に染み込んでくるような冬の日。もう何度目かも分からない欠落と向かい合う日々。それはまるで発作を起こすように。一度筆を置き、窓を開ける。はぁ、と吐いた息は白い。再び戻って筆を手に取る。赤と黒、遅々とした様子でキャンバスに筆を走らせる。

(…今日も、駄目か)

空洞を風が抜ける吠えるような音をあげるのは、自分の心か。それとも部屋の窓か。背中から風がぶつかる。黒の絵の具の染み込んだ筆が宙で止まる。すべての音を塞ぐ、雨の音。

『血の雨よ、降り注げ…氷雨となってあの日の私を射抜いて殺せ…さもなければ…』

口をついて出た言葉は。
「いっそ私を狂わせろ…」
コンコンと控えめなノックの後、ドアが開く。
「三成、遅くまで精が出るな…」
自分はその声を良く知っている。身体の内側で何かが食い破ろうと暴れているようだ。
「…三、成…?」
ポタポタと黒の絵の具が床に落ちて溜まっていく。
「私、は」

(雨の音が煩い…)

視界が黒で塗りつぶされるように、そこでぷつりと記憶が途切れる。
「三成っ…!」
家康の叫ぶ声だけが、皮肉なほどはっきりと聞こえた。

『よくやった、三成』

自分にとって一番の誉れ。

『君は軍の重要な要だ、さぁ行こう、三成くん』

自分のすべてを懸けてもいいと思った、二人と共に歩んでいく理想。なんて大切なものを置き去りにしていたのだろうか。そう伸ばした手が掴んだのは空だった。瓦礫のように崩れ去った理想の世界。その象徴すら失って、自分は世界そのものを呪い、そして東の空から明るく大地を照らす陽光を憎んだ。
「…三成、気がついたか」
ゆっくりと目を開ける。絵画専攻の教室から近い談話室のソファだった。目が合った家康は深く息を吐いて安堵に目を細めた。
「…家康、」
そうかすれた声で呼べば、家康は穏やかな表情で応える。
「どうした?三成」
それは昔、共闘していた時のそれを全く変わらない。思えばあの頃が一番穏やかで幸せな日々だった。
「何故あの時…」
談話室の窓から月の光が静かに差し込んでいる。
「あの時秀吉様を…そして私を裏切った」
絆を説き、武力ではなく人の心や想いなどという不確定で頼りないもので天下を統一しようとした男。その家康が奪ったのは、自分の一番大切な絆。主を想う、忠誠という心。
「三成…やはりお前は…」
家康が表情を歪めて呟く。その言葉で家康が今しがた取り戻した記憶を、それにまつわる過去の記憶を持っていると確信した。
「お前も所持しているのだろう、あの頃のすべてを。だからこそ問おう。過日の裏切りを。裏切り者でありながら、何故、最後の絆だけを断とうとしなかったのか」
身体を起こすと、冷たい汗がこめかみを伝う。家康は痛むように表情を険しくしたが、目を逸らすことはしない。その真っ直ぐであろうとする家康が憎い。
「それは…」
傍らにある家康のカバンから最初に触れた彫刻刀を掴んで引き抜き家康に突きつける。斜めの切っ先は手に馴染んでいた愛刀のようだった。

(これはまるで、過日の繰り返しだ)

家康を何度問い詰めただろうか。そしてその答えに、自分は「偽善者の詭弁など聞くに値しない」と切り捨てた。
「ワシが見殺しに…犠牲にしたくないのは身内だけではない。刑部、そして三成お前も…っ」
ヒュンっ、彫刻刀が空を切る。
「どんな答えであろうと…所詮私にとっては貴様の傲慢だ…意味がない。無駄なことをした」
抜いた切っ先を納める鞘もなく、突き刺すように彫刻刀を落として談話室をでる。耳の奥にあの日の冷たい雨音が響いていた。

嚥下しきれない魂と記憶を持て余しながら街中を歩いていると、人込みの中にその魂を見つけた。自分にとってかけがえのない絆。
「…刑、部?」
すると刑部は微塵も動じた様子なく、ただいつものように嗤う。
「…やれ、ぬしも此方へ応じたか」
包帯の目立つ顔、不自由な脚を引きずる様子に、この男は今生でも昔と変わらないのかと思う。
「どこに行くのだ?一人では面倒だろう」
そう言いながら大して重くもない荷物を持つ。
「ぬしの親切など、明日は槍でも降るやもしれぬな」
「刑部、」
「そう目くじらを立てるな。庵に戻ったら茶でも淹れよう」
そう刑部に導かれるように向かった先はまさに寂れた庵で、家康に復讐を誓い仮宿としていた頃を思い出す。賑やかな喧騒から遠いそこは、とても懐かしく何故か落ち着けた。
「洒落たものなどは淹れられぬ、許せ」
「貴様を許さぬことなどない」
そう即答して家康のことを思いだしてしまった。不意にしかめた表情を刑部は見逃さない。
「…ぬしは我のことを許しても、徳川のことは赦さぬ、か」
ハッと視線を向けると刑部は既に背中を向けていた。
「否、刻が経てば、それもまた変わりゆくものか」
「私が家康を赦す、だと?」
「近き未来か、遠き来世か」
もしそうなってしまったら、この無念はどこに向かえばいいのか。まるで変わってしまったこの時代で。
「そんなに私の想いは、無念は、甘く軟弱なものだと…?」
刑部はそれを制するように音を立てて湯飲みを置く。
「あれほどの苛烈は甘いとも弱いとも思わぬ。だがもし、赦すことができた時は、ぬしがかつて得ることの叶わなかったものに近づくのであろうよ。或いは既に手にしているのか」
「貴様の物言いは回りくどくて理解に苦しむ」
不機嫌に言い放ち湯飲みを取ったが、刑部は不快に感じた様子もなく目を細めただけだった。
「今は、かつてのように言葉を交わす刻がないわけでもあるまい」
刑部の指すことに気付きながら、聞かないふりをした。けれどその“言葉を交わす刻”とやらは否応なしにやってきて、それを避ける術など今の自分にはなかった。

「三成、話がしたい」
家康に背を向けて、その表情は見ない。
「私は貴様を赦す気などない。過日のことで言葉を交わすのも、もはや苦痛でしかない」
「三成、ワシが欲しいのは赦しではない。容易く赦されてはならないことをワシはお前にしている」
呼吸、ひとつ。
「なぁ、三成。以前に言っていた心の欠落は埋まったか?ワシは…お前が記憶を取り戻して良かったと思う。欠けているものを見つけたお前の描く絵は、どんな美しいものになるのだろうな」
応えずにいると、ゆっくりと足音が遠ざかっていく。何故こんな態度をとる自分をみながら、“良かった”などと口にできるのだろう。そして、そうしてこんなに。

「…貴様は私の想いを苛烈と言ったな。それがこうも容易く揺らいでしまうことを、そんな私を、貴様は笑うか…?刑部よ」

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
33
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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