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未完成交響曲

廻る…それは、過去の魂と記憶を持つこと。

廻った順に
刑部・佐助→慶次→元親→家康→政宗→幸村→元就→三成→小十郎

BASARA転生話・終章というには遅すぎる終章。


※小政、佐幸、親就、家三を意識しているのでご注意を。続きは折りたたみ↓↓

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あれから二ヶ月、季節は春になった。
廻ったのは小十郎が最後。それを決定づけたのは、刑部の珠が盤上でまったく動かなくなったことだ。
「これ以上廻る者も居らぬのだろう」
と刑部も口にしていた。それ以来、会う理由がなくなった佐助は刑部とは会っていない。
「旦那ぁ、団子お土産だよ」
「真か!」
フリーライターとしての習性…というか昔からの悪癖と言うべきか、情報収集と状況把握(あくまで自分たちに関わり合いのある範囲で)は依然として続けている。
「そう言えば、朝方徳川殿と会ったのだ!」
幸村は大学に通いながら、家康と手合わせがてら会っている。歳は過日と違えど、内に秘めた熱いものは同じらしい。
「三成、絵の調子はどうだ?」
「貴様のように遅々としているわけがなかろう」
家康は相変わらず三成の絵を見に行っては、三成に小言を言われている。
「だが丁度いい、これを見ていけ」
三成は以前より家康につっかかる回数が減ってきた気がする。時に不器用ながらアドバイスらしきものを求めるくらいには丸くなった。
「そう言えば、次の展示会にまた慶次が撮影に来るそうだ」
「フン、あの男には何の用もない」
慶次は相変わらず多方面の撮影に携わり、フリーライターである佐助とかち合うこともしばしばだ。
「元親これ、前の展示会の写真」
元親の酒屋によく顔を出しては、他の近況などを伝えている。
「家康の才能も立派なモンだな。あ、この間のウチの記事見たぜ?よく撮れてたじゃねぇか」
元親はいつものように午前中に配達をし、午後は酒屋で店番をしている。時折寄るようになった政宗とはやはり馬が合うようだ。
「…長曾我部、我に来させた罪は重い」
「元就っ、もうそんな時間だったか!」
立ち上がり奥から神酒を持ってくる。元就はそれを不機嫌なまま受け取りさっさと出て行った。元就にとっての世界はやはりあの社の中だけで、けれどそこに元親の色が混じることにいちいち目くじらを立てることは諦めたようだ。未だ名前は呼ばないが。
「…おい、さっきスゲーオーラの毛利とすれ違ったけど……げ、風来坊も一緒か」
「ひどい反応だな、独眼竜」
ひらひらと手を振る慶次に、政宗は呆れたような表情。
「相変わらずだな風来坊」
「今日は一人か」
元親の元には、最近二人で寄ることが多かった。小十郎の態度に毎度元親は目を丸くし、そして政宗が口にせずとも欠落が埋まっていないことを知るのだ。
「あぁ、あいつなら…野暮用だと」
少しだけ政宗の声のトーンが落ちる。
「聞いたけど、右目の兄さん戻ってないんだって」

慶次は小十郎の欠落を目の当たりにしていなかった。
「あぁ、まぁな」
「今は他人じゃねぇんだし、案外あっさり戻るんじゃねぇか?」
この春から政宗は一人暮らしを始めたばっかりだ。キャンパスが変わったのと、いつまでも成実のところにには居られないという理由で。小十郎と会ってから、個人的に会う回数が増えた。その中での変化と言えば、以前より小十郎が政宗のことを気にするようになった。記憶は相変わらず戻っていないが、放っておけない、らしい。

(…世話焼きというか、小姑というか、そういうとこは変わらないんだよな)

それに、二人が今生で会ったのは二度目だということも判明した。小十郎の頬の傷、今から十数年前の銀行強盗事件で幼かった政宗は高校生に助けられている。あの時も恐怖の闇から救い出してくれたのは、小十郎だった。
「そうだといいけどな」
その小十郎、街の喧騒とは程遠い寂れた庵に居た。ここを訪れるのは、二度目だ。
「…やれ、厄介な者が来やる」
小十郎は刑部の言葉に気をした様子もなく近づき、拳を突き出した。
「…今日は話をしに来たんじゃねぇ、これを返しに来ただけだ」
突き出した拳から出てきたのは、以前刑部が小十郎に渡したヒビ割れた珠。
「何故か、」
「俺にこれは不要だ」
刑部は受け取らなかったが、それを予想していたのか小十郎は机の上にそれを置いた。
「一度ここに来た時、テメェは“人の心は変わりやすい、お前はどうだ?”と聞いたな。その答えはあの時と変わらない。こうと決めたものは変わらねぇ、曲げねぇ、誰に何を言われようとだ」
刑部の目に映る小十郎には、あの時の迷いや焦燥はない。
「欠落はまだ埋まらねぇ、埋まる保証もねぇ。だが、だからこそ今己が成すべきことは何か考えられた」
小十郎のその姿を家康が見たら、過日の明け方を思い出すだろう。
「俺は今生で、政宗の為に、そして自分の為に向き合うと決めた。だから、もう俺にそれは必要ない」
欠落した事実に焦ることなく、負い目を感じることもなく。それを小十郎に教えたのは、二月に出会った政宗だ。
「それを言うべきは我ではなかろうに」
刑部は呆れたように笑って。
「二度と此処に来やるな…竜の右目よ」
「あぁ、元より来るつもりはねぇ」
用は済んだからな、と小十郎は出ていく。刑部はヒビ割れたその珠を軽く指で弾いた。

「政宗、」
「用事は済んだのか」
「あぁ、」
政宗の手には、元親のところに立ち寄った際にもらった酒が。それをちょいと掲げて。
「一緒に飲まねー?」
窺うような誘いに、小十郎は笑う。
「じゃあ家に来い。話したいこともあるし、丁度いい」
二人並んで歩き出す。政宗が小十郎の家で酒を飲む前に、まるで天気の話をするような気軽さで「一緒に住まいないか?」と言われるのはそれから一時間後のこと。
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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