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未完成交響曲10

廻る…それは、過去の魂と記憶を持つこと。

廻った順に
刑部・佐助→慶次→元親→家康→政宗→幸村→元就→三成→小十郎

BASARA転生話・最終話は小十郎のターン。



※小政、佐幸、親就、家三を意識しているのでご注意を。続きは折りたたみ↓↓

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『いつの世も、今生のようにお傍におります。小十郎は貴方の右目なのですから…   、』

笑いかけたその相手の名だけが音にならない。振り返り応えたかの姿は一体誰なのだろうか。
「―――また、この夢か」
年が明けてから幾度となく見る夢。身体を起こして頬の傷を撫でる。この傷は高校からの付き合いで、銀行強盗事件に巻き込まれた時に小学生くらいの子供を庇ってつけたものだ。それから目つきの悪さが災いして妙な噂ばかりが付きまとう自分を雇ってくれた今の会社には感謝してもしきれない。それも既に十年以上も前のことだというのだから、あの時の小学生が成人していてもおかしくない。

(俺も歳をとったもんだな…)

サイドボードに置いたスマホで今日のスケジュールを確認する。通常の仕事に少し空き時間ができたので、そこで雑誌の取材を済ませる予定だ。相手はフリーライターと聞いていたが、何という名前だったか。変わった名前だったはずだが。いつものように手短に身支度を済ませて家を出た。
そのフリーライターは随分と馴れ馴れしい口調で話し始める。フリーライターというのはこういうものなのか、それともこの男の特徴なのか。新卒者対象のアンケートで一位を取った感想を聞かれたが、そもそもそんなアンケートの存在すら知らなかった。
「実感は沸きませんが、光栄なことですよ。仕事柄、冥利に尽きます」
と応えれば、
「模範解答をどうも。でも本当に変わらないもんだなぁ、いつだって本当に嬉しいのは主の言葉だけってことか」
とよく分からない言葉が返ってきて。
「何のことで?」
「いやいや、こっちの話ですよ」
男は何ひとつ確かなことは口にしなかった。

(…どこかで会ったことでもあったか…?)

聞けば聞くほど、この男は自分の色んな側面を知っているように感じる。だがそれは気持ち悪いというより純粋に不思議な感覚だ。
「あの…以前どこかで、」
控えめなノックの音が言葉を遮る。
「どうやら時間みたいで。色々とありがとうございました」
去り際もあっさりと男は消えるように去って行った。
その日は仕事に集中できず、仕方なく家に持ち帰った。コーヒーで一息ついてから仕事を始めると取材のことを一切忘れたように捗った。ひと段落して再びコーヒーを淹れようと立ち上がり、雨が降っていることに気付いた。家に着くまでは降るなよ、という念が曇天に通じたのか雨に降られることはなかったが。昼間に交換した名刺を手で弄ぶ。
「猿飛…本名にしちゃあ珍しい名前だな」
ザザ、何かが脳裏を過る。迷彩の忍装束の男が立てた人差し指を口唇に当てて何かを言っている。強く目を閉じれば、その映像はブツリと消えた。
「…何だ?」
手にした名刺にもう一度視線を落としてから手帳にしまうと、またパソコンに向かった。

『この目はいつの間にか貴方の右側ではなく、ただ夢だけを見ていたのです』

床に伏せる誰かを見下ろしながら呟く。

『貴方が目覚めぬのは、俺が負わせた戦の重みに耐えかねてか』

血を吐くような声。そうだ、自分は何よりも自分を責めていた。未熟で不甲斐無い自分が許せなかった。主の右目を名乗るこの自分が、だ。

(主…俺の、主は)

それがすべての必然であるかのようにゆっくりと目を開ける。ここは自分の住んでいる部屋だ。点いたままのパソコンを無視してカーテンを開ける。雨上がり。まだ明けきらない、仄昏い世界。

『なればこそお見届けあれ、この小十郎が果たす明け方の戦を』

陽を待ち望む民たちに厭われる明け方の月として在り続けると決めた。

『…は情けに甘んじねぇ、…の上には誰も居ねぇ、東の陽光たるてめぇであってもだ!』

そうだ、自分は。
「…っ!」
ノイズが走る。頭痛に耐えるようにカーテンを強く掴む。忘れていたものが戻ってきたのに。ガクリと床に膝をつく。頭が割れるように痛い。
絆を説いて拳を握る徳川。暑苦しいが性根の真っ直ぐな真田。人の闇を視る猿飛。すべてずっと遠い昔に追いやったまま置き去りにしていたものだ。

「―――…様、」

誰だ?
「…っ、あ゛ぁ…」
ひやりと嫌な汗が伝う。

(俺は…誰の右目、なんだ?)

急速に闇に落ちていく感覚に抵抗も出来ないまま気を失った。

目を覚ますと既に日が高くなっていた。何度か着信があったものに急遽休む旨を告げ、緩慢な動きでキッチンに向かう。カラッカラに乾いた喉を潤して、手帳にしまった名刺を取り出したところでデスクのスマホが鳴った。
「“昨日はどうも。実は個人的にもう少し聞きたいことがあって、それでこっちに電話したんですけど”」
それは随分と好都合な話だ。
「時間ができた、どこに行けばいい」
すると数秒置いて返事があった。
「―――分かった、一時間後に」
汗の跡をどうにかしたくてそのまま風呂場に向かう。待ち合わせ時間までには少しは状況の整理もつくだろう。
待ち合わせの時間より前に既にそこに居た。目が合って、そのラフな格好と表情に癖でネクタイをしてきたのは失敗だったな、と思った。
「さて、廻った感想はどうだい?竜の右目」
少しだけネクタイを緩めて、すっと目を細める。
「一番最初に顔を付き合わせてるのがテメェだってのが腑に落ちねぇな」
元々慣れ合う仲ではないのだ。こんなものは昔でいう「いつも」の軽口だ。
「で、これは一体何の取材なんだ?フリーライターさんよ」
笑う佐助に答えるように笑い返した。
「あれからすっかり忘れてたけど、その社章…あの万引き未遂の時に気付くべきだったな」
思い出した昔のこと。そして、あの雨の日に本屋で言葉を交わしていたこと。
「ようやくだ、アンタが廻るのを待ってたんだぜ?」
半ば予想していた通りの答えだ。
「そうか、…テメェは他に廻った連中をどれだけ知ってる」
自分と同じく昔の記憶を持っているのは。
「両手で足りるくらいさ、勿論アンタが命より大事にしてる独眼竜もね」
佐助の言葉が今一つピンとこない。

(命よりも大事に…?)

名前も聞き覚えはない。
「…右目の旦那、今の聞いてた?」
「あぁ、こんな近くで聞き逃すわけねぇだろ」
佐助の様子の意味は理解できなかったが、その後他の連中の驚いた態度には引っ掛かりを覚えた。その隻眼は随分と他の連中と気安い仲のようだったが、何よりも先に、そして真っ直ぐに。
「小十郎っ!」
自分のことを見、喜び、親しみを込めて名を呼ぶ。
「お前は…誰だ?」
そんな自分の言葉は正直な感想だったが、どうやらとんでもない一言だったらしい。空気が凍りついたのが分かる。
「右目の旦那、…それ、冗談だよね?」
あの滅多に素直に感情を表に出さない佐助の表情。
「こんなところで冗談言ってどうする。…すまねぇな、坊主」
隻眼の頭を荒っぽく撫でて。

「…ha、そうか…覚えて、ねぇんだな」
「政宗殿…」
真田が声をかけるのを隻眼は制して。
「俺は伊達政宗だ、よろしくな、小じゅ…いや、片倉サン」
その笑った顔がどうにも泣きそうに見えたのは気のせいだろうか。
ズキン…
「…っ、」
また頭痛だ。
「頭痛いの?」
佐助が言い、大丈夫だと手を上げる。
「…具合悪いみたいだし、今日はもうお開きにしよう」
そう佐助に心配そうに言われ、その言葉に甘えることにした。倒れたのは今日の朝方で、本調子ではないのかもしれない。他の連中に心配そうに見送られながら店を後にした。帰
途、脳裏を過るのは隻眼。
「伊達政宗…か、」
頭痛に紛れて胸の奥がズキリと痛んだ…気がした。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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