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言わない悼み、言えない闇。

それでも、すべて打ち明けなくとも離れないと信じていた。
何も、根拠などないのに。


呆然として言葉を次げなかった。
それでも小十郎は意に介さず「雑務が残っているので、」と退出しようとして。

「…とにかく、雑務は他の奴をつける、今は養生しろ」

だから命令としてその行動を止めることしか出来なかった。
座敷に一人、思うのは失った記憶ばかり。
ひとり、またひとりと消えていく。
そして皆、同じように。

(俺に…切り捨てろ、という)

父親は死んだ。
幼くして実の母親に存在を疎んじられた自分に、
何ら変わりなく愛情と知識と教養と、総てを与えた人。
死に際まで揺るがないその姿は脳裏に焼きついている。

『政宗っ、私とともに義継を撃てっ!』

それが、最後の言葉。
弟も、死んだ。
優しく、兄思いの賢い少年だった。

『兄上、私のことを恨んでください、だから母上は』

最後まで母親を守り、自分のこの手の刀で殺めた。
そして、母親。
今も生きている、と数ヶ月前に風の噂で聞いた。
尤も、生きていようがいまいが、母親のその愛情は幼い頃既に失っていた。
この忌々しい右目と共に。

眼帯の紐を緩めて解く。
眼帯は指をすり抜けて床に落ちた。

何よりも誰よりも真っ先に失ったその人が、
一片の後悔もなく自分を切り捨てた人なのに、一番愛おしかった。
毒に冒され朦朧とする意識。
母親の顔すらはっきりと見えない。
こんな傍に、手で触れられるほど近くに居るというのに。
小十郎は出ていて居ない。
部屋には二人、それ以外は人払いをした(その事実を成実なら知っているが)。
それはほんの少しの間の邂逅。
けれど気が遠くなるほど長い時間。

『あなたが私に殺されかけたのだと、そう言えば済むものを』

身体の内側から冒す、毒。
母親はその時弟の死を知り(弟の思いを酌んだのかどうかは定かではない)、
自らの死を願っていたのかもしれない。

『私が何を言おうと、、一国の主と狂った女の戯言が、対等など無理なこと』

母親は腰に差した刀に触れた。
そして自分を見上げて一度たりとも自分には向けなかった優しい、本当に優しい笑みを浮かべて。


『ここで、斬り捨てればよい…愛しい我が子と同じように』


最後まで、彼女は。

『政宗様っ!』

そこへ小十郎が血相を変えて飛び込んできて、その腕の中に倒れた。
斬り捨てることの出来なかった母親は、その後屋敷から姿を消した。
誰にも、何も告げぬまま。
あの邂逅の会話を知るのは、自分と母親の二人だけだ。
死んだ父親と弟のことを悼みはしなかった(表向きには)。
そして消えた母親のことを恨みもしなかった。
けれど、あの時のことを思い出すのは嫌で、苦しくて、心の奥底に蓋を閉めて落とした。
泣き言や弱音を吐くことも脆い姿を晒すことも出来ぬ立場に居ることは理解していたし、
それに代わる、いやそれ以上の愛情を与えてくれる存在が常に傍にあったから。

「…お前は知らないだろ…その言葉が、どれ程の、」

誰も知らない深い病み。
内側から蝕んでいく、自分自身の身を滅ぼすほどの癒えない闇。

「…っ、」

いつも傍で包み込んでくれていた優しい温もりが、遠い。
力なく膝をつき自分の身体を抱きしめる。
小さく丸まって、額が冷たい床に触れて。

それは今にも凍えそうなほど。






※昨日の続きらしきもの。俄か知識で史実を絡ませるもんじゃない。反省。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
33
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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