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言わない痛み、癒えない病み。

一番嫌いなものは“俺の為”という優しい嘘。


「…小十郎、これは、何だ」

この声は震えていなかっただろうか。
触れた手の震えは、きっと隠すことは出来なかっただろうから。
小十郎はそれに気付いたからこそ、ほんの一瞬痛みの滲む苦い表情をしたのだ。
けれど口は閉ざしたまま。
「…何だ、って聞いてんだ」
小十郎はそれでも口を開こうとはしなかった。
半刻前、廊下を連れ立って歩いていた時不意に小十郎が寄りかかってきた。
驚いて鼓動が跳ねる半面、少し喜んでいる自分がいたのは事実。
だが真実はそうではない。
足元がふらつくほどの怪我を小十郎は負っていた。
的確な応急処置はしていたものの、度々開く傷口。
血が滴ることのないように厳重にきつく巻かれた包帯。
血が滲んで取り替えた包帯は知らぬところで処分されていた。
何一つ、何人たりとも怪我を悟らせぬ小十郎の行動は実に巧みで正確だった。
だからこそ感知できなかったのだが、それでも自分の中にいつもよりもはるかに大きな苛立ちが募って。
一番身近に居るはずの自分が、何故察することができなかった?
変化を感じ取ることが出来なかった?
反芻するつもりはなくても、頭を胸の内を占めるのはそのことばかりで。
今が戦の只中でないことがせめてもの救いだ。

(きっと小十郎は、怪我を案ずる俺を赦さない)

現に小十郎はこうして口を閉ざしているのだから。
「…それ、浅い傷じゃねぇだろ」
多少は安静にしていたとしても、自分に違和感を感じさせない程度には平時と同様に動いている。
これだけの傷を負って、熱を押しとどめて尚気付かせまいとする。
「…何で何もいわねぇんだ、言い訳くらいすりゃあいいだろ」
小十郎はただ黙るだけ。
その態度に募るのは苛立ちだけで。
小十郎の前に膝を折る。
そして小十郎を真っ直ぐに見ながら。

「―――俺の為、か?」

すると漸く小十郎は重い口を開いた。

「目先のことで動揺なさいますな、これは小十郎の過失によるもの、政宗様が心を揺らすほどのことではありませぬ」

自分の性格を一番理解していながら、小十郎は残酷な言葉を止めない。
けれど、答えたという事実が先刻の問いの肯定に他ならない。

(それが、)

一番、嫌いだ。

「…俺にも言えないことがある、だからお前が言わないことを責める資格はねぇ」
内に巣喰う病みは傍に居た小十郎ですらその底を知らない。
癒えないのは、口にできないから。
「だが、戦ってるのはお前も同じだ、少しくらい…対等で居させろ」
襟元を掴む手をゆっくりと小十郎が解いて。
「―――何か、勘違いをなさってはおりませんか」
嫌な予感がする。
右目が痛みを思い出したように軋む。
「…やめろ、」
言うな、それを。
知っている、目を伏せてきたこと。
でもそれは、嫌になる程理解っているから。
だから。


「一国の主と一兵士と、それの何処が対等で居られましょう」


その言葉は、今まで聞いたどんな言葉よりも深い底の闇を引きずり出す。


「―――お前、が…それを、言うのか…?」


小十郎。







※前にもこんな展開の話を書いたことがあった気がする。お互いに自分には無頓着で、相手の負傷には過敏。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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