monocube
monoには秘めたイロがある。
見えないだけでそこに在る。
数え切れないそれは、やがて絡まり色彩(イロ)になる。
さぁ、箱をあけてごらん。
箱庭(ナカ)は昏(クラ)く底なしの闇色(モノクロ)。
深い闇に融けたらいいのに。
日々の戯言寄せ集め。
当サイトは作者の気まぐれにより、自由気ままに書きなぐった不親切極まりない戯言の箱庭です。
記憶の浅瀬 参
小十郎は再び眠りについた政宗の手を握りながら、また深く息を吐いた。
今度はわざとらしいほど大袈裟に。
(無事で…良かった)
無事なことは分かっていたのに、言葉を交わして心底安堵している、など。
こんな姿こそ格好悪くて政宗には見せられない、と小十郎は苦笑した。
※双竜両思いになるまでの話。もだもだするシリアス(?)なので注意!続きは折りたたみ↓↓
治まったはずの焦燥感は僅かにまだ心の底に燻っている。
「政宗様、」
一国の主で、天下を獲る御方。
此処に住まう民たちの、そしてすぐ傍で慕う仲間たちの命を背負う、何ものにもかえられない大切な人。
だから。
「…無事で、良かったのだ」
それは半ば自分に言い聞かせるような呟きだった。
………
この夢の始まりはいつも波の音。
その音に混じって子どものはしゃぐ声と女の笑い声。
自然とその声の方向に政宗の足は歩き始めていた。
ぼんやりと視界の先に見える影。
その姿は未だぼんやりとしたままで、近いづいているはずなのにはっきり見えない。
(或いは…俺が、見たくない…のか?)
しばしその声に耳を傾けて、気付いてしまった。
政宗は歩く足を止め、軽く頭を掻く。
これ以上近づきたくない。
自分が近づいているそれは、政宗にとっては馴染みの深いものだった。
いや、切り離せない過去、というべきか。
(これは…海に来た時の記憶だ。弟と……母上と)
政宗は母親との記憶はすべて忘れずに持っている。
愛されていたか否かが問題ではない。
自分が愛していたか否かの問題だ。
(たとえそれが、痛みだけ呼び起こすものだとしても)
それでも大切な記憶。
幼い自分は文句もわがままも言わない「良い子」であったが、
小さい身体の内にどれだけの感情の嵐を抱えていたろうか。
母親と弟の家族のような仲睦まじい姿に何度焦がれて、
そしてそれが炎となって焼き尽くすほどに憎かったろうか。
母親の目に政宗は映らない。
映っていなければ、認識されていなければ、それは在っても無いと同じこと。
拒絶されたその時から、母親にとって自分という存在は居ないのだ。
「私の愛しい愛しい息子」
それが指すのは弟だけ。
記憶を払うように首を振って、政宗は来た道を引き返す。
(この歳になっても、俺はまだ逃げる)
そんな情けなさを噛み締めながら。
(母上…)
政宗は何も言わず、ただきつく拳を握り締めた。
………
握っていた手に不自然に力が入って、伏せていた目を開けた。
「政宗様…?」
「…は、…うえ…」
吐息に似た本当に小さな呟き。
そして左目からこぼれた一筋の涙に、小十郎は政宗の身体を揺すった。
「政宗様っ、」
きっと悲しい夢を見ている。
手を握っているのに、傍にいるのに、その夢に自分は居ないのだろうか。
もしそうであるなら、夢の中でも政宗を一人にすることなど出来ない。
「政宗様っ!」
微かに睫毛が震えてゆっくりと政宗が目を開ける。
「…こじゅろ…」
小十郎は政宗の顔を心配そうに覗き込む。
「…申し訳ありません、魘されていたものですから」
「…あぁ、助かった」
政宗は未だ鈍い身体を小十郎の方に向ける。
「…お前が傍にいて、良かった」
政宗は本当に小さな声で呟いた。
流れ落ちた涙は、そのまま布団に染みこんで消えた。
小十郎は不穏なものを察して自分の方を向く政宗の肩を優しく撫でた。
「少し空気の入れ替えを致しましょう。今日は日が暖かいですよ」
その言葉に政宗は小さく頷き、手をそっと離して風が入るように戸を少しだけ開けた。
また傍らに戻ると、手は握らなかったが政宗がいいというまでずっと肩を撫で続けた。
ちりちりと容赦なく心の奥が痛む。
その理由を考えるより先に、政宗の痛みが少しでも和らぐよう、
心の中で小十郎はただただ祈っていた。
続。
今度はわざとらしいほど大袈裟に。
(無事で…良かった)
無事なことは分かっていたのに、言葉を交わして心底安堵している、など。
こんな姿こそ格好悪くて政宗には見せられない、と小十郎は苦笑した。
※双竜両思いになるまでの話。もだもだするシリアス(?)なので注意!続きは折りたたみ↓↓
治まったはずの焦燥感は僅かにまだ心の底に燻っている。
「政宗様、」
一国の主で、天下を獲る御方。
此処に住まう民たちの、そしてすぐ傍で慕う仲間たちの命を背負う、何ものにもかえられない大切な人。
だから。
「…無事で、良かったのだ」
それは半ば自分に言い聞かせるような呟きだった。
………
この夢の始まりはいつも波の音。
その音に混じって子どものはしゃぐ声と女の笑い声。
自然とその声の方向に政宗の足は歩き始めていた。
ぼんやりと視界の先に見える影。
その姿は未だぼんやりとしたままで、近いづいているはずなのにはっきり見えない。
(或いは…俺が、見たくない…のか?)
しばしその声に耳を傾けて、気付いてしまった。
政宗は歩く足を止め、軽く頭を掻く。
これ以上近づきたくない。
自分が近づいているそれは、政宗にとっては馴染みの深いものだった。
いや、切り離せない過去、というべきか。
(これは…海に来た時の記憶だ。弟と……母上と)
政宗は母親との記憶はすべて忘れずに持っている。
愛されていたか否かが問題ではない。
自分が愛していたか否かの問題だ。
(たとえそれが、痛みだけ呼び起こすものだとしても)
それでも大切な記憶。
幼い自分は文句もわがままも言わない「良い子」であったが、
小さい身体の内にどれだけの感情の嵐を抱えていたろうか。
母親と弟の家族のような仲睦まじい姿に何度焦がれて、
そしてそれが炎となって焼き尽くすほどに憎かったろうか。
母親の目に政宗は映らない。
映っていなければ、認識されていなければ、それは在っても無いと同じこと。
拒絶されたその時から、母親にとって自分という存在は居ないのだ。
「私の愛しい愛しい息子」
それが指すのは弟だけ。
記憶を払うように首を振って、政宗は来た道を引き返す。
(この歳になっても、俺はまだ逃げる)
そんな情けなさを噛み締めながら。
(母上…)
政宗は何も言わず、ただきつく拳を握り締めた。
………
握っていた手に不自然に力が入って、伏せていた目を開けた。
「政宗様…?」
「…は、…うえ…」
吐息に似た本当に小さな呟き。
そして左目からこぼれた一筋の涙に、小十郎は政宗の身体を揺すった。
「政宗様っ、」
きっと悲しい夢を見ている。
手を握っているのに、傍にいるのに、その夢に自分は居ないのだろうか。
もしそうであるなら、夢の中でも政宗を一人にすることなど出来ない。
「政宗様っ!」
微かに睫毛が震えてゆっくりと政宗が目を開ける。
「…こじゅろ…」
小十郎は政宗の顔を心配そうに覗き込む。
「…申し訳ありません、魘されていたものですから」
「…あぁ、助かった」
政宗は未だ鈍い身体を小十郎の方に向ける。
「…お前が傍にいて、良かった」
政宗は本当に小さな声で呟いた。
流れ落ちた涙は、そのまま布団に染みこんで消えた。
小十郎は不穏なものを察して自分の方を向く政宗の肩を優しく撫でた。
「少し空気の入れ替えを致しましょう。今日は日が暖かいですよ」
その言葉に政宗は小さく頷き、手をそっと離して風が入るように戸を少しだけ開けた。
また傍らに戻ると、手は握らなかったが政宗がいいというまでずっと肩を撫で続けた。
ちりちりと容赦なく心の奥が痛む。
その理由を考えるより先に、政宗の痛みが少しでも和らぐよう、
心の中で小十郎はただただ祈っていた。
続。
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プロフィール
HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。