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記憶の浅瀬 肆

小十郎が肩を撫でる感触が心地良くて、そのまま再び眠りに落ちる。
次に目を開けた時もやはり聞こえたのは波の音。

(また、夢か)

けれど立っているのは海でも浅瀬でもない。
それは他でもない、今の、自分の住まう屋敷だ。




※双竜両思いになるまでの話。もだもだするシリアス(?)なので注意!続きは折りたたみ↓↓

拍手[1回]





本物と見間違うほど精巧なその座敷に、一つだけ違うものがある。
今立っている自分のつま先の前に染み込んでいる「それ」。
鮮やかな緋色は時間の経過と共に黒く醜くなっていく。

(これは、血、だ)

その血が示すものが何なのか、政宗には考えずとも分かる。

(次は、コレか)

点々と続く血の跡に苦い表情をしながら、その跡を辿る。
途切れた襖の向こう。

(…この先にいるのは、)

政宗は襖に手をかけ、一度深呼吸をするとゆっくり襖を開けた。

(俺、だ)

自分の忌まわしき右目に短刀を突き立てる梵天丸がそこにはいた。
その光景に共鳴するように、眼帯の下の右目が疼く。
痛む。
このときの苦痛を思い出せ、と。
思い知れ、と。
そう言っているような気さえした。
この時の記憶も痛みも抑え込んだつもりでいた。
切り離せなくとも「過去のもの」にできたと、そう思っていたのに。

『梵はつよくなくてはならない』

与えられるべきものを全て遠ざけた原因。
そんなものにいつまでも屈しているわけにはいかない。
ただの忌むべき子どものままでいるわけにはいかないのだ。
この時の内側からこの身を喰らい尽くそうとする黒き龍は、今でも時折目を覚ます。
無意識に政宗は胸元をきつく押さえた。

『ならば、あなたが背負った負の枷をこの手で斬り捨てる罪は、この小十郎が背負いましょう』

小十郎の全てを懸けて、と幼い手に重ねられた手。
そのまま全てを引き受けるように自分の右目を抉りとったのは、小十郎だった。
「…っ!」
急に痛みが増す。
もう何も無い空っぽなはずの右目がそこに在って、内側から蝕んでいくような激痛。
政宗は思わずその場に膝をついた。
「…ぁ、…う…」
掻き毟りたい衝動をなんとか抑えこむ。
手をついた地面は真っ赤な血溜まり。
その水面に映る自分の顔は酷く苦痛に歪んでいた。
「…じゅ、ろ…」
口をついて漏れた名前。
けれどそれを口にした自分が許せなくて、そのまま口唇を噛んだ。
痛みは酷くなるばかりで、見える左目すら血溜まりの緋色に正常さを失う。
「…っ、…が…ぁぁ…」
堪えきれず政宗は獣のように短く叫んで、意識が黒く塗りつぶされた。

………

じわりと政宗の額に汗が滲んでいることに気付き、
水桶を持ってこようと小十郎は一旦政宗の傍から離れた。
心なしか早足なのは妙な胸騒ぎがするからで。

(夢の中では、政宗様はまた一人)

よくは分からないが、何かと葛藤しているような。

(いや、むしろ何かに苛まれているというべきか)

水の張った桶に手ぬぐいを浸し、それを抱えて座敷に戻る途中。
「…ぁ」
声が、した。
幸か不幸か吸気の入れ替えがてら襖を開けてきたことが、小十郎に政宗の異変を知らせた。
煩く足音を立てることも気にかけずに小十郎はすぐさま政宗の座敷に戻った。
いつの間に目を覚ましていたのか上半身を起こしていた政宗だったが、
その身体が力なく傾いでいくの視界に捉えて小十郎は手の桶を捨て、
完全に倒れる寸前で抱きとめた。
政宗の震える手が右目を押さえている。
「政宗様、」
小十郎の声に政宗は気がついて、何度か深呼吸を繰り返し右目から恐る恐る手を離した。
「政宗様、右目が痛みますか?」
小十郎の問いには答えず、政宗はぼんやりと手の平を見ている。
「血は…」
その呟きに、小十郎は「失礼」と断ってから前髪を上げて確かめる。
そこに在るのは痛々しい傷痕だけだ。
「血は、出ておりません」
「…そう、か」
安堵したように応えた政宗は、廊下にぶちまけられている水と桶に気がついた。
「…持ってきてくれたのか、悪かったな」
こう未だ震える声で労う。
いえ、いいえ、政宗様。

(あなたに気丈な態度を見せることを強要するてめぇが憎い)

政宗は小十郎に心配をかけまいといつものように振舞う。

(何もできねぇてめぇに腹が立つ)

何があったのか問う勇気さえ無い。

(何故こんなにももどかしい?何故こんなにも悔しい?それは、)

小十郎はハッとして政宗を褥に横たえる。
「身体を拭きましょう。随分と汗をかいていらっしゃる」
その言葉に政宗の返事も聞かすに水浸しになった廊下を片付け、
湯を張った桶をもって座敷に戻った。
「熱くはございませんか?」
「あぁ、丁度いい」
腕を、背中を拭っていると、政宗が小さく舌打ちする。
「ったく、身体が動かねぇんじゃ退屈で仕方ねぇ」
その言葉に小十郎は笑う。
「無茶ばかりのあなたには丁度いいのではありませんか?」
政宗は目を眇めて不機嫌な表情になった。
新しい着物に替え、前髪を上げて額を拭う。
そして傷痕の残る右目を労わるように手ぬぐいで押さえる。

(これは、俺の罪、俺の残した傷痕)

そして手ぬぐいを離して、その右目に口唇を寄せる。
「小十郎?」
目を閉じたままの政宗の声に、小十郎は我に返った。

(俺は…何、を)

今しがた自分がしようとしたことが信じられずに、小十郎は酷く動揺した。
「―――いえ、終わりました」
そういって手を引く。
目を開けた政宗は小十郎の変化を察したようだったが、特に追求はしなかった。
桶を片付けている小十郎の背中に政宗の呟き。
「白昼に眠るってのはどうにも悪い夢ばかり見やがる」
くしゃりと黒髪を掻く様子に小十郎はぎゅっと手ぬぐいを握り締めた。
「…その夢の中では、小十郎はお傍に居りませんか?」
緩慢な動きで政宗が小十郎を見る。
その表情に僅かながらも驚きが見て取れた。
「…いざといなりゃ、来るさ。俺の背中はお前が持ってんだろ」
それは、来るよな?、と暗に念を押されているような気がして。
小十郎はその言葉に一言、「無論です」と答えただけだった。





続。
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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