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#05 「行動開始」

裏口裏道は悉く全滅。空いているとすれば正面突破くらい。だが、正面突破では「天上」まで時間がかかりすぎる。
「彼女が誰にも見つからずに、此処に来れたと思うかい?」
篤尋の発言は馨至の質問の答えではなかった。
「"上"に住めるなら相当の者だ、しかも彼女はかなりの世間知らずだしね」
「じゃあ、黙認で此処に来たってのか?」
馨至の言葉に篤尋は肩をすくめる。
「そこまでは。ただ、少なからずGUNSに流れてる可能性はある」
「狗が侵入を予想済みってわけか」
『GUNS』…この都市の頂点・指揮者直下の私兵。取り締まりと刑の執行、指揮者の意に沿わない事をしなければ大概のことは許される存在。厄介にも「上」で最も腕の立つメンバー故に軽視はできない。
「けどまぁ、これは大した問題じゃないよ」
「GUNS相手に随分余裕の発言だな」
篤尋は手を振って苦笑する。
「そうじゃなくて、侵入路の話。とりあえず、一番近い出入口とあとは正面からで大丈夫だと思う」
「侵入・退却不可なんじゃないのかよ」
馨至は置かれた蜜柑を指で弾く。
「執行直前なら問題ないよ」
刑の執行時は皆出入口を離れ天上に集まる。刑の執行を最優先にするためだ。その時なら気兼ねなく堂々と侵入できる、と言うのが篤尋の考えだ。
「脩二には時間稼ぎしてもらわないとね」
そう言葉を切って、篤尋は珈琲を飲んだ。そしてぼんやりと地図を眺める。

「―――…珍しく物思いだな」

馨至も珈琲を飲みながら言う。
「予想はしてたけど、いざ行くとなると憂欝にはなるよ」
今までは、処刑ではない方法での死を望む依頼ばかりだった。「上」に行くのも一人で十分。なるべくならと「上」を避けていたのは事実だ。だが、今回は公開処刑の場から少女を生きて救い出さねばならない。GUNS五人を考慮するなら三人でも足りないくらいだ。
「上」…そこはとても美しい世界だった。でもそれは不純物を排除した、漂白の白。あの日、篤尋と馨至は「上」を離れ「下(カレラ)」に下った。GUNSと刑事という席を放棄して。「上」と「下」が不干渉を暗黙の了解としていることを知っていたから。
「さて、…夕飯は何にしようか」
「魚」
馨至が即答する。
「実に幅広い回答で感謝するよ」
「秋刀魚、」
後ろから声がして、二人はその声の主を見た。
「…ってウサギが」
「白兎です、…って、何でこういう時やたらと耳聡いんですかっ!」
白兎の訴えを無視して、脩二は荷物を置くとソファーに倒れた。
「って言うか、基本的に篤尋さんの作るものって何でも美味しいですっ」
白兎の勢いに篤尋は笑って、
「じゃあ、夕飯四人分かな」
と席を立った。
「脩二のリクエストは?」
「蜜柑」
答えると、馨至が脩二に蜜柑を投げた。見てもいないのにそれを受け取って、両手で転がす。
「食いもんで遊ぶな」
馨至が咎めると脩二は身体を起こして地図の上に蜜柑を置いた。
「俺、正面?」
脩二は地図を覗く。
「そう、奏の相手」
「ゼロイチ、ねェ」
ナンバー01の所有者である「綾南奏」。GUNSリーダーの彼を脩二はゼロイチと呼ぶ。
「馨至、巽の対応は?」
「対象には今日中に繋げる」
「それでなんだけど、俺にやらせてくれないかな」
意思の確認役。その繋ぎによって結末が変わる、重要なプロセス。それは本来なら篤尋の仕事だ。
「…いいよ、」
篤尋は脩二に応じる。
その時誰もが、少なからずいつもと違う何かが起こりそうな予感を感じていた。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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