monocube
monoには秘めたイロがある。
見えないだけでそこに在る。
数え切れないそれは、やがて絡まり色彩(イロ)になる。
さぁ、箱をあけてごらん。
箱庭(ナカ)は昏(クラ)く底なしの闇色(モノクロ)。
深い闇に融けたらいいのに。
日々の戯言寄せ集め。
当サイトは作者の気まぐれにより、自由気ままに書きなぐった不親切極まりない戯言の箱庭です。
#11 「アシンメトリー」
逃げなくては。
奴らが追ってくる。
追いつかれれば、命の保証はない。
自分たちは、「上」の好奇心の為だけに殺されるのだから。
「…何観てんの、篤」
脩二はやけに難しい顔でパソコンを覗く篤尋に声をかけた。
「上で一騒動あったみたいだ」
篤尋は落ち着いた声で、そう応えた。
種の一件から二週間。しばらくは種に対する「上」の動きを警戒していたが、幸いにも大事はなかった。そもそも、「上」と「下」はいつからか不干渉を守っている。何が契機だったのか、詳しいところを脩二たちは知らない。だが、それは何よりも下の人間にとっては有り難い。「堕ち」てしまえば、こっちのものと言うわけだ。
「…一騒動って?」
脩二の言葉に、返答を濁しながら篤尋の指は流れるようにキィボードを叩く。「上」がそう容易く情報を公開するはずがないので、篤尋が不法侵入で情報を得ているのは確実。中でも一騒動と言うだけのことなら、尚更「上」はその情報を隠したいはずだ。
「…脱走…」
ズラリと並んだ文字列の中から篤尋が言葉をすくい上げる。
「何が?」
「子供…」
脩二は眉間にしわを寄せた。
「…"アシンメトリー"」
ついに脩二も後ろから画面を覗き込んだ。そこにはパーツひとつとっても寸分違わぬ二人の子供が居た。
ライフラインは、キツく握りしめた携帯。いつだって、誰の時だって「そう」だった。それを識っているから、「上」の連中は携帯を取り上げない。
死刑囚を餌にしたいのか。
希望を持たせて突き落としたいのか。
…いや、きっとどちらもだ。
「仄(ホノカ)、大丈夫か?」
仄と呼ばれた片割れは、小さくコクリと頷いた。その手を引く篝(カガル)は空いた手で優しく仄の頭を撫でた。そして前を向くと、険しい表情で辺りに細心の注意を払う。
捕まるわけにはいかない。自分は兄なのだから、弟を守らねばならない責任がある。
「――――…葬送屋、」
その名を持つお前たちなら、連れ出してくれるのだろう?
此処ではない、……へ
「――――何これ、」
さっぱり見分けがつかない。髪の色も瞳の色も。間違い探しなら、スペシャリストクラスの問題だ。脩二はしばし画面を見ていたが、興味を無くしたようにPCから離れた。篤尋はその後もPCを見ていたが、不吉な音がすると一方的に接続が切られた。
「バレた?」
「いや、単なる接続妨害だね」
「政府じゃねーの?」
脩二の問いかけに、篤尋は難しい顔をした。
「…恐らく、違う」
「上」の人間ではない、誰か。すると、真っ黒な画面を脩二が一瞥した。
「脩二?」
「――――…ヤな感じ」
脩二の言葉に篤尋は、その苛立ちの理由を計りかねて首を傾げる。だが、こういう時の悪い予感は恐ろしいほど当たる。これは「下」に堕ちてからより一層実感するようになった。だからだろうか。途端に走る緊張感。動きがぎこちないわけでも、口を閉ざしたわけでもない。いつもと変わらない様子で張り巡らされる独特の空気。
「し、」
篤尋が脩二、と声をかけようとした時、携帯が鳴った。
「篤、」
脩二がまた篤尋に傍に歩いてくる。篤尋はいつもよりゆっくりと携帯をとった。着信は「番号表示なし」。これを逃せば、相手との繋がりは絶たれる。
「…はい、」
篤尋は携帯の向こうに意識を集中させる。響く足音と、荒い呼吸。
「…君は、誰?」
「"お前、葬送屋か?"」
子供独特の高めの声音。声を潜めているのは、何か聞かれてはまずい状況なのか?
「あぁ、そうだよ」
「葬送屋」、このキーワードを口にした時点で依頼人に変わる。この携帯の向こうに居る相手は、法に縛られることではない、「何か」を求めている。
「"俺たちを連れ出してくれ"」
少年は、言った。
「"俺たちは…アシンメトリー、だ"」
その単語に虚を突かれて篤尋の返しが遅れる。それが、命取り。ぷつりと電話は切れた。
「…らしくない」
篤尋の反応に、脩二が呟く。篤尋は携帯を閉じてただ苦笑を返す。
「うん、確かにらしくない」
それに対して脩二は緩く篤尋を指差す。
「"次"は凡ミスすんなよ?」
責めるわけでも怒るわけでもない、いつもと同じ声音で。
「脩二もね、」
篤尋は真似するように緩く脩二を指差し返した。
確信があった。
「次」は、必ずやってくる。
奴らが追ってくる。
追いつかれれば、命の保証はない。
自分たちは、「上」の好奇心の為だけに殺されるのだから。
「…何観てんの、篤」
脩二はやけに難しい顔でパソコンを覗く篤尋に声をかけた。
「上で一騒動あったみたいだ」
篤尋は落ち着いた声で、そう応えた。
種の一件から二週間。しばらくは種に対する「上」の動きを警戒していたが、幸いにも大事はなかった。そもそも、「上」と「下」はいつからか不干渉を守っている。何が契機だったのか、詳しいところを脩二たちは知らない。だが、それは何よりも下の人間にとっては有り難い。「堕ち」てしまえば、こっちのものと言うわけだ。
「…一騒動って?」
脩二の言葉に、返答を濁しながら篤尋の指は流れるようにキィボードを叩く。「上」がそう容易く情報を公開するはずがないので、篤尋が不法侵入で情報を得ているのは確実。中でも一騒動と言うだけのことなら、尚更「上」はその情報を隠したいはずだ。
「…脱走…」
ズラリと並んだ文字列の中から篤尋が言葉をすくい上げる。
「何が?」
「子供…」
脩二は眉間にしわを寄せた。
「…"アシンメトリー"」
ついに脩二も後ろから画面を覗き込んだ。そこにはパーツひとつとっても寸分違わぬ二人の子供が居た。
ライフラインは、キツく握りしめた携帯。いつだって、誰の時だって「そう」だった。それを識っているから、「上」の連中は携帯を取り上げない。
死刑囚を餌にしたいのか。
希望を持たせて突き落としたいのか。
…いや、きっとどちらもだ。
「仄(ホノカ)、大丈夫か?」
仄と呼ばれた片割れは、小さくコクリと頷いた。その手を引く篝(カガル)は空いた手で優しく仄の頭を撫でた。そして前を向くと、険しい表情で辺りに細心の注意を払う。
捕まるわけにはいかない。自分は兄なのだから、弟を守らねばならない責任がある。
「――――…葬送屋、」
その名を持つお前たちなら、連れ出してくれるのだろう?
此処ではない、……へ
「――――何これ、」
さっぱり見分けがつかない。髪の色も瞳の色も。間違い探しなら、スペシャリストクラスの問題だ。脩二はしばし画面を見ていたが、興味を無くしたようにPCから離れた。篤尋はその後もPCを見ていたが、不吉な音がすると一方的に接続が切られた。
「バレた?」
「いや、単なる接続妨害だね」
「政府じゃねーの?」
脩二の問いかけに、篤尋は難しい顔をした。
「…恐らく、違う」
「上」の人間ではない、誰か。すると、真っ黒な画面を脩二が一瞥した。
「脩二?」
「――――…ヤな感じ」
脩二の言葉に篤尋は、その苛立ちの理由を計りかねて首を傾げる。だが、こういう時の悪い予感は恐ろしいほど当たる。これは「下」に堕ちてからより一層実感するようになった。だからだろうか。途端に走る緊張感。動きがぎこちないわけでも、口を閉ざしたわけでもない。いつもと変わらない様子で張り巡らされる独特の空気。
「し、」
篤尋が脩二、と声をかけようとした時、携帯が鳴った。
「篤、」
脩二がまた篤尋に傍に歩いてくる。篤尋はいつもよりゆっくりと携帯をとった。着信は「番号表示なし」。これを逃せば、相手との繋がりは絶たれる。
「…はい、」
篤尋は携帯の向こうに意識を集中させる。響く足音と、荒い呼吸。
「…君は、誰?」
「"お前、葬送屋か?"」
子供独特の高めの声音。声を潜めているのは、何か聞かれてはまずい状況なのか?
「あぁ、そうだよ」
「葬送屋」、このキーワードを口にした時点で依頼人に変わる。この携帯の向こうに居る相手は、法に縛られることではない、「何か」を求めている。
「"俺たちを連れ出してくれ"」
少年は、言った。
「"俺たちは…アシンメトリー、だ"」
その単語に虚を突かれて篤尋の返しが遅れる。それが、命取り。ぷつりと電話は切れた。
「…らしくない」
篤尋の反応に、脩二が呟く。篤尋は携帯を閉じてただ苦笑を返す。
「うん、確かにらしくない」
それに対して脩二は緩く篤尋を指差す。
「"次"は凡ミスすんなよ?」
責めるわけでも怒るわけでもない、いつもと同じ声音で。
「脩二もね、」
篤尋は真似するように緩く脩二を指差し返した。
確信があった。
「次」は、必ずやってくる。
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プロフィール
HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
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