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Ⅴ.“底”は“BORDER LINE” 4

茉咲はそんなことがあってから数年して姿を消した。俺の目の前で消えたはずだから、多分『放棄』したんだ。あんなことの後だから、何となく予想できたところはあるんだけど。
でもあの人は“此処”に居続けた。お陰で、俺が茉咲からあの人を押しつけられた様な形になってしまった。
「――――まだ、死なないのか」
苦痛に表情を歪ませながら、あの人は言った。もう何度目か分からない。あの人は“此処”での常識が意図的に欠如してる人間だった。奇跡的に一度だけ、あの人が刀を抜いたところを見たことがあった俺は、その強さとあの時に感じた圧倒的な力を忘れていない。それだけの実力を持っていながら、あの人はカオスを殺すことが出来なかった。
「…紫闇は?」
「此処には居ないよ」
俺は部屋の窓際の壁に寄り掛かって、座っていた。
「追いかけようかな」
「そんな状態で何言ってんの」
俺の言葉にあの人は笑って、
「でも紫闇はまだ…刀を遣いこなせてないから」
と言った。紫闇はあの人を意図的に避けていた。その理由は俺にも少しだけ分かる。カオス如きを殺すことも出来ないくせに、紫闇より確かでしっかりとした像を持った刀を具現化させられちゃあ苛立つのも無理のない話。あの人自身もその理由には気付いているんだろうが。
「今の貴方よりマシだ。毎度毎度そんな有り様で、不器用にも程がある」
俺は嫌みをたっぷりと込めて言ったが、あの人はただ軽く笑っただけだった。
「紫闇は僕より不器用だ。…でも、君はそんなに嫌いじゃないと思うよ」
「何の話?」
「紫闇に忠告してあげてくれないか?」
あの人は真剣に俺を見てくる。
「…助けてくれ、とは言わないんだ」
「忠告してくれるだけでいい。それで何かあったら、それは紫闇のミスだから」
俺はあの人に近付いた。
「貴方はそれでいいのか?」
「今まで、ずっとしてきたことだからね」
「じゃあ、貴方がすればいいんだ」
俺はあの人を睨んだ。何で俺があの人の願いを聞かなきゃいけないんだって、思ったから。
それに応えたあの人の言葉はとても静かだった。
「…できるなら、言わないよ」

そういってあの人が俺に見せたもの。それは侵喰の始まった腕。

「…知ってたのか?」
茉咲は。
あの人はそれに答えず、ただ苦笑しただけだった。
「茉咲は全部俺に押し付けて放棄(イ)った…貴方も」
「否定はしないよ」
侵喰の始まった腕。あの人の身体が、いずれ心すらも…歪んでいく。自我を無くし、狂った先はすぐ傍に在る。
「今夜までだ」
その時、あの人が意図した答えが俺には分かった。
「今夜までは、僕は僕の意志に従う……内緒だよ?」

その夜、あの人は紫闇に殺された。真実は、殺されたようにして『放棄』した。紫闇は自分が殺したと今でも思ってるはずだ。俺はあの人との約束を律義に守ってるわけじゃなくて、ただ真実を言うことの必要性を感じなかったから。でもその事実を紫闇が知った時、紫闇はどうやって壊れていくんだろうか。それには少し興味はあるけど。まだ今は…もう少しからかっていたい気分。だって、…嫌いじゃないし。
「―――見ろよ、俺の刀」
あの人を殺した夜。紫闇は以前よりすっきりとした日本刀を具現化できるようになっていた。それはあの人のものとも違う像。だが、しっかりと紫闇の手に馴染んでいた。
「…これなら、お前にも勝てる」
そう言って俺に刀を向けた紫闇を見た時、やっとあの人の言った意味が解かった。
『…でも、君はそんなに嫌いじゃないと思うよ』
あの人と同じ漆黒の髪に紫苑の瞳なのに。でも紫闇の方が感情に揺れて変化する瞳の光彩。はっきりと向けられる殺意。
「…どうかな?」
それが…妙に心地良かった。
その時俺は十八歳で、その時から俺と紫闇は因縁持ちになったというわけだ。茉咲が居なくなって、あの人が『放棄』して、それから俺があいつと出会う。それが、俺に起こった目まぐるしい変化の日常だった。それが今は…
「ただいま戻りました」
その反動で、まったくの怠け者になった気がする。
火滋の声に、俺はまた現実に無事帰還。手を軽く振ってそれに応じる。火滋の嬉しそうな表情。どうやら収穫はあったらしい。結構結構。火滋が俺の隣りに座って、獅戯に今日の出来事を話している。俺はそれを横目に、手元の珈琲を啜った。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
33
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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