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Ⅴ.“底”は“BORDER LINE” 3

正直こんなのは、まだ全然手緩い方。初めだったし、優しかった(?)んだと思う。大変なのはそれからで、茉咲の機嫌や気まぐれで何度も死にかけた。それなりに武器の扱いが安定してくると、それこそ殺る気十分な状態で俺にかかってきた。茉咲は俺が死なないようにやってるって言うが、どう考えてもそうだとは思えなかった。茉咲の言うことを鵜呑みにした俺の素直さをしばし呪った。今でも数え切れないほどその跡を残す傷。傍若無人な茉咲は基本的に容赦ナイから、その度に俺は傷を増やしていった。俺がそれなりに茉咲に食いついていけるようになったのは早い方だと思う。まぁ、毎回死ぬ気でやれば嫌でも身体が扱い方を覚えるんだけどさ。そんな気まぐれな茉咲が時々決まった時間に部屋を出て行くことがあった。それを珍しいと思ったのは事実だ。その時の俺はまだ若くて「野暮だな」と思っても、聞けるような無謀さがあった。今考えると、余計なことしたなぁ…としか思わないんだけど。
「なぁ、女?」
「ハズレ、男」
「げ、」
茉咲といるようになると、茉咲の趣味とか少しずつ見えてくる。俺に遊びとは言え手を出してるくらいだから、茉咲だったらアリだと思ったしそんなに驚きもしなかった。でも悔しいから嫌みのように俺は露骨に嫌そうな表情をした。でも茉咲には全然効果はなくて、ただ俺の反応に軽く笑って出ていった。
そんなことが続いていたある時、俺は初めてその相手にお目にかかった。
「篤抖っ…」
茉咲の驚いた顔。
「お前、あれほど一人で出んなって…」
「その一人でも、何とかなってるよ、茉咲」
漆黒の髪に紫苑の瞳。茉咲の相手は他でもない紫闇の兄・篤抖。この時の俺は紫闇のことを知らなかったから、後になって気付くことなんだけど。
でもパっと見弱そうだなぁ、なんて思ってたらあの人から茉咲と同じ煙草の匂いがした。
「彼氏?」
俺が茉咲にひやかして言ったが、茉咲はその一言を軽く鼻で笑って答えなかった。答えなくても解かるんだけど。明らかに俺との扱いの差が見え見えだし。何かそれが気に食わなくて、こっそり覗き見した(良い子は真似しちゃいけません)。
「…っ!」
「どこが何とかなってるだよ」
茉咲が腕を掴むと苦痛に歪む表情。傷口を掴んだ茉咲の手に、血が付いていた。
「…怒ってる?」
「…ったりめぇだろ。お前を傷つけていいのは俺だけだ」
茉咲の怖い顔。あんなに真剣に怒ってるのなんて初めて見た。
「…痛い、放して」
その声に茉咲が手の力を緩めて、あの人の腕を伝う血を舐めた。傷口に口唇を這わす。
「…っ…」
それは酷く優しい仕種。それは俺にだって伝わってくる。
結局、俺はそれっきりドアから離れた。その時俺は、何を想ってたんだろうか。
 
「…神津、」
獅戯の声に、思考を中断。
「あ――…」
あまり思い出したくないところまで思い出してしまった。俺の声に、獅戯は何事かと訝しい眼差しを送ってくる。
「珈琲、入れなおすか?」
俺はどれだけ回想してたんだろう。暖かかったはずの珈琲はすっかり温くなっていた。俺は獅戯の言葉に従って、カップを獅戯に渡した。
あの人は俺の苦手な部類の人だった。見るからに弱そうなくせに、まるで相手のことを何でも見透かすような目をしてる。それが嫌で力で捻じ伏せようとすると、その行為をとても哀れに見てるような気がするんだ。上手く言えないけど、計り知れないというか。俺のあまり好きじゃない意味で掴めない人。それがまさにあの人だったんだ。
「…思い出す人間、なんか間違ってるし…」
火滋との会話で、茉咲のこと思い出してたはずなのに。おかしいなと小首を傾げていると、
「気持ち悪い」
獅戯が俺の様子を見て一言。そして、目の前に入れなおした珈琲を置いた。獅戯はそれきりまた自分の仕事に戻ってしまったから、俺は引き続き思考を再開した。
 
「なぁ、別にアンタの行動を縛りたいっつーワケじゃないんだけどさ」
部屋から出て行こうとする茉咲の後ろ姿に、俺は言葉を投げた。
「行き先、言ってってくんない?」
「…今日は何だよ」
茉咲の反応は気分を害したとかそう言った類のものではなく、ただ純粋な疑問。
「予感すんの、アンタが死にそうな」
火滋が言う嫌な予感の的中率がいいことは、もうこの頃には解かり始めていた。初めは雨降りそうだなぁ…とか、その程度の話だったんだけどさ。
それに対して茉咲は面白そうな声だった。
「心配してんの?」
“俺の強さは身を持って知ってるくせに”とからかうように付け加えた。俺はそれに対し冷たい視線を投げてやる。
「心配っつーか…行き先言わないで死なれるのヤだし?」
何か気持ち悪いじゃん、そういうの。
「けど俺の行き先知ったところで、死ぬんだったら止めようがねぇじゃん」
「止める気ないし」
俺は即答した。
「だったら、わざわざ俺の死体見に来んのか?嫌みなやつだな」
「知らないところで死なれるよりマシだろ」
俺はじっと茉咲の様子を覗う。すると呆れたような表情がすっと真剣な表情に変わる。

「――――死なねぇよ」

そこには悪戯に笑う茉咲は欠片もなくて。
「そんなに弱くねぇもん、俺。それに…」
俺は次の言葉に何かを期待した。
「俺が居ねぇと、篤抖死ぬからな…そんなの赦さないけど」
途端にいつもと変わらない傍若無人な態度。嫌味とさえ取れるくらい茉咲は偉そうに笑った。
「あ、そ」
俺はその時、自分がなんて下らないことを言ったんだろうと気付いた。俺はそんな自分に呆れて、茉咲に背中を向けた。
「それに、俺は誰かに支配されるのは大嫌いでね。死ぬ時は…自分の意志で死ぬさ」
ドアの開く音。

「生憎、“俺”は俺だけのモンだ」

最後のそれは、まるで茉咲自身の独白みたいだった。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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