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no lack

普段は大人びた顔ばかりする少女の年相応の様子に、男は溜め息を吐いた。


『no lack』


「…ふむ。物騒になってきたものだね、ここら辺りも」
ジークは煙草をくゆらせて、夕闇空を見上げる。
「実に嘆かわしいね、紫」
傍らに在る紫苑の瞳の美女にそう投げかけると、彼女は困ったように笑った。
「…さて、先を急がねば」
ジークは時計を見、歩き出す。すると、彼女は陽炎の様に揺らいで消えた。

予定の時間より遅れたジークを咎めることもなく、クォーツは穏やかな笑みで迎えた。彼女の使いで先に出迎えた青年にお礼を言い、ジークは流れる様な動作でクォーツの手に口づける。
「…相変わらずで何よりですよ、クォーツ」
「貴方も相変わらずですのね、ドクター」
二人が初めて出会ったのは、ずっと昔の話。それからクォーツの主治医として、また鉱石の主としてジークは傍にいる。
「それで、私に何か?」
「定刻を過ぎた言い訳をさせてもらえるのなら、」
クォーツは悠然と笑って、
「…伺いますわ」
と一言。部屋に歩きながら、ジークは素直に遭遇した出来事を告げる。
「途中でトランプたちに遭遇しましたよ。珍しく近くを彷徨いていたので一掃しておきましたが」
クォーツの表情が僅かに曇ったのをジークは見逃さない。
「他の主たちはどうしたのです?」
クォーツは答えなかった。逃げるように先行くその手をジークは掴んだ。
「…なんて無防備な、」
ジークはクォーツを咎めるような表情になって呟く。
「…トランプたちに加えて、JとQまで出てきています」
今の人数では全員で対応するしかない。ジークは此処へ遅れた自分に腹を立てた。それに気付きながら、クォーツはぽつりと呟く。

「貴方を含めても、まだ12には足らない」

普段は大人びた顔ばかりするクォーツの年相応の様子に、ジークは溜め息を吐いた。
「紫、この屋敷の守りを」
その言葉に呼応するように、紫苑の色が揺らいで消えた。
「―――…アメジストは忠実ですのね」
クォーツの言葉に、ジークは掴んでいた腕を放した。そして彼女の居た場所を眺め、苦笑する。
「最初は助手が見つかるまで助けてくれればいいと思っていたんですがね」
そうして軽く頭を掻いた。
「あまりに有能すぎて、紫が居なければ何もできなくなってしまいましたよ」
困ったような複雑な反応に、ようやくクォーツが笑う。
「貴方たちにはそれが丁度いいのですわ」
それぞれ性格も相性もまるで違う。ただ、ジークとアメジストには今のスタンスが合っているだけで。クォーツの言わんとすることに気づいて、ジークはほかの鉱石のことを考えた。
「…お茶にしましょう、ドクター」
クォーツの言葉に虚を突かれる。
「アメジストが守っているんですもの、案ずることはないのでしょう?」
ジークは笑って恭しく頭を垂れる。
「…勿論ですとも」
その反応にクォーツはまた笑った。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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