忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

no loved

努力したことはあった。
でも諦めた。
後悔しないために。


『no loved』


「…珍しい来客だな、」

ジークは起き抜けのボサボサ頭を掻きながら呆然と呟いた。
エヴァンスがジークの元を訪れるのは何年ぶりだろうか。予告もなく現れる性格でもないエヴァンスの突然の訪問に、違和感を覚えたのは確かだ。アメジストはジークが声を掛ける前にエヴァンスに紅茶を出した。それに綺麗に微笑んで、
「アメジストは有能ね、あなたには勿体無いくらい」
「自分の分は弁えているさ、…だがやらないよ」
ジークは身なりを小奇麗に整えて、エヴァンスの前の椅子に座った。ジークにはコーヒーで角砂糖は2つ。それをアメジストは心得ている。
「その心配はないわ、私にはこの子がいるもの」
カタカタと手を震わせながら紅茶セットを運んでくるエメラルドに視線を向ける。
「あ、」
ジークは思わず目をつぶる。それを追うように盛大な音がして、ティーセットはものの見事に床に散らばっていた。
「すみませんっすみませんっ」
「大丈夫ですよ、」
アメジストはエメラルドが怪我をしていないのを確かめて、一緒に片付け始める。
「…あれが、君の好みかい?」
「えぇ、お気に入りよ」
嬉しそうにエヴァンスは笑う。その表情が昔と変わらないことに、ジークは何か懐かしいものを感じてコーヒーを口にした。
二人が綺麗に片付けて戻ってくると、すっかり居心地が悪そうに縮こまってしまったエメラルドの頬に慰めるようにエヴァンスは軽くキスをする。それを不思議な心地で見ているとアメジストが耳打ちする。
「…悪いねエヴァ、少し片付けたい用件がある、しばし退席させてもらうよ」
特に気分を害した様子もなくエヴァンスは片手を上げて応えた。

すっかり彼方此方傷んだ机の引出から煙草を取り出す。火をつけ燻らせると、懐かしい気がした。

(…そもそも、煙草の契機はエヴァだったな)

窓辺にゆっくりと歩みを進め、穏やかな世界を眺める。まるで自分が鉱石を行使し争いを繰り広げていることが嘘のような安らかな景色。

「――――…灰、落ちるわよ?」

すっと灰皿を出したのは有能な助手ではなく、他でもないエヴァンスだった。
「こんなに大事な紙の束がある場所で煙草なんて…相変わらず無頓着な人だわ」
楽しそうに笑い、ジークもその灰皿に軽く灰を落とした。
「…本当に、紫が居るから何とかなっているようなものだ」
「…この方が貴方らしくて私は好きよ?」
ジークはそのセリフに笑う。
「そういうのは君くらいだ、」
恋に落ちたのは若き日の記憶。
幸せだったことも嘘じゃない。けれど少しずつ歯車は狂いだして。互いに努力したことはたくさんあった。譲歩したことも。けれど、互いに諦めた。それはジークがエヴァンスを、エヴァンスがジークを想う最後の愛。
互いが後悔しないために、離れた。

「…少しだけ、此処に来る足は重かったわ」

ぽつり、と、エヴァンスは呟く。
「そうだろうな、連絡もせずにやってくるくらいだ」
ジークは笑う。
「また、来るといい」
君とは話がよく合うから楽しい、とエヴァンスの手から灰皿を取り上げる。
「ジーク、」
その時、自室のドアが開いてエメラルドが顔を出した。
「エヴァさま…!!きゃん!」
例外なく棚に躓いたエメラルドの上に書類の束が降り注ぐ。整然としていないが、それでどこに何があるのかジークなりに区分けしているのだ。ひらりと宙を舞う紙に、ジークは手元の煙草を消した。
「エヴァ、君の言う通り…此処で煙草はやめておくよ」
エヴァンスは、そうでしょう?と言わんばかりに口許に笑みを滲ませ、赤面したエメラルドを抱き起こす。
「帰るわ、このままじゃ貴方の大切なお城を壊してしまいそうだもの」
その様子を苦笑してジークは見ていた。
「トランプが数を増している、気をつけて」
「あら、誰に向かって言っているの?」
皮肉そうに笑うエヴァンスは、やはり綺麗だった。
「また、ね」

『また、ね』

最後に別れたあの日に口にした言葉とまったく同じセリフ。ジークは目を伏せて、

「あぁ、また」

最後に別れたあの日とまったく同じ言葉で応えた。

拍手[0回]

PR

この記事にコメントする

お名前
タイトル
メール
URL
コメント
絵文字
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード

無題

ひっっっさびさのアリス更新です。そして9人目の主登場です!急遽設定が変わったりしたエヴァ。
最初はジーク先生のモトカノ設定はなかったんですが…(笑)
あと3人!!
  • 水城夕楼
  • 2009/06/11(Thu)18:25:32
  • 編集

この記事へのトラックバック

この記事にトラックバックする

カレンダー

09 2017/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
33
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

ブログ内検索

カウンター