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no trick

男はその腕に瑠璃色の双刀を抱いて、笑う。
呼応するように、瑠璃色はその鮮やかさを増す。

統べては、総てを全て断ち切るために。


『no trick』


世界がすっかり闇の帳の中に包まれた時分。
レイヴンは蠢き立つトランプの処理に追われていた。そしてその中に立つ、異色の男と女。
双方と対面するのは初めてではなかった。

「お久し振りですね、」

男は愉しげに笑い、呼応するようにレイヴンも笑った。
「幹部様揃ってお出ましかよ、光栄だねぇ」
「僕らもたまには挨拶をしておかないと、失礼にあたりますからね」
"鉱石の主様に"と相変わらずの笑顔で付け加える。
「あの夜の続きだ、」
「臨むところです」
レイヴンは地を蹴り、男も刀を手にし迎え撃つ。
これで何度目の夜だろうか。度々レイヴンはこの男と殺り合っている。そしてその度に決着を後回しにする。正直なところ、本気を出しているかどうかは判らない。だが、こうも結果が先延ばしになると本気を出していないというところが妥当か。少なくとも、レイヴンはそうだった。仲間内では十分に強者のレイヴンが見つけた退屈しのぎ。クォーツに知れれば、不謹慎だと優しく嫌みでも言われそうだが。
「相変わらずお強いですね、貴方は」
「その俺に決定打を与えないお前はどうなんだ?」
男の太刀を受け、スライドさせて次の一撃。読み切った男は上体を反らしてかわすと、更に踏み込んで一閃。かわさず真っ向から一閃を受け止める。ギリギリと金属の擦れる不快な音がした。
「…膠着状態は、面白くないですかね」
この状況で表情を変えない男は小首を傾げる。
「気持ち悪い、」
レイヴンはその仕種に初めて吐き捨てるように言った。
「では、そろそろ動きましょうか」
「初めっから動きなさいよっ」
苛立った女の声に、男は振り返り笑う。
「そんなに怒らないでください」
その態度が気にくわない。
「余所見とはいい度胸だな」
弾かれた二つの刀。だが直ぐに切り返すレイヴン。即座に注意が向いたところで、この一撃はかわせまい。刹那。耳の鼓膜を震わす高音。
「なっ…」
背を向けたままの男は確実にレイヴンの一撃を受け止めた。
「…余所見はできると思わなきゃできないものですよ」
それは、「お前の太刀は余所見していても受けられる」ということ。直接的でない男の言い回しが癇に障る。
「貴方唯一の刀は、僕に届きませんが?」
漸く振り返ってレイヴンと視線がぶつかる。
酷く穏やかで波一つ立たぬ金色の瞳。それが動き出した証拠。リミッターの解除を示す金色を、レイヴンは知識として持っていた。だとすれば、こちらもそれに応えない理由はない。

「唯一の刀、だって?」

レイヴンは刀を持つ手を下ろして、ゆっくりと繰り返す。男は僅かに眉を顰めた。
「それが本トなら、お前の両目は節穴だな」
瑠璃色の光りが弾ける。その色を纏う女は、ゆっくりとその形を確かめるようにレイヴンに触れていく。

「…生憎だが、俺の刀は三本だ」

男はその腕に瑠璃色の双刀を抱いて、笑う。
呼応するように、瑠璃色はその鮮やかさを増す。

統べては、総てを全て断ち切るために。

レイヴンは地を蹴る。それは完全に勢いを取り戻した動き。不規則に動く三本の刀を、男は巧みにかわしていく。受けては払い、かわしてはまた受ける。それをしばらく繰り返したところで、男が大きく距離を取った。しかしそこで止まらず深追いした判断が間違いだと気づくのはすぐ後のこと。

「…綺麗ですね、これ」

レイヴンの一撃を刀で緩め、刀と反対の手が止める。手のひらにザックリと食い込んだが、痛覚すら無いかのように男は動じない。そして次の瞬間。

嫌な、予感がした。

男は捕まえた瑠璃色の刀に、自分の刀を突き立てた。何度か突き刺された瑠璃色は、やがて悲鳴を上げるように折れた。
その刀の大半を掴まれたまま、折れた瑠璃色を庇ってレイヴンが距離を取る。滴る血すら気にすることなく、男は捕まえた刀を手から抜く。それは直ぐに解けて、右腕に戻った。それを確認して、男はレイヴンを見る。そして、

「一つずつ折ってあげますよ、」

男は笑う。

「…精々、負け犬の牙だけは研いでおくんですね」

その手に、瑠璃色の残滓を残す右腕を抱いて。

「じゃないと、面白くないでしょう?」

鉱石を庇うレイヴンを見下ろしながら、

「退屈しのぎなんだから、それなりの働きをしてもらわないとね」

男が笑う。

「…っ、」

レイヴンが奥歯を噛み締める。ラピスラズリに触れる手に力が籠もった。レイヴンの悔しさや怒りは、痛いほどにラピスラズリに伝わる。
「では、また」
優雅に一礼して男は一足先に消えた女を追って闇に溶けた。

「――――…マスター、」

白い顔で不安げな声を上げるラピスラズリの欠けた腕に触れる。それは酷く優しい触れ方で。
「…心配すんな、必ず取り返す」
「…はい、」
レイヴンの手に、ラピスラズリは左手を重ねるように触れた。

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ようやく出てきた、

噂のレイヴン氏(笑)
JとQも参戦です。次はどの主の話にしようかしら。
  • 水城夕楼
  • 2007/06/22(Fri)22:18:23
  • 編集

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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