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雨の音 言の葉

伝えられなかったあの日の想い。
もしいつもの場所に君が居たなら、


雨は好きじゃない。
普段張っているアンテナが鈍くなるから。
何気ないことに過敏になって気疲れする。大気中に満ちた湿気は面白いほど自然に染み着いて。やけに重たく感じる服も、纏わりつく空気も苦手だ。何もかもが霞んでいく感じ…自分が酷く頼りない場所に居るようで。

学校からの帰途、不意に道路の真ん中に倒れている何かを見つけて歩調を緩める。
やはり、雨の日はロクなことがない。

「――――大丈夫ですか?」

「―――…大丈夫、」
態度とは裏腹に意外としっかりとした返答に、環音(ワオ)は少しだけ安堵した。道路に横たわって居たのは、一人の女の子。すっかり日が隠れた闇の支配下で、彼女の顔は見えない。ただ、肩に掛かる綺麗な黒髪が流れるようだった。
「…何、してるんですか?」
「…雨、冷たくて気持ちよくて、」
戸惑う環音に、ゆっくりと彼女は答えた。それは雨と同じように環音の中に染み込んできた。
「風邪引くと思いますけど」
彼女の返答はなかった。何故だか放っておくことも出来ずに、仕方なく彼女の傍らにしゃがみ込んだ。失礼だと思いながら顔を近づけると、ようやくその顔を確かめることができた。端正な顔立ち。目を閉じている所為か、やけに長く感じる睫に水滴が当たっては微かに震える。
正直、綺麗だと、思った。
「―――――退けて、」
「…え?」
目を閉じたまま、彼女はまたゆっくりと繰り返す。
「…傘、退けて」
環音は距離を置くか傘を閉じるか思案して、結局傘を閉じた。
「…冷たい、」
静かに雨は降り注ぎ、また少し身体が重くなった気がした。
「―――えぇ、冷たい」
彼女の声に笑ったような気配を感じた。
「…いつも、こんなことしてるの?」
「…雨が降るのが解るの。そうするとね、何故だか雨を浴びたくなってこうしてる」
彼女は自分の言葉一つ一つを確かめるように言った。
「何も倒れることないんじゃない?」
「コンクリートなのにね、聞こえる気がするの。地面を滑っていく、雨の音が」
「…雨、好きなんだ?」
彼女は漸く目を開けた。
「―――――さぁ、そうだったかしら。…それより、貴方こそ、いいの?」
「…何が?」
初めて目があって、らしくもなく動揺したのは事実だ。
「雨でずぶ濡れ、」
「あぁ…確かに」
環音の答えに、彼女は初めてはっきりと解るように笑った。
「貴方って、変な人」
「君も変わってるよね」
「…よく言われる、」
「僕も、」
彼女が笑い、環音も笑う。最初の雰囲気よりも子供っぽい印象。それでも彼女の笑い声は鈴を転がしたように綺麗だった。それから二人はたわいもない話をした。降り続く雨を気にもとめずに。

「また、逢えるといいね…雨の日に」

別れ際、環音に彼女は一言そう言った。


すっきりしないくすんだ空。雨が降りそうな予感がする。天気予報によれば、降水確率45%…微妙な数字だ。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
母も少し跳ねのきついくせっ毛を気にしながら環音を見送る。どうやら母なりに雨の気配を感じ取っているらしい。
「…あ、雨降りそうだから傘持って行く?」
「あー…」
環音は天気予報を思い出しながら逡巡する。
「雨、嫌いでしょう?」
そして出した結論。
「…いいや、きっと降らないから」
最近は傘を持たずに出ることが増えた。それに比例してずぶ濡れになることも増えていたが。相変わらず雨の日はアンテナが鈍って、身体が重たくなる。長年の間に培われた苦手はそうそう変われない。…でも、少しだけ悪くないなと思うことがあるのも事実だ。

『また、逢えるといいね…雨の日に』

「――――そうだね、また、会いに行くよ」
雨の日は、少しだけ寄り道。きっとまたどこかに倒れている彼女を探しに。






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あめのね~

実に久しぶりに来てみたらいろいろ変わっていて、でもそのなかに懐かしいものを見つけた。
てわけで実に久しぶりです。音符もかわいいです(^w^)
授業中に読むくせがついているせいか来ようと思っても今度みたいな感じで一ヶ月です(^_^;)
  • 八神
  • 2007/04/10(Tue)19:11:35
  • 編集

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
33
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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