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あの頃の自分は本当に幼い子どもで。

でも、不意に足を滑らせて傾いだ身体を支えてくれた腕は
今も、此処に。

まだ初夏にもなっていないのにとんでもない暑さ。
手で風を送っていた手は、やがて団扇に変わった。
すっかりやる気も削がれて、
文机に積み重なっている書物の束に正直吐き気がする。
足を伸ばしてどうしたものか思案していると、
通りかかった女中が伸び放題な髪を軽く結ってくれた。

(…少しは涼しくなった…)

空は澄み、閉じこもっていることに退屈を感じ始めている。
強い日差しは苦手だが、ゆっくりと重い腰を上げた。

(そういえば…)

こんな暑い日には、よく覚えている思い出がある。

『梵天丸様!』

あの頃の右目は、今の自分と同い年くらいだろうか。

(いや、もういくつか下か)

その割にはやけに落ち着いていたような記憶がある。

(ジジくせぇなんて言ったら、怒るんだろうな…)

口許に笑みを浮かべて、強い日差しの下を走る。
城のすぐ近くを流れる川は広さの割には浅く、近所の子どもたちの格好の遊び場だ。
川に近づくに連れて子どもたちのはしゃぐ声が大きくなる。
不思議と走る速度は速くなって、子どもに混ざるように川へ降りた。
草履を脱ぎ捨てて、水の中に入るとすぅっと暑さが引いていくような気がした。
自分の腰程度までしかない背丈の子どもたちを相手に足で水を掛け合う。

(…あの時も、跳ねる水がすげぇ綺麗に光ってて、)

「政宗様!」

聞きなれた声に反応して振り返ろうとしたら、水底の石に足をとられた。
「あ、」
背中から倒れていく身体を支えたのは。

「…小、十郎」

息を整えながら苦笑する小十郎を見上げる。

『梵天丸様、足下に気をつけなければ』

幼い頃の、暑い初夏の記憶。

「政宗様、足下に気をつけなければ」

少し呆れたような気配さえ含んだ声音に、笑う。
「…昔を思い出した、」
幼い頃こうして川につれてきてもらったことがある。
見るものすべてが綺麗で輝いていて。
夢中になって遊んだ。
そして後ろから呼ばれた声に振り返ろうとして不意に足を滑らせた。
背中から傾いでいくその身体をこうして支えてくれたのは小十郎だった。
まだ頬に傷などない、青年だった頃の。
「…貴方は、あの頃からちっとも変わっておりませんね」
すぐ勉強をサボる癖も。
そういつもの小言が降ってきて顔を顰める。
「暑いのが好きじゃねぇのは、お前も知ってるだろ」
「えぇ、ですから戻ったら一休みにしましょう」
そういって背中を押される。
自分の足で立つと、小十郎はゆっくり先を歩いていく。
その背中に笑い、空仰ぐ。

手で遮ってもなお強い日差しに目眩がした。









※今日、暑かったからね。着物の裾をぬらしながら遊ぶ主に、呆れながら世話を焼く右目。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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