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その立ち上る白煙にすら、

胸に焦燥感を抱き。

時折主は煙管を手にしながら物思いに耽る。
一月に数えるほどだが、そう物思いに耽る時は決まって何を言っても聞こえないのである。
何がその心を煩わせているのか問うたこともあったが、やめた。
心総てに立ち入る権利が自分のどこにあろう。

澄んだ青空の下、
開け放たれた襖の向こうから入ってくるのは夏を感じさせる乾いた風。
心此処にあらず、といった様子で外を眺めている主の傍で黙する。
手にした煙管から立ち上る白煙は、この物思いの理由を知っているのだろうか。
不意に心をざわつかせる何かを感じとって軽く目を伏せる。
すると、止まったままの空気が揺れて。
主が自分の方に視線を流しながら笑っていることに気がついた。

「――――…如何なされました?」

そう問えば主は更に笑みを深くし、コンコンと煙管の灰を落とした。

「そりゃこっちの台詞だぜ?小十郎」

まるで心のざわめきを見透かしたような言葉。

「こいつ(煙管)を手にしてる時は、いつもそうだな」

そう目を遣った煙管は、以前骨董屋で見つけたものだった。
一見高価なものには見えないが、
よく見れば細かい細工が施されている、竜、の形をしていた。
そしてその右目には主と同じように傷が入っていた。
店の主人によれば、その傷が煙管の値打ちを下げてしまっているとのことだったが、
それを気に入った主はその煙管を大事に使っている。
取り出す手つきはいつも優しく、どこか愛しんでいるような気さえした。

「白煙が、嫌いか?」

主の問いに軽く首を振る。
「煙管を手にしている時はいつも」という台詞に、分かりやすい自分に苦笑した。
黙していると、主はまた愉しそうに笑って。

「…じゃあ、お前を構わないのが嫌、か?」

まったく、何とも答え難い問いかけをしてくる。
苦笑したまま答えずに居ると、その視線が同なんだと促してくる。

「……何が、その心を煩わせているのか、まるで小十郎だけが知らぬような気がして…それが少し歯痒いのです」

主と同じ傷を持つ煙管。
無機物にそんなことが分かるはずもないと、そう知っていて尚。

「俺ももうガキじゃねぇ、自分で答えを出さなきゃならないこともたくさんある」

お前の手を煩わせたくねぇ気持ちも。
そう言って、煙管を置いた。

「けどな、本当に答えが出ねぇ時は…背中を押してもらいたい時も、か…そういう時は言うようにしてる」

それだけ信頼し、預けているつもりだ。でなければ、右目の名を赦すまい。
と真摯な声で言うから。
まるで一人焦っていた自分が馬鹿馬鹿しく思える。
自分が思っているよりももっとずっと主は考え成長している。
ただ無邪気だった頃とは違う。

「だからな、…こんなモンに妬くな」

そう言いまた愉しそうに笑う主に、

「…そうですね、その小竜には戦場で貴方の背をお守りすることは出来ますまい」

そう言い返して。
それすらもまるで張り合っているように響いて、「…お前らしいな、」と主は苦笑した。

冷静で小言ばかりの右目とて、たまにはこんな風に感情を率直に出すのも悪くはない。









※たまには右目だってやきもきすればいい。その姿に、きっと主人はご満悦なんだろうが。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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