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ここが果てなら。

「アンタのそれは立派な忠誠心だが…残された竜の旦那はどうするんだ?」

静かに責める声音でそんなことを言うくせに。
きっと自分は同じことをするのだ。

それは自分の中にある、唯一無二の覚悟。




※忍から見た、蒼主従の話。病んでる…様な、そうでもないような。念のため、続きは折りたたみ↓↓

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「佐助、戻ったか」

帰還を待ちわびていたとばかりに駆け寄る紅の頭をいつものように軽く撫で、
「何々、そんなに俺様が恋しかったのかい?旦那」などとおどければ、
「それもあるが、」とあっさり肯定された。
そんな戯れよりも早く聞きたいことがあるだろうに。
こういう妙に素直なところは紅の良いところだが、どうにも慣れない。

(俺が生きてきた世界は、あまりにも嘘と虚実に長けすぎて)

かつて大将が紅のことを太陽のように例えたことを思い出した。
(※5.27静けさに殺されるとは、参照)

(太陽と月か、)

話がそれたな。
すぐさま思考を切り替え、目の前でどう問うたものかと思案する紅に本題を伝える。
「旦那、竜の旦那は無事…それから、右目の旦那も」
するとハッと見上げた紅の表情から緊張が解けた。
最悪のことも考えていたのだろう。
そうならずに済んでよかったというのは、自分の本音でもある。
「…そうか、」
言葉を噛み締めるようにそう呟いた紅の頭をまた軽く撫でた。

そもそもの始まりは奥州独眼竜負傷の報せ。
その報せに動揺を見せたのは他でもない紅だった。
大将も生意気と言えど一目置く存在である独眼竜を気に掛けていたらしい。
よって独眼竜の状況を報せよ、という双方の命に従い、奥州に出向くことになった。
とは言うものの、大将の気がかりは右目のこと。
大将曰く、あのクソ生意気な小童がそう容易く死ぬはずがなかろう、だそうだ。

(実のとこ俺様も竜の旦那より、右目の旦那の方が気がかりなんだよね)

あの右目がついていながらの負傷ならば尚のこと。

(ま、大方そうだろうけど、あの右目の旦那が傍を離れるなんてそれこそ有り得ない)

ことの真相は奥州に着いてすぐに知れた。
独眼竜負傷などなんのその。
それよりも大事、らしい。
「梵、ちょ、落ち着けって!」
男が独眼竜を羽交い締めにしてその行動を止めている。

「本調子でもないのに、また傷が開…「うるせぇっ!!」

独眼竜の様子は激昂と言うに相応しいそれで。
「まだ答えを聞いてねぇぞ、小十郎っ!!」
その名に、自分の予想が半ば的中していたことを確信。

(本ト、こういうの外さない俺様の勘に万歳だね)

自虐的に呟いて嘆息した。
だが意外にも独眼竜はすぐに折れた。
黙っては内側で暴れる感情を抑え込む。
「―――成実、小十郎と二人にしてくれ」
「梵、」
「無茶はしねぇ、約束する」
その真摯な声音に、男は深く溜息をついて渋々座敷を出ていった。
右目は未だ座し俯いたまま沈黙している。
独眼竜がどんな視線を向けているのかは分からないが、
恐らく言いたいことを上手く口に出来ず、
結局音になるのはその1/10にも満たない一言。
「小十郎、俺は…お前のしようとしたことを許さねぇ、これからもずっと」
そう言って座敷を出て行った。

「―――本ト、お堅い性格だねぇ、」

気配などお見通しだったのだろう。
右目は動揺ひとつせずに視線を上げた。
「覗きとは大した礼儀じゃねぇか、真田の忍」
「そんな口利けるなら、応えてやれば良かったんじゃないの?」
意地悪く言えば、右目はまた口を閉ざした。
「竜の旦那が負傷したって聞いたから来てみたんだけど…」
思ったより元気そうじゃん、
と右目を見たが右目は頷くこともなく表情を険しくしただけだった。
実際の容態は、独眼竜を止めていたあの男の言葉通りなのだろう。
どうしたものかと突っ立っていると、不意に右目が口を開いた。

「――テメェには、全部分かってるんだろう」

右目は、主の消えた先を見ていた。
その背中に。
「まぁ、理解る気はないけどね」
紅とは違った意味で(本質的には同じなのかもしれないが)真っ直ぐなこの男は、
文字通り間違いなく従者としての責任を全うしようとした。
確かに限りなく正しくどこまでも公平に。
でもその正しさを公平さを独眼竜という男は許さなかった。
ただ、それだけの話。
「アンタのそれは立派な忠誠心だが…残された竜の旦那はどうするんだ?」
誰よりも重んじ誰よりも案じる存在の行く末を気にしないはずがない。
ましてやこの右目が。
右目は答えなかった。
無論、それを聞いたところで自分が口を挟む余地など端からない。
「…ま、何にせよ早くソレをどうにかするこった」
許されなかった男の自責の念は出口を失って内側から自身を苛むだけ。
「竜の旦那は、アンタの望むように甘やかしちゃくれない」
もう二度と、右目を責めることはしない。
どこまでも正しさを許さず、右目に赦しを与える。

「アンタはそれに縛られながら竜の傍で生きていかなきゃならないってワケだ」

言いながら、笑う。

(それは、俺も、同じ)

だからどれだけ独眼竜が残酷か、よく分かるけれど。
でも理解しない。
甘やかすつもりはこっちにだってない。


「御愁傷様」


綺麗に笑って座敷を出る。
そして廊下の柱に寄りかかって蹲る竜の背中を軽く蹴って。
「…んだ、テメェ来てたのかよ」
「知ってたくせに、可愛げないなぁ」
声の擦れる独眼竜の前に包みを置く。
「痛み止め、お大事に」
すると独眼竜はへっ、と笑って。

「テメェなら、どうする?」

同じことを紅が言うのならば。

「…やることは変わらないよ、違うとすれば見つかるなんてヘマしないだけさ」

どっかの誰かじゃないけど、屍は残さないと決めてんのよと笑ったが、
独眼竜は笑うこともなくただ小さく「そうか、」と感情のない声で呟いただけだった。
これでもう話はおしまい。
独眼竜を見ることもなくその足で上田に引き返した。

木々を渡りながら、思う。

(たとえ旦那が俺の死を許さないとしても、旦那を守れなかったその時はきっと)

頭を振って思考の切り替え。
妙に変なところで聡い紅に何かあったのかと見抜かれてしまわないようにしないと。

(竜の旦那も、右目の旦那も無事)

それが今回の回答。
戻る足を早めながら、帰りを待つ紅を想った。
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しまった…うるせぇっ!!ではなく、シャラップ!!だったか…(ニュアンス的には・笑)
  • 水城
  • 2009/11/19(Thu)20:14:07
  • 編集

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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