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endlessqual

この雨が続く限り、離れずに済むのなら。
ならば、生涯祈り続けよう。

この雨がやまないように、と。



※蒼主従の話。先日の奥州里帰り(笑)でみた武家屋敷に触発されたのと、永月さんとのメールをきっかけに出来上がった話の続きは折りたたみ↓↓

拍手[0回]


政務に忙殺されかけたところを
小十郎に救い上げられるように助けられて強制隠居。
小十郎が白石に移ってから度々自主的な隠居をするようになったが、
強制的に休まされるのは何とも久しぶりだった。
今回に関していうならば、
確かにいつもより忙しかったし隠居の予定も急に入れたものだった。
だからそれに合わせるために、
文字通り死ぬ気で政務をこなさなければならなかった。
だがその無理がそう何日も続くはずもなく。

(…小十郎のあんな慌てた表情、久しぶりに見たな…)

小十郎は立場的なものもあるのだろうがあまり動じない。
表情を崩すことは限られている。

(主に、俺のことなんだけどな)

主なのだから当然といえば当然だが、
その理由に他の要素も少なからず含まれていることを知っているから。

(…優越感)

を感じたりする。
身体を起こして上着を羽織り暖かい空気の染み出る居間に入ると、
囲炉裏に火が入り薪がパチパチと音を立てていた。
手足が温まっていくのを感じながら、
そこに探している当人がいないことに首を傾げた。
居間をぐるりと見回したところで、ヒュン…と外から音がした。
音を辿るように縁に出る襖を開けると、木刀を無心で振る小十郎の姿があった。
研ぎ澄まされた空気、正しく鋭い太刀。
そのキレの良さに思わず息をすることすら忘れた。

(…ん?何だ)

その姿に一瞬妙な違和感を抱いたが。
「…政宗様、起きられましたか」
こちらに気付いた小十郎が木刀を下ろし、ゆっくりと歩いてくる。

(…気のせい、か)

「政宗様?」
不思議そうに見上げる小十郎に、なんでもない、と首を振る。
誤魔化すように見上げた空は生憎の曇天。

「―――…雨、降らねぇかな」

不意に口をついた言葉に、他でもない自分が一番動揺した。

(雨は、好きじゃねぇんだが…)

「では、朝餉に致しましょうか…」
とは言ってももう昼餉でしょうが、と小十郎は笑って稽古を切り上げた。

隠居をする時はこうして並んで台所に立つことが常だ。
最初は小十郎もいい顔をしなかったが、
自分の頑固さを一番知っている小十郎が折れた。
今では何事も吸収しようという意図を汲んでくれているらしい。
「足りない野菜をとってきましょう」
小十郎が庭に出る戸を開けた時、
自分の呟き通りに雨が降ってきたことに気付いた。
どうやら湯の沸騰する音に気がつかなかったらしい。
戻ってきた小十郎は雨に濡れているだろうと
居間に手ぬぐいを探しに上がろうとしたところで、
反対の戸を軽く叩く音がした。
時折お裾分けをしてくれるおかみさんだろうか
(あのおかみさんの作る煮付けは本当に美味しいのだ)。
それともよく挨拶をする穏やかな翁だろうか。

(開けたら小十郎がいた…なんてことする性質じゃねぇな、あいつは)

戸を開けて見上げると、そこに立っていたのは黒い布で顔を覆った男。
咄嗟に突き出された小刀の一撃を避けられたのは、日頃の鍛錬のお陰だ。
いつ何時危険に晒されるか分かりません、
と眉間に皺を寄せた小十郎の言うことはこれか、と身をもって体感する。
こんな不意打ちは久しぶりだ。

「…っ!」

男は声ひとつ上げずに入ってくる。

(そういや、この辺りに物騒なやつがウロついてるとかなんとか…)

そう聞いた気がする。
恐らく言っていたのは小十郎だろうが、
政務に忙殺されている間にその情報はどこかに追いやられていたらしい。
開ける前に思い出せれば良かったのだが。
刀に代わる何かがあればいいのだが、と辺りを見回す。
こんな時に限って傘すら見当たらない。
かといって奥の部屋まで飛び込むわけにもいかない。

(刀はあるが…踏み込まれるってのが気に入らねぇ)

いっそ沸いている熱い湯でも浴びせてやろうかとゆっくり後退していたら急に腕を引かれた。
何かが落ちる音。
足元に転がってきた人参に、腕を引いたのが誰なのか理解する。
「こじゅ、」
自分を背中に庇って、男に向かっていく。
決着はすぐについた。
こちらの被害は小十郎が男を斬ったごぼうが真ん中から綺麗に折れていたこと。
被害は深刻だ、確かごぼうは残り少なかったと言っていたような気がする。
すっかり目を回した男を見下ろし、小十郎が振り返る。
そして折れたごぼうを見、
「…真剣なら、こうはならなかったでしょうが」
と苦笑した。
その傍にゆっくりと歩いて、利き手である左腕に触れる。
「…政宗様?」
「―――調子、悪いな?」
それは確認だった。
素振りをしている時に抱いたあの違和感は気のせいではなかった。
「…気付いて、おられたのですか」
小十郎は少し困ったような表情をした。
触れた手で、左腕を温めるようにさすって。
「冷やすのは良くねぇだろ」
「雨がやんで日が出れば暖かくなって、これくらいすぐに治りますよ」
小十郎は目を伏せて穏やかに言葉を紡ぐ。
「治ったのを確かめなけりゃ、心配で戻るに戻れねぇだろ」
自分の右目の調子が悪いと知っているのに。
「…我が儘、ですね」
いつもの小言を言う小十郎はそれでもどこか楽しそうで。
(小言を言うときは基本的に愉しそうだが)

「雨がやむまでは、治らねぇよな」

引き寄せられるように近づいて。

「こんなに冷てぇのに」

温もりを確かめるように胸に顔をうずめて。
心の中ではいつでも求めている。
こうして傍にいる時も、離れて過ごしている時も、絶えず呼んで叫んで。
たとえ音になることは叶わなくても。
雨がしとしとと降り注いで、
開け放しの戸の向こうから重い湿気も冷気も染み込んでくる。

「政宗様、」

小十郎がさらりて黒髪を撫でて。

(雨は好きじゃねぇ、けど、今は)

無意識に力のこもった手。

(今は、このままずっと、やまなきゃいいのに)

そうしたら離れずに済む。
ずっと、このまま。

(居られるワケじゃねぇって、分かってても)

身体を離して小十郎を見上げたらいつもと同じように淡く笑っていた。
どうせ小十郎には全てお見通しなのだ。
伏し目がちに苦笑すれば、
「腕が利かない分、政宗様に色々やっていただかねばなりませんね」
想いを掬い上げるような言葉が降ってきて。
とりあえず侵入してきた男を縛り上げて、台所に向かう。
「そう言えばこの間の煮物はよくできておられましたね」
「あぁ、そうか?」
他愛のないことを話ながら冷えた屋敷内の空気が暖かくなっていく。
何とも心地よい時間。

願わくば、この時が少しでも長く続くように。

二人並んで、このまま。
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
33
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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