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君が、…君が、

好きだよ。

「この馬鹿者っ!!」

佐助は過去に幸村を庇って大怪我を負い、こっ酷く怒られたことがある。

「だからね、旦那、忍は主を守ることがお仕事なんだって」

その為に命を落とすことは仕方の無いことで、
役目を全うした人間に怒るというのは筋違いな気がする。
だが、何年経っても幸村はそれを理解しない。
自分の怪我は棚に上げて、佐助の怪我を傷を思う。
だから佐助はいつしか理解してもらうことを諦めた。
ただし、なるべく傷つかないように、
死なないように幸村を守ろう、と自分より幼い主に譲歩して。

『さすけー』

佐助の後を追ってきた幼い主は、いつしか大人になって
(中身に関してはあまり変わっていないのだが)
何でもかんでも佐助を呼ばなくなった。
その背中を追ってくることもなくなった。
保護者として兄として幸村を見守っていた佐助は
それに少なからず寂しさを感じ、 また同時に自分の中で目を伏せていた感情を自覚する。

「…旦那、好きだよ」

いい加減目を背けてもいられなくなった感情を口に出せば、
幸村は屈託の無い笑みを佐助に向けて、

「俺も好きだ」

と答える。
その度に佐助は妙に自分の心がざわつくのを知っている。
幼い頃から幸村を見ているのだ、 どんな性格なのかは他より理解していると思う。
だからこそ幸村が自分の向ける言葉の意味に気付いていないことは良く分かっていた。

「…お前のその明らさまな態度に気付かないとはな…」

傍から見れば分かりやすい態度だそうだが(佐助本人もそうだと思っている)、
幸村当人が気付かなければ意味はなく。
佐助はそれが容易いことではないと知っていたから、諦めた。

「待つのは嫌いじゃないからね、傍に居て守って、俺も死なないで、気付いてくれるのを待ってるよ」

(…望み薄かもしれないけどね)

日々鍛練に勤しむ幸村の背に、佐助はそう呟いた。
それが良くなかった。
そう気付く時は案外早く来た。

ゆっくりと重い瞼を持ち上げ、佐助は屋敷に居ることを認識した。
咽返るような血の匂いも、そこら中に倒れる屍もない。
ただ、あるのは。

「さ、す…け?」

幸村にとって佐助が居ることは当然でそれが日常で、
その普通がいかに脆いのか気付いていない。

(俺が居なくなったら…どうなるんだろ)

戦場に居れば不思議と何度もそんなことを佐助は考えた。
でも幸村を困らせることはしたくなくて、 試してみようとは思わなかった。

(でも…結果的に、これは…そうなっちまったの、かな)

今にも泣きそうな表情で自分を見下ろす幸村に。

(…なんつー情けない表情してるんだよ、旦那)

佐助は麻痺したままの手を伸ばす。

「…勘弁、してくれよ…旦那」

軽く頬を撫でたら、涙が大粒の雨のように落ちて。

「…冷たくて、…かなわない、って…」

無理に笑おうとすると身体が軋んで、佐助は巧く笑えなかった。
きゅっと引き結んだ口。
佐助は幸村に怒られるのかと、怒鳴られるのかと思った。
戦場で我慢した分も含めて。
でも幸村は言葉を選ぶように、 口を開いたかと思えば噛み締めたりを繰り返す。


「旦、「―――…生きた、心地が…しなかった」


そう、堪えたような幸村の声。

(失うなんて…考えたことは一度も無かった、)

幸村は自分の手を白くなるまで握りしめる。

(いつも傍に居て、呼んでくれることが当然だと)

幸村にとっては考えるまでもなく、それが当たり前すぎて。

「…すまない、佐助」

佐助はその時漸く幸村とちゃんと向き合った気がした。


「…旦那、俺、旦那のこと、好きだよ」


幸村が戸惑ったように口を開く前に、 幸村の頭を引き寄せて触れるだけのキス。
それに気付いて幸村が絶叫するのは、それから数秒後。
茹蛸以上に顔から耳まで真っ赤にする幸村に、 佐助は前途多難だと小さく嘆息した。












君が、君が。おしまい。
ようやくスタートラインについたかな、と。
現在進行形で忙しいコケシさんに、救いのある忍と紅を捧ぐ。

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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