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未完成交響曲01

廻る…それは、過去の魂と記憶を持つこと。

廻った順に
刑部・佐助→慶次→元親→家康→政宗→幸村→元就→三成→小十郎

BASARA転生話・1話は家康のターン。


※小政、佐幸、親就、家三を意識しているのでご注意を。続きは折りたたみ↓↓

拍手[1回]





日本有数の大規模な学園法人。この管轄下にある専門学校は世界的に有名な芸術家を輩出することで広く知られている。元々仏像、塑像などを見ることが好きだったことから本格的に学びたくこの専門学校に進んだ。家族から離れることにはなってしまったが、後悔はしていない。得られるものを自己で生かせるように精進すること、取り柄のない自分の唯一の自慢はこの前向きさだと思う。それに今は、とても気になる存在が居る。専攻は絵画で自分とは違うが、以前に彼の絵を見て感銘を受けてから仲良くなりたくて近付いて、最近ようやく普通に話をしてくれるようになった。
「―――話を聞いていたのか」
「え?」
「貴様、何が私が不快になるようなことを考えていたのではあるまいな?」
勘が鋭いのは時として困る。自己申告だが、隠し事や誤魔化しは上手くない。
「いや、そんなことはない…そのまま作業を続けてくれ、三成」
なかなか懐かない猫を手なづけて行くようで、楽しい思いをしている。

それは流れ星が降り注ぐような、視界がキラキラとスパークする感覚と似ている。
ずっと昔の自分を思い出し、その時代の変わりようにしばし呆然とするも、身体はつい一秒前までこの生活に慣れていて。それは何とも奇妙なものだった。カーテンを開けて外を見ると、涙が出た。かつて自分が目指したのは東照、それはこの夜明け。そして涙の理由はきっと、この世界にまだ一人だと思ったからだ。彼の魂は、此処には居ないのだろうか。そのことばかりが頭を巡っていた。
 
いつものように学校へ行く。欠かさず続けている朝のロードワーク を今日も繰り返す。その時。
 
『とくがわいえやす』
 
ふと、そう名前を呼ばれた気がして足を止める。振り返ろうとしたら、誰かとぶつかって。
「あ…すまない、」
差し出した手を取った相手に。
「―――お前なら、止まったワシを避けることなど簡単だろうに」
そう笑えば、
「またまた、俺様のこと過大評価しすぎだよ」
そう悪びれない返事があって。
「そうか…お前も此処に居たのだな、猿飛佐助」
「あぁ、アンタよりずっと前からね」
この再会に、今日の授業を諦めた。あの真面目な三成のことだから今日のことを明日にでも怒られるかもしれないが。
「今回は思ったより早かったな、気づくまで一週間もかからなかった」
近くのカフェで腰を落ち着けると、佐助はそういった。
「そんなに長く待っていたのか!?」
驚いたところで頼んでいたコーヒーが置かれた。
「今アンタに起こってるのを、“魂と記憶の廻り”と言ってる。そしてそれは、同じく廻った人間と共鳴する」
コーヒーを手に取り佐助は続ける。
「…なるほど、ワシが廻ったことでお前に気が付いた、ということなのだな」
「ま、そゆこと」
佐助がチラチラと時計を気にしている。
「何か用事でも…」
「本当、何の縁かね?」
苦笑する佐助に問おうとしたら、後ろから明るい声がした。
「おう、待たせたな」
腰のエプロンを外して手に、左目に眼帯をしている男。振り返って目を見開く。まさか。
「…元、親…?」
すると目があって、伸びた手がくしゃりと粗く頭を撫でる。
「家康じゃねぇか!」
「ハイハイ、再会に喜ぶのはいいけど、とりあえず座りなって。でかい男が通路ふさぐだろ」
元親はわりぃわりぃと笑いながら隣に座った。
「聞いてた話じゃ。まだ気づいてねぇと思ったが…」
「今日も今日、少し前にね」
佐助は抜かりなく元親のアイスコーヒーを頼んだ。
「もしかしたら、お前が呼んでくれたのかもしれないな」
この世界に一人だと思っていた。だがこうして話ができる人がいる。過日の魂と記憶を共有する仲間が、絆が生きている。
「佐助、他に此処にはどれくらい居るんだ?」
「こっちで把握してるのは、俺らも含め5人だな」
佐助が指折り数える。
「5人?ワシら以外に…」
「この間、前田の風来坊が取材用の写真撮りに来たぜ」
「あとはアンタもよく知ってる刑部さん」
元親のアイスコーヒーがきて追加でクラブハウスサンドも頼んでいた。
「誰が何の理由でこんなことをしてるのか。そもそも意味があるのかさえ分からないんだけどね」
「佐助、お前は随分と事情を知っているようだな」
その声に佐助はコーヒーカップを手で弄ぶ。
「それは俺も気になってた」
元親とこちらに目配せして、佐助はゆっくりと口を開く。
「俺様はね、気が付くと“此処”に居た。目が覚めるとか、そんなんじゃなく。どうやら刑部も同じだったみたいで、そこで初めて俺と刑部が特別だったって気付いたわけ。更に言うなら、刑部は次に目覚めるのが誰か、先見の目がある。隠居してるもんだから、その分俺様が動いてるってわけ」
「じゃ、お前も術とか使えるんじゃねぇのか?」
「まさか。試したことはないけどね」
やってきたクラブハウスサンドを元親は頬張っている。
「で、そっちはどうなの?」
「あー、元就に変化はねぇな、神酒を持ってってはいるがまるで変わった様子はねぇ。あ、アイツの態度は昔っから変わらねぇけどな」
苦笑しながらも、元親の声音に落ち込んだような感情の変化はなかった。
「元親は今何をやっているんだ?」
「酒屋の三代目だよ、あの鬼島津のな」
その名前にさえ、懐かしさを憶える。こんな感傷も廻ったゆえだろうが。
「随分と天気が荒れて、海も大しけの日に俺ァ目覚めたんだ。根っからの海の男気質ってとこか」
佐助の話によれば廻る者は過去との因縁がある。自分が夜明けとともに廻ったことを考えると、元親のそれは何とも納得できる。
「家康はアイツと一緒じゃねぇのかい?」
元親が指すのは三成のことだろう。
「三成とは同じ専門学校に通っている専攻は違うが、ようやく仲良くなれたところだ」
そして、ふと思う。
「三成も…いずれ思い出してしまうのだろうな」
喜びの記憶もあるだろうが、それ以上に辛い記憶も多いだろう。その原因は自分自身なのだ。今も感じるところはあるが、三成は刹那を生きていた男だ。故に強くも儚い。
「―――アンタはどう思うんだ?」
佐助の問い。このままがいいのか、思い出して欲しいのか。
「…ワシ、は」
「おいおい、そりゃあ思い出してすぐに考えさせることでもねぇだろ」
元親の声に佐助も申し訳なさそうにくしゃくしゃと頭を掻いた。
「ま、そりゃそうだ」
悪かったな、と言われて曖昧に笑みを返す。

(三成とワシは、敵同士、だ)

三成が廻った時、果たして自分はそれを喜ぶことができるのか。
 
昨日と変わらず、朝のロードワークをこなして学校に行く。そして、そこに見慣れた背中を見つけて。
「おはよう、三な」
手にした絵画用の筆をピッと突きつけられた。
「貴様、無断欠席とはいい度胸だな」
案の定怒られた。
「すまない、連絡を入れればよかったな…」
「連絡が欲しいなどとは言っていない」
ようやく三成が筆を引いて、歩き出す。その背中を慌てて追う。

(昔もこうして三成の背中を追っていたことがあったな…)

かつて豊臣は以下だった時の、自分にとっては耐え忍ぶことも多かったが一番穏やかだったのもまた事実だ。この三成は、その時分の事をもちろん知らないのだろうが。
「少し…考えたいことがあったのだ」
自分の身に起こったことより、三成のことで悩んでいたとは何とも可笑しな話だが。
「―――悩むようなことがあるならば言え、見るからに落胆されたのでは、こちらの気が散る」
歩調を緩めることなく三成は続ける。その背中に思わず笑ってしまう。

(これだから、お前には敵わない…)

だから、迷う。
遅かれ早かれ三成は思い出すのかもしれない。それを自分がどうこうできるはずもないのだが思い出せば、嬉しい、と思う。きっと自分は“再会”を喜べる。だが自分と三成との間には、後に退けない、消すこともなかったことにもできない、隔たりがあって。だから三成が廻ったその時、今の関係がどうなってしまうのかと恐れているのだ。今はかつての時代とはまるで変ってしまった。魂と記憶が廻ったとはいえ、自分たちはあの時代を生きた当人でもなければ、かつての関係もしがらみも何もない。

(それでも…過日に起きたことも、感じた想いも、すべて現実だ)

「三成、絵を見に行っても構わないか?もうじき完成だろう」
「勝手にしろ…それより、貴様に必要なのは自分の作品の心配だろう」
「返す言葉もない、な」
三成の言葉は優しくも手厚くもないが、そこに含まれている感情は優しい。そんなところは昔の三成と何ら変わらない。長い年月をかけて人も、歴史も変わってきたというのに。
人がまばらの美術室の隅の定位置。カンバスに掛けられた布を取ると、そこには完成間近の絵。思わず感嘆の息がもれた。三成を知ったのも、三成の描いた絵画がを見たのがきっかけだった。自分は三成の描く絵に惚れ込んでいて、そしておそらくは三成自身にも。
「…三成?」
いつも見られていてもまるで気にしない三成の筆が、今日は重い。
「…貴様は、これを見て何を想う?」
「“何”を?」
三成は一度筆を持つ手を降ろした。
「…描いていても、何かが足りない。まるで大切な何かが欠落しているような。だが欠落しているものが何なのか、それで満たされるのかも分からない」
これは三成の作品を一番見ている自分だからこそ、向けられた問いだ。
重ねるな。
勘違いをするな。
「…それは、」
そう思わなければ、そう自分を戒めなければ、言いそうになる。自分に起こったことを。求めそうになる。自分と同じように…。
喉まで出かかった言葉を嚥下する。随分と長い時間、こうして立っていたような錯覚さえ。
「…三成自身で見つけなければならないことだろう…な。仮にワシが分かっていたとしても、お前自身で気付かなければ意味がない」
「―――貴様に問うとは、私もどうかしていた」
三成の言葉に、また苦笑ひとつ。
「だが、」
三成が振り返る。真っ直ぐな眼差しで。
「…それも、全く無駄というわけではなかった」
その言葉は、“ありがとう”の代わりなのだろうと思う。
「そうか…それならば良かった」
そしてもう一度三成の絵を見、名残惜しくはあったが三成の元を後にした。このもやもやは消えないが、はっきりしている自分の作品締切の方が今は優先事項である。
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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