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未完成交響曲04

廻る・・・それは、過去の魂と記憶を持つこと。

廻った順に
刑部・佐助→慶次→元親→家康→政宗→幸村→元就→三成→小十郎

BASARA転生話・4話は刑部さんのターン。


※小政、佐幸、親就、家三を意識しているのでご注意を。続きは折りたたみ↓↓

拍手[1回]





巡る廻る、眠り逝くはずの魂は、緩やかに目を醒ます。思い出すのはただの過去か、憎しみの記憶か、人の繋がりの系譜か、疼く致命傷か。
巡る廻る、盤上の珠は、静かに未来を語る。だがまだ、自分の望む魂は目を醒ます気配がない。その理由はなんなのか。

「目を醒ますことを拒んでいるのか…?」
過日、あの男は二度死んだ。
その孤独な魂は、二度とその悲劇を繰り返さぬよう、頑なに廻るのを拒んでいるのかもしれない。
「―――否、あの男はそんなに脆くはない」
その一瞬一瞬がすべてであるかのような刹那のような生き様はなんと美しかったことか。

まだ東照もあの男も廻る前のこと。街で一度すれ違ったことがある。爛れた肌を覆う包帯だらけの自分を気に留めることもなく、歩き去って行った。昔もそうだった。あの男は自分がどんな姿であろうと気にしない。他と違うような態度も取らない。差別をしない。自分はそんなあの男を何とも変わった男だと思いながらも、居心地は悪くなかった。否。不幸が平等に降り注いでも、あの男のためなら自分を犠牲にしても構わないと思えるくらいには好いていたのだ。けれど、昔と同じ。廻ってもいないのに、あの男の傍らには東照が居る。月光の心地よい自分には、東照の光は眩しすぎる。
「世界を照らす夜明け。明けの陽光…」
盤上の珠が先に東照の目覚めを示した時、甲斐武田の影は笑った。

『残念だったね、愛しの凶王じゃなくてさ』

と。

あの男もいずれは目を醒ます。それがいつなのか自分の力はまだ教えてはくれないが。だが、その時に気付いてしまった。月と対を成す太陽。陽光が示す夜明けは、魂と記憶の廻り、即ち目醒めを意味する。自分は識ることはできるが、目醒めさせるに至らない。及ばない。良しかれ悪しかれあの男を呼ぶのは、明けの陽光なのだと。
そして。
「やれ、何とも不思議な月よ」
盤上が翳って、すっと目を細める。すると盤上を巡る珠の一つにヒビが入っていた。
「雨上りの夜明け…東に幽けし明け方の月。不自然に欠けた月の示すものは…」
不完全な廻り。欠落した記憶。ぽっかりと穴の開いた月は、一番強く想う者が欠け、それにまつわる最も大事な記憶を落としていた。
自分はその絆とやらを詳しくは知らないが、東照とあの男が相対するものなら、奴らは互いを補うものといったところか。武田の影ですら分かるように表情を変えたとなれば、それはある種の不幸とでも言うべきだろう。珠が割れずにあるのは、幸いにも魂に記憶は確かに刻まれ失われてはいないからだ。今は、失われかけている、と言うのが正しい…不吉な暗示だ。だが、それを当人が知る由もない…そう思っていたから、その訪問には正直驚いた。
「関ヶ原西軍の参謀、そして凶王石田と共に在った男…成程、てめぇが先見をしてるってのには納得した」
「ならば立ち去れ。ぬしに話すことなど我にはない」
「いや、話してもらうぜ。俺の身に何が起こっているのか…周りは言葉を濁して確かなことは口にしねぇ。だが俺が違うことは俺自身も解る。その何かを、てめぇも知ってるはずだ」
詰め寄っては来ない。暴力に訴えることもしない。声は静かに諭すだけ。
「毛利といい、武田の影といい、何故皆我に聞きやるのか…可笑しなものよ」
嗤う。
「我が望んでいるのはただ一人。あの男の幸せよ」
「…でめぇは昔…あの時も同じことを思っていたのか?」
それは意図の読めない質問だった。
「さぁて、…我の願いはすべての人間に等しく不幸が降り注ぐこと」
この身体を、怨み憎み絶望した。何故自分だけがこうなのかと。
「…だが人の心は変わりやすいもの、ぬしはどうだ?」
揺るぎなく絶対なものを欠いているこの目の前の男は、この問いに何と答えるだろうか。

「―――こうと決めたものは変わらねぇ。曲げねぇ。誰に何と言われようと、だ」

何とも皮肉なことだ、と妙に冷静に思った。
「ぬしがそう思うならば、きっと、我は過日も同じことを思っていたのだろう」
また嗤う。そしてヒビの入った珠を手に取り、男の手に落とす。
「…これは?」
「ぬしが欠落していると我に教えたものだ」
再び背を向け椅子に深く沈むと、しばし沈黙の後遠ざかっていく足音。そして眠りにつくように目を閉じた。


「…ぶ、…刑部、どうした?」
筆を止めて振り返る顔に、何でもないと答える。此処は静かでいい、安らかな気持ちになると度々絵を描きに来ていた。筆の走る音が耳に心地いい。
「…茶でも淹れるか」
「貴様はそのまま座っていろ、必要ならば私がやる」
特別言葉を交わすわけでもないが、こうして流れる穏やかな時間はあの時代では得られなかったものだ。
「年寄り扱いか」
そう笑えば、筆を振りながら否と答える。実直さは変わらない。感情の振り幅は少し大きくなったか。
「違う!貴様はそのまま居ればいい、私のためなどと動く必要はないと言っている」
「あい解った」
再びカンバスに向かう背を見つめ、思う。この男の変化は傍らの東照の影響なのだろう。廻っても因果・因縁を繰り返すだけだ。自分が見ているのはいつもこの男の背中。他と隔てなくまるで自分を守るように立ち、前だけを見ている。
「―――…貴様の言う通りだな、休憩を入れる。キッチンを借りるぞ」

そう言って出ていく。昔は茶のひとつも淹れなかった男の言葉に、忍び笑いがもれた。
二人でコーヒーを飲んでいると、少しの躊躇いの後口を開いてきた。
「…ずっと聞きたいと思っていた。貴様は廻って何を思った?」
筆の進みが芳しくなかったのは、これを尋ねるきっかけを探していたからか。
「何も思わなんだ。我は気が付くと“此処”に居た、ただそれだけのこと」
ただ想っていたのは、この男のことだけだった。そして、かつてなら自分の言うことを疑う余地もないと吐き捨てた男が、その言葉の意味と自身の思いの間で考えている。
「ぬしは何を感じた?」
「私は…ずっと何か欠けた思いがしていた。だからそれが何だったのか思い出せた時は歓喜にうち震えた。私の誉れ、秀吉様と半兵衛様と歩んだ理想…それは何にも代えがたいものだ。そして、それを穢した家康は憎き仇敵」
「それを解っていながら何を悩む」
「だが、かつてあの男は敵である貴様を生かした。そして私が廻るまであの男の態度は変わらなかった…否、変わらないのは今もか。それが私には解せないのだ」
カップを握る手に力が籠ったのが分かる。
凍てついたものを溶かす、東照の名を持つ徳川を憎む。その冷たさをものともせず傍に居続けた自分と、その凍てついた心を解いた東照。復讐という理由があったとはいえ、いつだってこの男が見ていた先には東照が居た。いつだって、東照とこの男の不公平が許しがたかった。自分に降り注いだ不幸以上に。だが、今の自分にはこの男を何とかしてやれるかつてのような力はない。
「今の我にできることは、精々識ることくらいよ…」
盤上の珠を握る。
「三成よ、過日の魂と記憶はぬしにとって大事なものであろう。無念も憎悪も、確かに実在した本物。…だが時代は変わった。人の心も変わる」
この男は不幸を背負い過ぎた。自分に降る不幸すらも引き受けたのではないかと思える程に、不器用で、優しすぎる。
「どんなに思いが強かろうとも、過日のぬしは今のぬしではない」
ならば、自らが秘めた憎しみの分、この哀れな男の幸せを望むのも悪くない。かつての器亡き今、過去の呪縛から解放されても良いはずだ。
「…ぬしが記憶に縛られる故は、ひとつもありはせぬ」
次に叶えるのは憎しみの怨嗟ではなく、幸せであるように。
「…そうか、貴様の言葉ならば疑う余地もない」
少しだけ荷が下りたような表情に変わる。そして労わるように伸ばされた手は、優しく頬を撫でる。
「貴様が廻ったことをどう思っていようと、私は貴様が此処に居ることに感謝している。私にとっては最後の、そして大切な絆だったのだからな」

「三成……やはりぬしは、大層阿呆な男よ」
「違いない」
去り際に渡された一枚の紙には、学校の展示会の内容が書いてあった。何も言わずに渡したその手が、来てほしいと言っているような気がして。
「必ず、見に行こう」
その背中に小さく呟いた。
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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