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未完成交響曲08

廻る…それは、過去の魂と記憶を持つこと。

廻った順に
刑部・佐助→慶次→元親→家康→政宗→幸村→元就→三成→小十郎

BASARA転生話・8話はアニキのターン。


※小政、佐幸、親就、家三を意識しているのでご注意を。続きは折りたたみ↓↓

拍手[1回]





寂れた庵に迷いなく歩いていくその背中を見送る。元就が車を降りたのを追うように慌てて自分も降りたものの、結局追いかける勇気はなかった。いや、勇気と言うには語弊がある。それは、そこには自分の入る隙なんてほんの少しもなくて、だから自分の存在の意味なんてないに等しくて。難しいことはまったく分からないが、多分それは自己満足なだけなんだと思ったから。その背中が完全に見えなくなったところで、車に戻る。暦上はもう秋で、特に夏に強い自分は少し寒さが苦手だ。
「あれ?一緒に行かなかったんだ」
少し意外そうに佐助は言う。
「昔と違って武器持ってるわけでもねぇし、大丈夫だろ」
その答えはどうやら佐助の意図とは噛み合っていなかったらしい。
「いや、毛利の方ではなく、アンタの気持ち的にさ」
「嫌なところを見抜いてきやがる、本当に忍ってのは相性が悪いな」
呆れたように言えば、佐助は頬杖をついたまま“褒め言葉どうも”と笑った。
「ま、別に隠すこたぁ何もねぇけどな」
自己満足で踏み込み過ぎるのは気が引けた。
「ふぅん、アンタの背中は随分ともどかしそうだったけど?」
運転席に沈んで、低い天井を見上げる。思い出すのは元就が廻った瞬間。そして。

『…そのように我を呼ぶな、長曾我部よ』

あの、第一声。
あの時の言葉に乗ってしまった無意識の落胆には、元就は気付いていなかったようだが。でもその落胆は廻ったことに対するものではない。
「俺ァ、あいつの記憶が廻ろうが廻るまいが大した問題じゃねぇんだ」
そう、そんなこと、は気にしていない。
「確かに昔の俺が何をしてたのか、どんな男だったのか、それを教えてくれたことには感謝してる。けどなァ、俺にとっちゃあそれは“あったこと”だからな。知って変わることなんざ、ほとんどねぇしな」
その記憶にどんな辛いことが含まれていても、屈辱的なことがあっても、それは自分であって自分ではない。
「今じゃ時代が変わりすぎてる。昔の怒りや屈辱は、俺が受けたもんじゃねぇだろ」
自分は今こうして酒屋の三代目をしている長曾我部元親だ。
「けど、毛利もそうだってわけじゃないだろ?」
「そうだろうなァ。あいつにとっちゃあ、今も昔も現実は現実だ。それはあいつの痛みで、屈辱で。自分が経験したことじゃねぇってのにな。頭がいいってのも考えもんか」
笑ったが、佐助は笑わない。
「俺ァ馬鹿だからな、難しいことなんざちっとも分からねぇ。あいつが廻ったことで悩んだり抱えたりすることも、多分本当の意味で理解できねぇだろうしな」
「アンタはどうしたいんだ?」
そう言われて、ようやくはっきりと答えが見えた気がした。そういう意味では頭を整理させてくれた佐助にお礼を言うべきかもしれないが、まずは答え。
「俺は、ただ名前を呼んで欲しいだけなんだ」
幼馴染みを呆れたように呼ぶ、あの声で。今まで築いてきた関係が、廻ったことで消えてしまわないように。
「…それがアンタの答えか。けなげ…いや、不憫だねぇ」
呆れた佐助の声。
「そういうアンタこそ、廻ってない真田を突き放す選択肢もあったんじゃねぇのか?アンタはもう忍じゃねぇんだしな」
バックミラー越しに佐助と目が合う。
「つまりは、アンタもそういうことなんだろうよ」
佐助は面倒そうに目を眇めて。
「おっと、これ以上は野暮だな。それに本当ならこういうのはあの風来坊の専売だしな、他人の真似なんて無粋だろ」
「ホント、野生の勘て厄介だな」
佐助はため息一つ。そしてついと指さす。
「どうやら意味のない話は済んだみたいだぜ?」
佐助の声に元就の姿を見つけて車を出る。
「元就っ…」
その声はあっさりスルーされる。
「話は済んだか?」
「気は済まないがな」
返ってきた即答。足を止めずに歩いていく元就の背中に。
「―――…元就、」
ようやく元就が振り返る。その目をしっかりと見て。
「お前は、俺の名前…呼んでくれねぇのか?」
元就は答えなかった。たったそれだけの変化が、こんなにも距離を作ってしまったというのに。
「記憶ってのは厄介だな、それは、俺たち自身じゃねぇのにな」
自分よりもずっと頭のいい元就がそれに気付いていないとは思わない。けれど自分にとっての“昔”と、元就にとっての“昔”は、同じ時間でありながらも置いている位置が違う。くしゃりと頭を掻いて再び車に戻る。このままでは余計なことまで言ってしまいそうだ。
「―――時が来れば、貴様をそう呼ぶこともあるやもしれぬ」
足が止まる。そんなことを言われたら単純な自分は期待してしまうのに。
「今のところその予定は万に一つもあり得ぬがな」
結局先に車に辿り着いたのは元就だった。慌てて追いかけ車に乗ると、隣で元就が小さく欠伸をした。しばらく走っていると、フロントガラスに水の跡。
「…雨が降ってきやがった」
曇天は雨粒を落とし始め、黒い雲が勢いを増してくる。変わりやすい秋の空。季節外れの嵐の予感がした。

その日は懐かしい荒っぽい風の吹く日だった。配達の帰り、港で車を止めた。車にぶつかる強い風。目に映る海は荒れ狂う大時化。携帯電話を助手席に放って車を降りると、強い潮の香りがした。

『俺ァ西海の鬼、長曾我部元親ってんだ』

視線の先に広がる海に重なる光景。

『アニキーっ!!』

自分を慕う馬鹿だが憎めない野郎ども。

『行くぜ野郎どもっ!!』

あるはずのない、粋な船がそこにあって。目を伏せ荒れる並の音に耳を傾ける。

(あぁそうか…昔の俺ァ、なんていい表情してやがったんだ)

何にも縛られず、己の思うがままに。そして、鼓動に合わせて胸を軽く叩く。
「…よく戻ってきたな、昔の俺よォ」
その潮風は何とも心地良いものだった。

元就と佐助を送り、あの日の海を思い出して港に出た。するとそこに見つけた後ろ姿はなんとも懐かしいもので。
「よォ、海が恋しくなったのか?独眼竜」
「だとしても、テメェの船に乗るつもりはねーぜ?西海の鬼」
挨拶代りの軽口を叩きあって。鏡合わせの隻眼で笑う。
「忍の兄さんに聞いてはいたが、ホント変わらねぇもんだな」
その言葉そっくり返す、と政宗は笑っただけだった。
「で、毛利が廻ったって聞いたぜ」
先刻のやり取りを思い出す。
「まぁ、昔と大して変わりゃあしねぇさ」
幼い頃からずっと、自分の名を呼んでくれた線の細い綺麗な幼馴染み。その憎まれ口も、今は嫌いではない。それもまた争う必要のない今生だからこそ思うのかもしれないが。
「ha、確かに優しくて気立ての良い毛利なんざ想像もつかねーしな」
「…まぁ、まったく一緒ってわけでもねぇんだがな」
政宗は不思議そうに見上げてくる。

『―――時が来れば、貴様をそう呼ぶこともあるやもしれぬ』

そんな一言にほだされてしまうとは、本当に単純だ。
「どちらにしても、俺はあいつがあいつであればそれでいい」
政宗の目がすっと眇められて。
「テメェは本当に不憫だな」
まったくどうして佐助と同じ反応をする。その事実を伝えたら意趣返しができるだろうか。
「そういう右目の兄さんはどうしたよ」
すると痛いところを突かれたとばかりに一瞬政宗は表情を変える。
「あの兄さんなら、何をおいても先にお前に頭を垂れそうだけどな」
笑ったが、政宗は笑わなかった。
「…待つのは、慣れてるしな」
その頭を荒っぽく撫でて。
「淋しかったら俺んとこにでも来な、酒くらい奢ってやる」
政宗はその手を軽く払って。
「淋しくねーけど、行ってやるよ」
その時には一番うまい酒出せよ、と不敵な表情で生意気な口を叩く。
「またな、西海の鬼」
「またな、独眼竜」
鏡合わせの隻眼に、笑ってそう応えた。
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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