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未完成交響曲09

廻る…それは、過去の魂と記憶を持つこと。

廻った順に
刑部・佐助→慶次→元親→家康→政宗→幸村→元就→三成→小十郎

BASARA転生話・9話は佐助のターン。


※小政、佐幸、親就、家三を意識しているのでご注意を。続きは折りたたみ↓↓

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目を開けても見えるのは闇。自分がどこに立っているのか、立っているのかさえ疑わしい。気が付くと“此処”に居て、これは夢か何かだろうとも思ったが、昔の自分はこうして今生に立っていて、どうやらフリーライターという何とも都合のいい職に就いているようだ。家に帰れば昔と同じく幸村が居る。でも幸村はまだ知らない。遥か昔のことを、戦国で生きていた時のことなんて。

(知らなくたって、別に困りゃしないしね)

梅雨が明け初夏と言うにはやけに暑く、妙に天気の変わりやすい時期だ。ゲリラ豪雨から逃れるように飛び込んだ本屋で見かけたのは、本をカバンに入れようとしている少年。

(万引き、ねぇ)

昔から職業柄利きすぎる程利く目でその動向を見ていると、その視線上に現れたスーツの男。

(…嘘、だろ?)

左頬に傷のある強面にはよく見覚えがあって。
「…おい、それは置いて行け」
低いトーンの声とその容姿に少年は本を捨て逃げて行った。何事かと近づいてきた店員を冷静に躱す姿はなんとも見事なものだった。

(問題児抱えてると、こういうところが強かになるのかね)

そんなことを考えていたら、目が合って近づいてきた。

(バレた?…いや、まだ右目の旦那は廻っていないはず)

目の前で立ち止まった男は。
「今の、見てたな」
それは確認だった。
「…あぁ、まぁそうだな」
「他に言うなよ」
続いた言葉が意外すぎて、一瞬反応が遅れた。
「っ…まさか、だって何も起こってないだろ」
万引きは未遂。その事実は恐らく二人しか知らない。その答えに男は笑って。
「は、違いねぇ」
そう言って店を出ていく。

(あの襟元の社章…どっかで見たような…)

雨は既に止んでいた。
それから二ヶ月も経たない間に幸村が廻った。
「佐助!」
その愛しい声が自分の名を呼ぶことが嬉しくて。
「旦那…旦那、」
我ながら情けないくらい喜んでしまって。ずっと、待っていたのだ。そう思わないように、気にしないように、そんな甘い自分をないもののように切り離して。けれど、目の前にしては駄目だ。離したくない。二度と失いたくない。
「佐助は廻ったことを後悔しているのか?」
「え?」
その言葉に不覚にも動揺してしまった。後悔などしていない。そんなことを考えもしなかった。けれど。

(後悔するなら…)

ただ一つ、願っていたこと。自分の存在に気付いてほしいと思いながら、それでも幸村には廻ってほしくなかった。

(だって旦那は大切なものを失ったじゃないか)

それは幸村を成長させるのに必要な犠牲だったとしても。

(俺様はあんな旦那を見たくなかった…)

今の幸村とは孤児院で出会った。幼い頃に両親を亡くしてしまったが、それでもずっと笑いの絶えない暮らしをしてきた。大学でできた友人だと政宗を連れてきた時には驚いたが、それでも幸せな日々だったはずだ。それなら昔のことなんて思い出さなくていいじゃないか。辛いこともたくさんあった日々なんて。たとえ自分との立場が距離が、過日のそれと違っていても。
「某は今日より明日が楽しみなのだ。廻る前にはなかった人との繋がりが作る時間は、きっと充実した時間になるはずだ」
色んな人と出会って時を重ねて、そうして変わっていく幸村を歯がゆく思ってしまうのは自分の過保護か、それとも。
「無論、隣には佐助、お前がいることが前提だ」
思わずフリーズ。こういうことを笑って言うから侮れない。
「旦那?」
「もう寝るっ…おやすみ」
そう逃げるように部屋に戻る背中を見送って。

(あぁ、本当に旦那は…)

それからは昔の話をしながら日々を過ごし、ただひとつ抜け落ちている空席に目を凝らす。そして―――。年の明けた頃、異変は既に起きていて。
「…やれ、何とも不思議な月よ」
今までと同じように盤上を巡る珠の動きが鈍る。盤上が翳って、刑部がすっと目を細めたのが分かった。すると一つの珠がピシリと音をたててひび割れる。それが何か不吉な意味を持つことくらい分かる。
「雨上りの夜明け…東に幽けし明け方の月。不自然に欠けた月の示すものは…」
刑部の言葉を待つ。
「不完全な廻り…或いは欠落」
その言葉に思わず表情を変える。何が欠落しているのか。想いか、記憶か。
「かの月は、独眼竜の右目か」
「…半身だよ、それほどに、重い」
自然と声が低くなる。政宗は嫌いだが、二人の絆は嫌っていうほどに知っている。
「お告げは終わりか…?」
問うも、返事はなく。それを終わりと解釈してすぐに踵を返した。

「さて、廻った感想はどうだい?竜の右目」
小十郎は少しだけネクタイを緩めて、すっと目を細めた。
「一番最初に顔を付き合わせてるのがテメェだってのが腑に落ちねぇな」
そんな返事にただ笑って。
「で、これは一体何の取材なんだ?フリーライターさんよ」
決して表には見せることのない悪い顔でそう続ける。
「あれからすっかり忘れてたけど、その社章…あの万引き未遂の時に気付くべきだったな」
中小企業内新卒者対象アンケート上司にしたい人物三年連続一位を獲得しているこの男は、今まさに天を上る龍のごとく規模を拡大をしているとあるコンサル企業に在籍。面会の時間すらなかなか許されないほどアイドル並に多忙な人物だ。
「ようやくだ、アンタが廻るのを待ってたんだぜ?」
その言葉に小十郎は色々と察したところがあったようだ。相変わらず、敏い。
「そうか、…テメェは他に廻った連中をどれだけ知ってる」
「両手で足りるくらいさ、勿論アンタが命より大事にしてる独眼竜もね」
その名前に小十郎は反応しなかった。
「…右目の旦那、今の聞いてた?」
「あぁ、こんな近くで聞き逃すわけねぇだろ」
そしてその違和感は現実を伴って。
「小十郎っ!」
政宗の姿をその目に映して応えた言葉は。
「お前は…誰だ?」
その場にいた誰もが言葉を失って。
「…か、片倉殿それは…」
「右目の旦那、…それ、冗談だよね?」
冗談を言うようなキャラでもないけど、と続けても小十郎は表情を険しくするだけで。
「こんなところで冗談言ってどうする。…すまねぇな、坊主」
小十郎は政宗の頭を荒っぽく撫でる。繰り返すが独眼竜は嫌いだ、それでもほんの少し不憫に思えた。
小十郎が去った後、仕事の残っている元親が政宗を気にしながらも去り、それ以外は依然として動けずにいた。

(欠落ってのは…そういうことか)

刑部の言葉の意味をこんな形で実感することになるとは。
「…オイ猿、テメェは本当に何もできねーのか」
政宗の言葉が意図するものは、“特別”であることに対する問いだ。向けられた視線は穴が開きそうなくらいに鋭い。
「佐助、」
不安げな声を上げる幸村を制して。
「昔の俺様ならともかく、今の俺様には…精々その10分の1くらいのことしかできないだろうな。試したことはないけど」
刑部と同じなら何かをするための力くらいあるはず。否、あることは自覚している。
「で?できたらどうするってのさ。俺様の力で、右目の記憶の欠落を埋めろって?」
自然と声がきつくなることには目をつぶる。
「出来なくはないよ。けど、アンタは俺様の力で思い出した右目がアンタに頭を垂れることを良しとするか?これまでのことをすべて覚えているあの右目が」
だって苛立ちもするだろ。
「アンタが望んでいることは、右目の気持ちを無視して勝手に心の中を踏み荒らす行為だ」
「佐助!」
咎めるような幸村の声すら無視する。そうだ、いつだって自分はこういう役回りじゃないか。
「自分の右目に対して、随分と酷いことできるんだな、アンタは」
なんだか笑えてきた。幸村に廻ってほしくないと思った自分。思い出してほしくて“特別”に縋ろうとする政宗。いつだって考えることがまるで合わない。正反対だ。
「―――血迷ったことを言ったな、」
ゆっくりと政宗は立ち上がる。
「安心しなよ、俺様はアンタから何も聞いてない」
泣き顔にすら見える顔で政宗は笑ったが、笑い返せなかった。
「佐助…」
「―――…ホント、廻ることに何の意味があるんだろうな」
本人の意志に関係なく、残酷なほど身勝手に、魂に、記憶に刻みこむ。それで誰もが幸せになれるわけでもないのに。
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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