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理由も知らないで

雨が降る。

強い雨が大地にこの身体を縫い止めるように降り注ぐ。
雨は降り注ぐその訳も知らないで。
ただすべてを濡らして、冷たく包んでいくだけ。


「―――……」




またもや小十佐。※死ネタ注意
続きは折りたたみ↓↓

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暗く、二度と灯りの灯ることのない座敷。
閉ざされた襖に、かつての背筋の伸びた後ろ姿が浮かぶ。
自分は真田の忍なのに、こんなところで何をしているのだろうか。

肩書きや立場は仕事上よく知ってはいたが、男のことで知っているのは名前だけだった。
これと決めた主がある以上忍であり続けることは当然で、それ故に雨降りで色をなくした景色のように感情も無機質になってしまった。
だから、名前しか知らないその男をどれだけ傷つけたか知れない。

(そんな柔なタイプには到底見えなかったけど)

何を見ても色褪せた曇天のような景色を抜け出したくても答えは出なくて。
男はいつも色を隔てた所にいて。

(だから眩しくて、羨ましくて…)

好き、だった。
左腕をなぞる。
大して傷も残らない浅い傷に触れて。
カリ、と爪を立てる。
流れるのが血なのか涙なのか雨なのかも解らないまま。
強い雨に視界がぼやけて。

「―――…てめぇはいつまでそうしてる、」

竜の静かな声には何の感情も滲んでいない。
向けられた視線も、言葉も、優しくはないけれど責めることもなく咎めることもなく。
雨のように波一つ無い。


『佐助…っ!』


あの時気がつかなかった。
病み上がりなんて負傷してたからなんてそんなの理由になんてならない。
鋭い声に振り返ったら視界いっぱいに男の姿が映って、一瞬ふっと優しく笑うから。
頬に返り血が。

(アンタが射抜かれて散った血がつくまで)

気がつかなかった。
自分庇って毒矢に射抜かれただなんて。
毒よりも射抜かれた場所が悪かった。
何も出来ないまま、倒れる男に降り注ぐ雨。
急速に血も熱も失って、行き着く先は一つで。

「…ごめん……俺、は」

俯けば倒れた男の残像が。

「ごめん……ごめん…ごめ…」

菊のように白くなっていく顔が。

「だって…アンタ……死んで……ごめん」

何もできなかった。
ただの一つも。

「…俺…が、……殺した…」

この思いを伝えることすら。
竜は慰める言葉も傍に近づくこともせずに、同じ様に雨に打たれて。
冷たく濡れていく。

「―――…俺は赦さねぇ、約束を破って先に逝ったアイツを」

初めて竜の声に感情が滲んだ。
「てめぇも赦すな、お前を庇ったアイツを」
鋭く刺さるように強い視線。
顔を上げたら、既に竜は踵を返していて。
「さっさと戻んな、てめえがやるべきこたぁ此処で悲観することじゃねぇ」
今、此処に居ることを不問にされたのだ。
竜の姿が消えて、目の前の襖に手を伸ばす。
雨は。
かき乱す感情も知らぬまま、冷たく降り注いだ。





end.
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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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