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蒼穹の月

ゆっくりと足場を確かめるように進む木々の間。
それは羽織ったそれが傷つかないように。
全国を駆けていると、国境の"匂い"の変化が分かるようになる。
例えば木々の群生の違い。
例えば海に面しているか否か。
けれどこの北の地の"匂い"は何と言ったらいいものか。
どこか懐かしいような、優しい。

(生まれ故郷ってわけでもあるまいし)

だから何と言ったらいいのか、うまく当てはまる言葉が見つからないのだ。




漆羽の疵の続き。羽織を返しに忍がやってきました(爆)※小十佐注意
続きは折りたたみ↓↓

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独眼竜の治める地が見渡せるほど近くまでやってくると、少し耳を澄ませるだけで生活の音がする。
あの男は今頃若き主との稽古の最中か、或いは難しい顔で政務をこなしているところか。

『―――肝を冷やした』

風に煽られた羽織を手繰り寄せる。

(やだな…あの声が、離れない)

そして強く枝を蹴った。

実感したのは、思ったよりも声が低くて深いということ。
この羽織がどれだけの目隠しになっているかはさて置き、奥州の人間からの信頼の厚さ。
好かれていること。
そして。

(何より此処に、必要とされている)

何度か足を運んだ屋敷だ、男の座敷の場所は分かっている。
迷いなく足を運んで座敷を覗いてみたが、目当ての姿はなかった。
縁から庭に降りて立っていると、こちらに近づいてくる足音。
気配。

「―――文七が首を傾げてた理由は、やはりてめぇか」

これほどまでに堂々と屋敷に入られているのだ。
双竜がその存在に気づかないはずもない。
くるりと振り返る間に本来の姿に解く。
あの時奪うように連れ去った羽織を肩に羽織って、顔を狐面で隠して。
「右目の旦那に対する信頼の高さには驚いた。けど、それは俺様みたいのには危なっかしすぎる」
「そんな悪趣味な真似をするのはてめぇぐらいだ」
言葉の割に機嫌は悪くない。
この男の姿を借りたことについて怒ってはいないらしい。
男は抱えていた文書(或いは何らかの資料か)を文机に置いて、庭に降りてくる。
「…あの時のお礼、それから…羽織返しに、ね」
その言葉には反応せずに、すぐ目の前で立ち止まる。
「怪我は、」
「…まぁ、駆け回るのに支障がないくらいには」
それまでにこの羽織がなくて困ったりはしなかったろうか。
或いは主に咎められたりはしていなかったろうか。

(ホントは困ればいいのに…て、思ってる)

「…そうか、」
男が安堵に少し表情を綻ばせる。

(返さなきゃ――…でも返したくないなぁ…)

ふと羽織を手繰るように掴んで。
「…旦那、知ってる?俺様って、忍の中の忍だから、――打算的なんだよ」
ふわりと羽織が風に翻って音を立てる。
揺れるそれが飛ばされないように男は抱きしめるように肩に手を伸ばしてくる。

「そうかもしれねぇが、その台詞が今を指してるならそりゃあ間違いだな」

そして、抱きしめられた。
男の腕が羽織ごと抱きしめて。
けれど、傷を気にして労るようにその腕が優しいから。
「俺の意思の有無をお前が決めるな」
「…はは、優しすぎるよ」
抱きしめる腕に少し力が増して。
それは逃げようとする胸の内を見透かしたように。
「それがちゃんとお前に伝わってるならいい」
その声に期待して、男の背中に腕を回しそうになる。
「どうやら俺はそういうのが伝わりにくいらしいからな」
さしあたり主に何か言われたのかもしれない。
思わず笑ったら、面を取られた。
「…っ」
男は真剣な表情で見下ろしている。
そして何も言えないのをいいことに、男は口を開く。
「―――逃げるなら今の内だ」
「旦、…那」

「もう逃がしてやるつもりはない」

その腕が離してくれないくせに。
逃がすつもりなんて。

(もう、ないんじゃん)

恐る恐る宙を掻いていた手が男の背に触れる。
優しく髪を梳く男の無骨な指が、輪郭をなぞって。
翻る羽織。
風が流れる音。
触れた温もり。
「―――…狡いね、旦那は」
「狡くもなるだろ、相手が掴み所のない忍じゃあ、な」
そう至極真面目に言われたから、思わず返事に窮してしまった。

………

蒼に稲妻の羽織、半月を負う羽織。
奥州の双竜の視線の先には、烈火の如く深紅の羽織と迷彩の忍。
何度目の邂逅か。
否。
互いが好敵手と認めた相手故、何度でも再会するのかもしれない。
政宗と幸村が互いを惹き合うように、傍らの右目と忍もまた。




end.
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たまらん…!!

小十郎が男前で佐助が可愛すぎる!まさか続編が読めるとは…ありがとうvv
超堪能した(笑)
  • 鈴雅
  • 2011/06/08(Wed)22:39:54
  • 編集

良かった(笑)

こちらこそ、前回に反応してくれたからこそできましたので(^-^)堪能していただいたようでなによりです♪
  • 瑞季
  • 2011/06/08(Wed)23:03:28
  • 編集

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プロフィール

HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇

好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。

備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。

気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。

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