monocube
monoには秘めたイロがある。
見えないだけでそこに在る。
数え切れないそれは、やがて絡まり色彩(イロ)になる。
さぁ、箱をあけてごらん。
箱庭(ナカ)は昏(クラ)く底なしの闇色(モノクロ)。
深い闇に融けたらいいのに。
日々の戯言寄せ集め。
当サイトは作者の気まぐれにより、自由気ままに書きなぐった不親切極まりない戯言の箱庭です。
竜胆。
その背中をずっと見てきた。
その背を預けてもらうずっと前から。
頑なに全てを拒絶する(しかなかった)その背中を、ずっと。
※右目視点の蒼主従の話。竜に似合う花は?という質問に竜胆と答えたのが始まり。竜胆の花言葉にまつわるお話…にするつもりが…続きは折りたたみ↓↓
『竜胆』
哀しんでいる貴方を愛する
>私は貴方が哀しんでいる時貴方を最も愛する
「母様、母様っ…ぅあああぁぁぁぁ」
火がついたように泣く赤子のように、幼い隻眼の子どもは大声で泣き叫ぶ。
最初に失ったのは、最愛の母親から与えられるはずだった愛情。
それから我が侭になって、癇癪を起こすようになった。
どんなきっかけでもいい、母親の関心を自分の方に向けたかったのだろう。
物に側仕えに女中に当たっては母を求めていた。
だがそれも弟が生まれてパタリと止まる。
母親は幼いということもあるが弟に付きっ切りになり、
目に入れても痛くない、とばかりに甘やかすようになって。
その目が自分に向かないと諦めたのかもしれない。
何の皮肉か、弟は見目美しい子どもだった。
後に仕えることになるその主は、言葉を閉ざし自分の世界をも閉ざした。
でもその背中はいつだって絶えず悲鳴を上げているように見えた。
そんな姿を見将来を案じた父親は、母親の分の愛情も含め世話を焼いた。
そして。
「…梵天丸様、」
後の人生において唯一無二の存在であるこの主と対面することを許されたのだ。
初対面は、一言も、一瞥さえも与えられないまま終わってしまったのだが。
………
「…何だ、小十郎」
視線に気付いて主は笑う。
「…いえ、ただ今までのことを思い出していたのです」
(貴方に出会って、傷つけて傷つけられた日々を)
あの弱々しかった背中を。
………
次に失ったのは自分を愛してくれた父親。
初陣を終え、逞しくなってきた頃だ。
その亡骸を腕に抱き、
「―――…父様、」
取り乱すことも泣き叫ぶこともなく、内側で暴れる感情を抑え込んでいた。
幼かった子どもは、着実に自分の立場を理解しそう振舞うことを覚えていた。
(けれど、知っている)
ひとりになったその時に肩を震わせ声を殺して、大切な人の死を悼み、痛んでいたこと。
けれどそれを知りながら何も出来ない自分にただ歯痒さだけが募った。
その次に失ったのは、血の繋がった自分の弟。
引き金は母親だったが、自分の立場を理解した上で、自らの手で殺した。
自分の愛しい母親を独占していた弟。
けれど心優しい賢い弟。
その時あったのは伊達の家督を継いだ者として、
何があっても自分が伊達の家を守っていかなければならないという責任と自負。
(また、)
自分には何も出来ないのだろうか。
「政宗様、」
名を呼び座敷に入り後ろ手で襖を閉める。
まだ白昼だというのに、座敷の中は本当に暗くて。
「―――…小十郎、」
応えた声は消え入りそうな程頼りないもので。
「…お前も、俺を、怖れるか…?」
身内を殺し、大切な人は消え、顔に残る異形の痕。
「いいえ、政宗様」
本当は傍でずっと見守り手を伸ばし抱きしめて甘やかして甘やかして。
いつの間にか愛しい感情があって、けれどそれを表に出すことは許されなくて、だからずっと何も出来ずに。
立ち尽くすその傍に歩み寄れば、着物の合わせを掴まれて押し付けられる額。
他の家臣には見せられないこんな姿を自分には見せてくれる。
寄りかかってくれる。
(…あぁ、そうか)
この腕はきっと、貴方を抱きしめる為にあるのかもしれない。
戸惑いながらもその華奢な背中に腕を回して包み込む。
腕の中の小さな身体が微かに震えて、それさえもこんなに愛しい。
(大声で膝を折り崩れるように泣いていた貴方が)
大声で泣かなくなった。
崩れ落ちなくなった。
けれどいつだってその背中は小さく弱くて、数え切れないほどの深い深い傷を負っていた。
でも今この瞬間だけはすべてを許して欲しい。
立場も身分も関係なく、この腕の中にいる間だけは大声で子どものように泣けばいい。
すべて受け止めるから。
押し付けられていた額をそのままに寄りかかってくる身体。
(誰よりも何よりも全身全霊で貴方を、貴方だけを愛す、)
その想いを口にすることは叶わなくても。
傷ついても進むことをやめない、
優しさも甘さも連れて何一つ見捨てない貴方の傍で片時も離れず、痛みを共有して。
そして、ずっと共に歩いてきた。
「…貴方は、本当に強くなられた」
剣の腕も、心も。
そう感慨深く呟いたら、大袈裟だと笑われた。
「それに大事なことを忘れてる」
不敵に笑う主は、あの時と同じ様に胸に額を押し付けて。
「俺の居場所が此処にある、お前が傍にいるから、俺は強くなれるんだ」
自分を安く見るな、小十郎と注意するように言った。
「お前は、この竜の右目なんだからな」
叶わぬと理解っている想いでも。
(それでも、俺は…)
ただ、この人と共に。
その背を預けてもらうずっと前から。
頑なに全てを拒絶する(しかなかった)その背中を、ずっと。
※右目視点の蒼主従の話。竜に似合う花は?という質問に竜胆と答えたのが始まり。竜胆の花言葉にまつわるお話…にするつもりが…続きは折りたたみ↓↓
『竜胆』
哀しんでいる貴方を愛する
>私は貴方が哀しんでいる時貴方を最も愛する
「母様、母様っ…ぅあああぁぁぁぁ」
火がついたように泣く赤子のように、幼い隻眼の子どもは大声で泣き叫ぶ。
最初に失ったのは、最愛の母親から与えられるはずだった愛情。
それから我が侭になって、癇癪を起こすようになった。
どんなきっかけでもいい、母親の関心を自分の方に向けたかったのだろう。
物に側仕えに女中に当たっては母を求めていた。
だがそれも弟が生まれてパタリと止まる。
母親は幼いということもあるが弟に付きっ切りになり、
目に入れても痛くない、とばかりに甘やかすようになって。
その目が自分に向かないと諦めたのかもしれない。
何の皮肉か、弟は見目美しい子どもだった。
後に仕えることになるその主は、言葉を閉ざし自分の世界をも閉ざした。
でもその背中はいつだって絶えず悲鳴を上げているように見えた。
そんな姿を見将来を案じた父親は、母親の分の愛情も含め世話を焼いた。
そして。
「…梵天丸様、」
後の人生において唯一無二の存在であるこの主と対面することを許されたのだ。
初対面は、一言も、一瞥さえも与えられないまま終わってしまったのだが。
………
「…何だ、小十郎」
視線に気付いて主は笑う。
「…いえ、ただ今までのことを思い出していたのです」
(貴方に出会って、傷つけて傷つけられた日々を)
あの弱々しかった背中を。
………
次に失ったのは自分を愛してくれた父親。
初陣を終え、逞しくなってきた頃だ。
その亡骸を腕に抱き、
「―――…父様、」
取り乱すことも泣き叫ぶこともなく、内側で暴れる感情を抑え込んでいた。
幼かった子どもは、着実に自分の立場を理解しそう振舞うことを覚えていた。
(けれど、知っている)
ひとりになったその時に肩を震わせ声を殺して、大切な人の死を悼み、痛んでいたこと。
けれどそれを知りながら何も出来ない自分にただ歯痒さだけが募った。
その次に失ったのは、血の繋がった自分の弟。
引き金は母親だったが、自分の立場を理解した上で、自らの手で殺した。
自分の愛しい母親を独占していた弟。
けれど心優しい賢い弟。
その時あったのは伊達の家督を継いだ者として、
何があっても自分が伊達の家を守っていかなければならないという責任と自負。
(また、)
自分には何も出来ないのだろうか。
「政宗様、」
名を呼び座敷に入り後ろ手で襖を閉める。
まだ白昼だというのに、座敷の中は本当に暗くて。
「―――…小十郎、」
応えた声は消え入りそうな程頼りないもので。
「…お前も、俺を、怖れるか…?」
身内を殺し、大切な人は消え、顔に残る異形の痕。
「いいえ、政宗様」
本当は傍でずっと見守り手を伸ばし抱きしめて甘やかして甘やかして。
いつの間にか愛しい感情があって、けれどそれを表に出すことは許されなくて、だからずっと何も出来ずに。
立ち尽くすその傍に歩み寄れば、着物の合わせを掴まれて押し付けられる額。
他の家臣には見せられないこんな姿を自分には見せてくれる。
寄りかかってくれる。
(…あぁ、そうか)
この腕はきっと、貴方を抱きしめる為にあるのかもしれない。
戸惑いながらもその華奢な背中に腕を回して包み込む。
腕の中の小さな身体が微かに震えて、それさえもこんなに愛しい。
(大声で膝を折り崩れるように泣いていた貴方が)
大声で泣かなくなった。
崩れ落ちなくなった。
けれどいつだってその背中は小さく弱くて、数え切れないほどの深い深い傷を負っていた。
でも今この瞬間だけはすべてを許して欲しい。
立場も身分も関係なく、この腕の中にいる間だけは大声で子どものように泣けばいい。
すべて受け止めるから。
押し付けられていた額をそのままに寄りかかってくる身体。
(誰よりも何よりも全身全霊で貴方を、貴方だけを愛す、)
その想いを口にすることは叶わなくても。
傷ついても進むことをやめない、
優しさも甘さも連れて何一つ見捨てない貴方の傍で片時も離れず、痛みを共有して。
そして、ずっと共に歩いてきた。
「…貴方は、本当に強くなられた」
剣の腕も、心も。
そう感慨深く呟いたら、大袈裟だと笑われた。
「それに大事なことを忘れてる」
不敵に笑う主は、あの時と同じ様に胸に額を押し付けて。
「俺の居場所が此処にある、お前が傍にいるから、俺は強くなれるんだ」
自分を安く見るな、小十郎と注意するように言った。
「お前は、この竜の右目なんだからな」
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プロフィール
HN:
瑞季ゆたか
年齢:
40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/10
職業:
引きこもり人嫌いの営業AS見習い
趣味:
読書・音楽鑑賞・字書き
自己紹介:
◇2006.11.16開通◇
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
気まぐれ無理なくリハビリのように文章やレポを書き綴る日々…褒められて伸びるタイプです。
好きな音楽:Cocco、GRAPEVINE、スガシカオ、LUNKHEAD、アジカン、ORCA、シュノーケル、ELLEGARDEN、LINKIN PARK、いきものがかり、チャットモンチー、CORE OF SOUL、moumoon…などなど挙げたらキリがない。じん(自然の敵P)さんにドハマり中。もう中毒です。
好きな本:長野まゆみ、西尾維新、乙一、浅井ラボ、谷瑞恵、結城光流(敬称略)、NO.6、包帯クラブ、薬屋シリーズなどなど。コミック込みだと大変なことになります(笑)高尾滋さんには癒され、浅野いにおさんには創作意欲を上げてもらいつつ…あでも、緑川ゆきさんは特別!僕の青春です(笑)夏目友人帳、好評連載中!某戦国ゲームにハマり我が主と共に城攻めを細々とのんびり実行中(笑)サークル活動も嗜む程度。他ジャンルに寄り道も多く叱られながらも細々と更新しています…たぶん。
備考。寒さに激弱、和小物・蝶グッズとリサとガスパールモノ・スヌーピーモノと紅茶と飴と文房具…最近はリボンモノもこよなく愛する。一番困るのは大好物と嫌いな食べ物を聞かれること。
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